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124話 挨拶回り




御披露目道中が終わり、

いつも通りの街に戻ったのだが、

ある2人がその日常を変えた。


「どうぞ、こちらに」


金髪に端正な顔立ちの

着物を着た色男は、

隣にいる少女に声をかけた。


「ありがとうございます」


声をかけられた側も色男に負けず、

艶やかな黒髪を下に結び、

鳥がモチーフの着物を着た美少女だ。


少女は礼を告げると、エスコートする

色男と腕を組み、ゆったり歩いていく。


「……絵になるってこの事を言うのね」

「あの男性、とっってもかっこいいわ」

「あんな方にエスコートされたい!」

「あの女の子も綺麗……!!」

「どこかの国のお姫様かしら?」


歩いているだけでも絵になる

2人に街の人々は見とれる。


ー そして気付いた


「ねえ! あの子って……?!」

「さっきの輿の子じゃないか?!」

「街にいるってことは挨拶回りか!」

「挨拶回り?」

「知らねーのか?

挨拶回りは、ようするに

フェイルート様方から指名された

男と街を散策して、いずれあの子と

こんな風に出来ますよーって

宣伝していく事だ」

「そうなのか!」

「いいなあ……!!

俺もあの子と歩いてみてーな!」

「指名された殿方……

とても良い男ねえ」

「あのお声……

ポンドさんじゃないの?!」

「嘘っ!? あの黒鎧さん!!」


人々が色めき立つ中……


(……本当に大丈夫? 変なとこないか?)


郁人は心配でポンドの腕を

きゅっと掴んだ。


(すごい見られているし……

道中のときは気にならなかったけど)


周りの目が気になり、ソワソワと

視線をさ迷わせる。


〔大丈夫よ。

メイクも直して、着物もバッチリ!

あんたが心配するような事は

何もないわ〕


ライコが問題ないわ

と太鼓判をおした。


「……マスター」


ポンドが郁人にしか聞こえない、

小声で囁きかける。


「そう不安がる必要はございません。

何があっても私が必ずフォローいたします。

ですから、堂々と楽しみましょう。

ー それに」


ポンドは柔らかい笑みを浮かべる。


「エスコートの際は相手に

集中するのがマナー。

私だけを見てください、お嬢さん(フロイライン)

「……ありがとう、ポンド」


面を食らったが、それで

ホッと気が抜けた郁人は笑った。


〔……これで気が抜けるって大したものね。

結構くらっと来た人がわんさかいるのに〕


ライコが言うように辺りには

ポンドの笑みにやられた女性が

顔を赤くし、ぼうっとしている。


が、周囲に気付かなかった郁人は

楽しむことに専念すると決めた。


「旦那様。

私をどこに連れていってくださるの?」

「では、貴方様の好きな物が

ある場へ行きましょう。

気になると言っておられましたからな」

「まあ! それは楽しみ!」


郁人はライラックの真似をしながら、

ポンドにエスコートされた。



ーーーーーーーーーー



2人は街の堀に流れる川の上、

舟に乗りながら景色をゆったり

楽しんでいる。


「冷たくて気持ちいいわ」


裾がつかないように手で押さえながら、

川の水に手を浸ける。


川は底が見えるほど透き通っており、

水草や魚の様子が見てとれる程。


「それに、とても綺麗だわ。

泳いでる魚の様子まで見えるもの。

こんな綺麗な川はどこにもないでしょうね」

「お嬢さん。

よろしければ、ここで1曲

聞かせてくれませんか?

良ければマリンリーガルズも

見られると聞いた事がありましてな」


ポンドの言葉に郁人はハッとする。


(フェイルート達が言ってた

“課題“の1つだな……!)


挨拶回りは見習いにとって、

ただの観光ではなく、試練だと

聞いていた。


見習いは舟の上で箏を弾いたり、

茶屋で作法など、様々な場で自身が

どれ程出来るのかアピールしていき、

その過程を見て店での立ち位置等も

決めていくそうだ。


(……気合い入れないとな!

ここで決めないとあんなに頑張っている

店の人達に見せる顔がない。

俺をサポートしてくれたフェイルートや

レイヴン、師匠達にも報いないと!)


郁人は気を引き締めた。


「喜んで」


郁人は用意されていた箏の前に移動し、

姿勢を正して座り爪を装着する。


「…………」


深く息を吐き、箏に触れる。


~♪~~♪♪


もう楽譜を見なくとも、指が

勝手に動く。

指は流麗なメロディーを奏でる。


(……やっぱり、楽しいな)


弾きながら郁人は懐かしさも感じた。


小さい頃は絵を描くのと同じくらい

音楽が好きだったのだ。


もし、あの出来事がなければ、

音楽の道を目指していた可能性は

濃厚なのだから。


(今までのスパルタのおかげで、

歌以外ならまだ大丈夫みたいだ。

指も前よりスムーズに動くし、

考える余裕も出来た)


自身が1歩進んだ気がして、

頬が緩む。


そして、演奏が終わった。


「……ふぅ」


失敗することなく弾けて、

郁人は胸を撫で下ろす。


「お見事ですな。

あまりの美しさに聞き入って

しまいました」


前で聞いていたポンドは手を叩き、

心からの賛辞を贈る。


〔あんたスゴいじゃない!!

あたしも聞き入っちゃったわ!〕


ライコや川沿いにいつの間にか

集まっていた人々も拍手を贈る。


「ありがとうございます」


贈られる拍手に頭を下げて、

感謝を述べる。


「わっ!」


突然、舟が揺れた。


「大丈夫ですか!」


揺れで後ろから川に落ちそうになった

郁人を、ポンドが手を引いて防ぐ。


「助かりました。

ありがとうございます」

「原因は……なんと?!」


ポンドの驚いた声につられ、

郁人も振り向く。


「……すごい」


そこには水飛沫を上げながら

虹の輝きを放つものがいた。


3mを優に越す巨体の姿は

リュウグウノツカイに似ており、

長い髭を揺らめかせ、白銀の鱗は

光に当たり虹の輝きを放つ。


あまりに雄大で、壮麗な姿に息を

するのも忘れてしまう。


〔マリンリーガルズ……!?

本当にここに居たのね!?〕


ライコは思わず声をあげた。


「ありゃあマリンリーガルズ

じゃないか!?」

「マリンリーガルズだ!!

とっても綺麗!!」

「滅多に見られないというのに……!」

「あの嬢ちゃんの音色に惹かれて

出てきたのか?!」

「マリンリーガルズは音楽に

惹かれるって聞いたことあるぞ!」


全員の視線を浴びながら、

マリンリーガルズは再び川に

飛び込む。

水飛沫と川を揺らしながら水中へと

消えていった。


「……あんなに大きいものは

滅多にいないでしょうな」

「そうですね……

って、あら?」


郁人の手のひらにはいつの間にか

白銀の鱗が存在していた。

ダイヤモンドのように輝き、

虹を放つ。


先程まで見とれていたモノだ。


「これ……」

<“驚かせてごめん“だそうだよ。

フェイルートがそう言ってるって>


影に控えているチイトが鱗の意味を

教えてくれた。


「気にしなくていいのに……

でも、ありがたく貰いますね」


郁人は鱗に見とれながら、

巾着に大切にしまった。


「お嬢さん。もうすぐ着きますよ」


マリンリーガルズの余韻に

浸っていたポンドは舟着き場に

気付き、声をかけた。


「どうぞ、お手を」

「はい」


ポンドは手を差し出し、郁人は

その手を取る。

そして舟から降りて、階段を上がる。


「……わあっ!」


視界に広がるは稲の絨毯。

黄色と青がブロックごとに分かれて

チェック柄に見える佳景だ。


「稲だわ!」

「ここで貴方様の好きな米が

生産されています。

1年中食べれるように工夫が

されているようです

……気になると言っておられ

ましたからな」

(覚えてくれていたんだ……!)


ポンドは微笑み、覚えてくれていた

事実に胸が熱くなる。


(言った俺自身が忘れていたのに……

すごいな)

〔道理でモテる訳ね〕


郁人とライコはポンドが

モテる理由を体感した。


「覚えていてくださって嬉しいわ」


郁人は自分の気持ちを素直に伝えた

微笑みを浮かべた。


<俺だって覚えてたからね!!>

「わっ、私も覚えていたぞ!」


影からチイト、いつの間にか

隣に居たジークスが張り合う。


「……2人もありがと」


郁人は2人に聞こえるくらいの

小声で礼を告げる。


「では、あそこで一服いたしましょう。

あの茶屋ではここで取れたものを

使用したおはぎや団子が食べられる

そうですよ」

「まあ! それは美味しそうね!

是非食べましょう!」


ポンドの提案に満面の笑みを浮かべ、

早く食べたい気持ちの表れか、

腕を引っ張り、郁人は茶屋を目指す。


「嬉しそうね、あの女の子。

見ていたら心が和んでいくわ」

「あまりに美男美女だから

嫉妬を通り越してもう拝みたい

くらいよ」

「あぁやって喜んで貰えるなら

どこにだって連れていきたくなるな」


その様子を人々は微笑ましく

見つめていた。


「………………」


別の視線を浴びせる者も

存在している事に郁人は気付かず、

ポンドはそれを背中に感じていた。



ーーーーーーーーーー


「このおはぎ美味しいわ!」

「そうですな。

このような菓子は初めて食べましたが、

素朴な味わいがなかなか……」


茶屋にある縁台に座り、

2人は甘味を楽しんでいる。


口いっぱいに広がるしっとりした

あんこの甘さ、米の粒々した程好い食感。


いつの時代、いや世界が変わっても

変わらない。

日本の素朴な美味しさだ。


(おはぎはやっぱりこれだよなあ!)

〔あんこ初めて食べたけど……

意外とイケるわね〕


ライコも味覚を共有したのか、

あんこの美味しさに感動している。


(ここは団子もあるようだし、

次はみたらし頼もうかな……。

いや、よもぎも捨てがたい……)


メニューと睨みあっていると


「てめえ!

よくも兄貴達をやってくれよったな!」


低く挑みかかるような声が聞こえた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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