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125話 課題:トラブル時の対処




和やかな茶屋にふさわしくない

低い(うな)り声に郁人は顔を向ける。


(誰だ?

ポンドの背中しか見えないな……)


しかし、ポンドがその声の主から

郁人を庇っているため見えなかった。


ポンドは郁人を守りながら

唸り声の持ち主に尋ねる。


「兄貴達……?

それはどのような方でしょうか?

覚えがありませんな……」

「とぼけんじゃねえ!

てめえに兄貴達はボコボコに

されたんじゃ!」


間違える筈がねえ!と

破落戸(ごろつき)は声を荒げた。


「俺ははっきり覚えとる!

その声は間違いなく黒鎧じゃろ!」

「……もしやあの時の破落戸の

お仲間ですか。

仇討ちに来たという訳ですな」


破落戸の言い分にポンドは

合点がいったようだ。

ゆっくり茶を飲む。


「このような心を穏やかにさせる場で

挑むなど、少しは空気を読んで

もらいたいものですな」

「てめえだって白昼堂々兄貴達を

ボコボコにしたじゃろがっ!!」


怒声をあげる持ち主に

ポンドはため息を吐く。


「あれは場を変える前にあちらが

武器を出し、襲い掛かったからですな」


街中で武器を使いたくなかったです

とポンドはこぼす。


「武器を向けた時点で、それ相応の

覚悟を決めてもらわなくては。

もしや……覚悟も無しで武器を

構えたのですか?

甘いにも程があります」

「なんじゃとおおおおおおお!!」


声からでも分かる相手の怒り具合に

郁人は頭がくらくらする。


(どうすればいいんだ?!

ここで暴れるのは絶対ダメだろ!

しかも今は作戦中だ。

目立ちすぎて、犯人が手が

出しにくい状況になったら

いけないし……!!)

<パパ。

これも課題みたいなものだって>


どうしようか慌てる郁人にチイトが告げた。


<他に用意してあったけど

ちょうどいいから

この場面を乗り切れって>

(嘘っ?!)

<本当だよ。

だからポンドわざと煽ってるし>

(マジかよ……?!)


郁人は思わず頭を抱えそうになった。


<というか、わざととはいえ

パパをエスコート中に

余所見(よそみ)はどうかと思うな。

蝿にたかられてウザいのは

わかるけどさ>


俺なら斬り刻むよ

とチイトがぼやいた。


(余所見……それだ!)


チイトの言葉に郁人は閃いた。


(ライコ! ちょっとアドバイスが

欲しいんだけどいいか?!)

〔えっえぇ、いいわよ〕


閃いた郁人はライコに相談した。


ーーーーーーーーーー


破落戸が今にも襲い掛かりそうな

雰囲気に、店員はどうするか考えた。


「………あの場に出るのは

怖いけど、行くしか……!!」


2次被害を考えて、勇気を振り絞り

制止しようと前に出る。


ー が


「旦那様」


水晶のように透き通った声が

店員より先に声をかけた。


「旦那様ったらヒドイわ」


透き通った声の持ち主は

隣に座る色男の顔に手を伸ばす。


「私のエスコートをしているのに……

余所見なんていけませんよ」


白魚のような手で顔を自身に

向けさせる。


ー 「私だけを、見てくださいな」


色男に花開く笑みを魅せた。


「……可憐だ」

「月光に照らされた百合のように

清廉だわ」

「彼女の笑みにインスピレーションを得た!

傑作が生まれそうだ!」


その笑みに騒ぎを見ていた者達は

目を奪われる。


「……………」


そんな目を奪う、春の訪れのような

笑みに色男はしばし固まると

口角を上げた。


「……これは返されてしまいましたな」

「ふふ。お返しです」


悪戯が成功した子供のような

無邪気さに更に目を奪われた。


目の前で仇である男に

女といちゃつかれ、

破落戸は荒れた。


「おい!!

なに女といちゃついて……」

「ごめんなさいね。

旦那様は私が先約済みなの」


少女は色男の腕を組み、

破落戸を初めて見る。


「今日のところは

退いてくださらないかしら?

……ダメ?」


瞳を潤ませ、小鳥のように

首を傾げて、少女は見つめた。


「……………ぐっ!!」


破落戸は顔を真っ赤にして

見つめたまま固まる。


「……あの」


1歩も動かぬ様子に少女が

声をかけた。


「ああああああああ!!!!」


脱兎のごとく走り去っていった。


「……納得してくださったのかしら?」

「走り去っていったのですから

そうかと」

「それなら良かったわ」


色男の言葉に少女は胸を

撫で下ろす。


「緊張で喉が渇いてしまったわ。

お茶を貰おうかしら」


心がほぐされ、吐息を洩らす。


「すいません。お茶を……」

「はい! どうぞ!」


声をかけた瞬間に用意された。


「あら?」


明らか1人分ではない量の

茶請けがついていた。


「あの量が……」

「サービスです!

もっと追加も出来ますが!」

「いえ、もう大丈夫です。

心配り、ありがとうございます」


少女は感謝を告げると店員は

先程の破落戸のように顔を

赤くし去っていった。


(……成功したと思ったんだが、

怒らせてしまったのか?)


その背中を少女、郁人は見つめる。


(破落戸と店員が同じ顔で動きを

したしな……。

まあ、退いたのなら成功だよな。

うん)

〔成功よ! 大成功! 完全勝利ね!〕


ライコは声を弾ませる。


〔瞳を潤ませたり、小首を傾げるのも

上手くいってたわ!

相談された時、出来るか心配だったけど……

案外出来るじゃない!〕

(この姿だからかもしれないな。

今の俺は、有望な見習い。

その姿をしてるからかも)


今の俺は見習いだからと

郁人は告げた。


(……それにしても、

あの絡んで来た人、

思いのほか、若かったな)


郁人は走り去った破落戸の

姿を思い出す。


(俺より年下なのは確実。

声で厳ついイメージが

あったし、ここで暴れないか

心配だったけど……

無事に済んで良かった)


渇いた喉を潤し、茶請けを

いただく。


「この甘さがたまらないわ」


お茶の苦味と茶請けの甘さが

調度よい塩梅を生む。


「……マスター」


色男、ポンドはそんな郁人に

小声で尋ねた。


「先程のはどこで覚えたのですかな?

思わず胸が高鳴ってしまいそうに

なった程です」


あれはヤバかったと頷くポンドに

郁人は人差し指を唇の前に立て

悪戯に微笑む。


「秘密です」


ふふと微笑む郁人にチイトは

思わず声をかけた。


<パパ! すごかったよ!

とても綺麗だった!>


瞳を輝かせているのが

声からでも想像できる。


<今度俺と遊ぶときもして!

腕組んで首傾げるの!>

(普段なら出来ないと思うぞ。

この格好だから出来たし)


見習い姿じゃないと出来ない

と告げる郁人にチイトはお願いする。


<じゃあ、その格好で!

俺もエスコートしたい!!

だからお願い、パパ!!>

(……いいよ。

日にちもまた決めような)

<うん!>


声を曇らせるのが躊躇(ためら)われるくらい

無邪気にお願いされ、了承してしまう

郁人。


<やったやった!

絶対だからね!>


チイトは更に声を弾ませ、

聞いてるだけでも嬉しさが

伝わる程の返事をした。


〔そんな安請け合いしてよかったの?

その姿は見習いなんだし……

って、あんた表情の動きが

ぎこちなくなってきてるわよ?!〕


ライコに指摘され動かして

みようとすると、確かに動きが

鈍くなっていた。


(本当だ!

これはまずいな……)


郁人は神々の生き血を

飲むためにポンドに声をかける。


「ごめんなさいね。

化粧直しに行ってもいいかしら?」

「構いませんよ。

こちらでお待ちしてます」


郁人は了承を得ると、

茶屋内のではなく、外にある

男女共用トイレに向かう。


(いくら見習いの演技をしていても、

女子トイレに入るのはな……)


あそこは絶対に入ってはいけない

領域だから、と共用トイレに入った。


「よいしょっと」


フェイルートから貰っていた神々の

生き血(無臭)を一気に飲み干す。


「やっぱり美味しいな。

……匂いが無いのが残念だけど」

〔アルコール度数は変わって

ないんだから我慢しなさい。

匂いがあったら、近くにいる弱い奴

なんて速攻で酔うか気絶なんだから〕


一気飲みした郁人に引きながら

ライコは息を吐く。


小瓶を巾着に仕舞うと、

胸元からユーが出て来た。


どうやら狭かったらしく、

体を伸ばしている。


「狭かったのかな?」

〔そうみたいね。

化粧直す間は出しといてあげたら?〕

(そうだな)


郁人は頷き、化粧を直す。

ユーは肩に乗ってそれを見守る。


(……化粧に慣れてしまった

自分がいることに驚きだな。

師匠とライコのスパルタで

バッチリ身に付いているし)

<マスター>


慣れた自分に思わず遠い目をしていると、

ポンドの声が頭に響く。


(どうしたポンド?)


修行中に知ったのだが、従魔とは

このように伝達することが可能なのだ。


<そちらに怪しい者が向かいました。

おそらく、犯人の仲間かと>

(わかった。心構えしとく)


ポンドからの伝達に両頬を叩き、

郁人は気合いを入れる。


(捕まったら、相手から情報を引き出し、

出来たら令嬢が自らが関わっているとの

言質を取る。

失敗は許されない!)


「ユー、戻って。

開始するから」


郁人の言葉に、悠々と飛んでいた

ユーは素早く胸元に戻る。


<あたしも出来る範囲で

サポートするから。

あんたなりに頑張りなさいな〕

(ありがとう、ライコ)


郁人は深呼吸をし、気持ちを整え

トイレから出た。


出てすぐ仕掛けられるのではと

疑っていたが、何も起きない。


遠くにはポンドの姿が見え、

怪しい輩は見当たらない。


(?

何も起きないな……

ポンドの思い過ごしだったとか?)


郁人はそのままポンドの元へ向かう。

警戒されぬように、普段通りの

ペースで進む。進む。


ー 突然、息が出来なくなった。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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