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123話 囮作戦開始




正午、夜の国の大通りは

溢れんばかりの人で賑わっていた。


「楽しみだなあ!」

「遂にこの時が来たんだ!」

「押さないでください!

御披露目(おひろめ)道中の道を

塞いでしまいますので!」


花咲門からこの国のトップ2人が

経営する蝶の夢までの道は

綺麗に人が割れており、

たくさんのぼんぼりが

飾られている。


ー それもそうだろう、

なんせこの道は今から始まる

“御披露目道中“のメインが

通るのだから。


メインの噂は2週間程前から

街を駆け巡り、知らない者はいない

注目の的だ。


“トップ2人が何度も頼み込み、

ようやく来てくれた有望株。

あのタカオと並ぶ程の器量良し“

との噂。


「どんな方なんでしょうね?」

「あのタカオ様と並ぶ程とは……

相当な人なんじゃねえか?」

「早くお目にかかりたいものだ!」


全員が有望株を見たいがため

今か今かと瞳を輝かせながら

首を長くして門を見つめる。


ー「花咲門開門ーーー!!」


待ちに待った合図が聞こえた。


全ての視線が門に向かう。


門は重厚な音を立て口を開けた。


先頭には着物に身を包み、

桜模様のぼんぼりがついた

棒を持った幼子が2人。


後に着飾った女性達が2列に並び

ゆっくり歩く、そして後ろには

男達が豪華な輿(こし)を担いでいる。


ー その輿にメインが座していた。


蝶の夢に勤める者の髪型は自由だが、

この見習いは艶やかな黒壇の髪を

結い上げ、烏の(かんざし)を差していた。


上げた髪から覗くうなじは

ひどく(なまめ)かしい。

黒のチョーカーを付けているが、

その艶かしさが損なわれる事は

ない。


チョーカーは肌の白さを際立たせ、

雪原のように白い肌に触れれば

溶けて消えてしまいそうだ。


憂いを帯びた潤んだ瞳に、

血のように赤い唇、表情は

まるで人形のようだが、

まさに噂通りの月の下に

咲く花のように楚楚(そそ)とした

美少女が座していた。


「こりゃとんでもなく

別嬪さんじゃねえか!」

「清楚で可憐……!!

あの子の周りの空気だけ

透き通っているようだ!」

「隣に居てくれるだけで

俺は……もう……!!」

「おい!あの着物に簪は?!」

「嘘でしょ!?」


そして、身に纏う着物や簪にも

観客はざわめく。


着物には鳥が優雅に飛び、簪は翼を

重ねたものがモチーフになっている。


ー それはトップの1人が認めている

象徴、証だ。


タカオ以来の快挙をこの見習いは

成したのだ。


「こりゃ凄い子が来たものだ……!!」

「レイヴン様のお墨付きとは……

早く相手をしてもらいたいなあ!!」

「あんな美人を探し当てた

レイヴン様の腕はやはり凄いねえ!」

「いつから店に出るんだろうな?」

「見習いってことは、源氏名は

貰ってないんだろ?

まだ先じゃないか?」

「いや、あれほどの器量良しだ……

すぐに出るだろ!

今のうちに金を貯めておかないと!」

「タカオ様と並んだ姿が

見てみたいものだ……!!」


人々の期待に満ちた声を背景に、

輿はゆったりと進んでいく。


そして、蝶の夢が見えてきた頃合いで

輿は止まり、降り口に階段と長い

番傘を持った男が待機する。


これは輿から降りて蝶の夢まで

進む合図だ。


全員に一挙一動を見守られながら、

少女は輿から優雅に降りてきた。


そして蝶の夢に続く道を

上位の者しか出来ない

典麗な外八文字歩きで進みだす。


高下駄を転がすような失態はせず、

簪の揺れる涼やかな音しかさせない。


見習いとは思えぬ技術に観客は

目を疑う。


「おいおい……!?

ありゃ本当に見習いかっ!?」

「俺は夢を見ているのか?!」

「風の噂で聞いたが、あの有望株、

頼まれたからには期待に答えたいと

必死で勉強したらしいぞ!」

「なんて健気な子じゃないか……!!」

「あんな子に手酌してもらえたら……

もう死んでも良い!!」


人々の歓声を浴びても眉1つ

動かすことなく、少女は毅然と進む。


「まさか!あれはっ!?」


道中の先に気づいていた1人が

声を上げて指をさす。

声につられて先を見た観客は

更に声を上げた。


「レイヴン様がいるぞ!!」

「いつもはおられないというのに……!!」

「それほど期待しているという事か!?」

「レイヴン様あああああああ!!」

「今日もカッコいいいいいいいい!!」

「お慕いしておりますううううう!」


黄色い声にレイヴンは快活に

笑いながら手を振る。


「きゃあああああああ!!!」

「レイヴンしゃまあああああ!!」


声は1段と黄色くなった。


少女が前に辿り着くとレイヴンは

真剣な顔つきになり手を差し出し、

エスコートに入る。


少女はエスコートを受けながら、

視線を背に1身に受けながら店に

入る。


ー と思われた。


「え?」


艶やかな髪を揺らし振り返り、

観客に向かって少女は微笑んだ。


日向にいると錯覚してしまい

そうになる、暖かな春の微笑み。


先程の月のような無表情とは

裏腹の、日向の微笑み。

その落差に観客は目を見開きながら、

微笑みに見とれる。


少女はまた月に戻ると、

店に入っていった。


「うおおおおおおお!!」

「美しい………!!!」


黄色い声が地鳴りのように

響き渡った。



ーーーーーーーーーー



少女は店内の1室にレイヴンと

共に入ると女将が(ふすま)を閉めた。


「………第1段階クリアでございます」


レイヴンは見ている者が安心する

笑みを浮かべた。


「………………ヘマして無かったか?」


かけられた言葉に胸を撫で下ろし、

足下にある影にも声をかけた。


「大丈夫だったよ“パパ“!」


瞬間、影からチイトが現れ、

少女、いや郁人に抱きついた。


チイトが出て来たのを合図に、

空間が揺れて皆が姿を現す。


フェイルートの術で姿を

消していたのだ。


「お見事でした。

誰も我が君とは疑いもしません」

「上出来だ。

俺も教えた甲斐があった」


フェイルートは手を叩き、

ナランキュラスは腕を組み深々と

頷く。


「……あぁ。

本当に誰も君とは思わないだろう。

知っている俺でも疑うくらいだ。

それにしても、本当に綺麗だ……」


ジークスは郁人を見つめ、

少し目をとろんとさせながら呟く。

ポンドがそんなジークスの肩を叩く。


「ジークス殿しっかりしてください!

今目の前にいるのはマスターです!

ど真ん中の女性ではありませんよ!」

「すっすまない!!」


肩を叩かれ、ハッとしたジークスは

頭をかく。


〔完璧だったわ。

あんた本番に強いタイプなのね、

感心したわ。

最後に振り向いての微笑みは

アドリブよね?

あの微笑みどこかで見た覚えが

あるのだけど、誰かを参考にしたの

かしら?〕


ライコの声が聞こえる。

が、ヘッドホンからではない。

首にはめている“チョーカー“からだ。


ヘッドホンを付ける訳には

いかないだろうと、ライコが

連絡手段を増やす為に

チョーカーを渡したのだ。


(母さんだ。

師匠に言われて考えた結果、

母さんを参考にしようと思って)

〔良い人選じゃない!

あの女将さんなら文句なしよ!〕


人選にライコは太鼓判を捺した。


「では、我が君。

次の段階に進みましょう。

第1段階の御披露目道中で

目立ち、十分に注目を引きました。

次で相手は行動に出るでしょう。


ー 覚悟をお決めください」


フェイルートは真剣な瞳で

まっすぐ郁人を見つめる。


「……この着物を着たときから

覚悟は決めてる。

アドリブ入れたのも挑発になるかと

思ったからだしな」


自分はこれくらい出来るんだ!

とのアピールも込めたと胸を張る。


そんな郁人を見てフェイルートは

柔らかい笑みを浮かべ、手をとる。


「たしかに立派な挑発です。

我が君の覚悟、受け止めました。

ー 貴方様の御身は私がお守りします」

「俺様もいますからね、ぬし様!

先程のように色香大兄の術で身を隠し

側に控えておりますゆえ!」

「俺も影にいるからね!パパ!」


フェイルートの両端から身を乗り出し、

アピールする2人。


「俺もこの頭巾で君の側に

控えているから安心してほしい。

ところで……ユーが見当たらないな。

てっきり君の側にいると思っていた

んだが」


ジークスもアピールし、

いつも郁人の側にいるユーが

いない事に疑問を抱いた。

どこにいるのかとキョロキョロと

辺りを見渡す。


「ユーならここにいるぞ」


郁人が胸元を緩める。

すると、そこからユーが顔を

ピョコッと出した。


「こいつは結界を張れるからな。

中に隠れているのは(しゃく)だが、

そこが最適だ」


チイトが睨むがユーは気にした

素振りもない。


「……胸元、本物のようですな。

谷間やハリに違和感がありません」

「俺様が作ったんで当然よお!

あっ!これから話す機会があるので

これをチョーカーに」


ポンドは感嘆の息を吐き、

レイヴンは自身の胸を拳で叩く。


そして、郁人のチョーカーに

レイヴンの瞳と同じ色をした宝石を

つけた。


「これを押すと声がぬし様の

女バージョンである

“郁乃ちゃん“になります!」

「勝手に名前付けられてる!?

って……本当だ?!」


〔ホントに女の子の声だわ!

……この宝石には声以外の機能は

無いみたいようね〕


郁人の声が女性になっていた。

ライコも驚きつつ、それ以外の

機能が無いことに安堵する。


「これでぬし様を男と疑う者は

おりますまい!」

「そして、これを……」


胸を張るレイヴンの横で

フェイルートが小瓶を手渡した。


「匂いを限り無く薄めた

“神々の生き血“を入れております。

表情筋の動きが鈍くなればまた

お飲みください」

「ありがとう」


郁人は微笑み、胸元に忍ばせる。


郁人が微笑みを浮かべれたのも全て、

神々の生き血を飲んでいたからである。


〔……丸々1本飲んでやっと少し動かせる

ってどうなのよ〕


興味本位で飲んでしまったライコは

有り得ないと呟く。


「………イクト。

早く胸元を直して欲しい。

私の為にも」


ジークスは顔を両手で隠しながら、

必死に耐えていた。


「今の姿で透き通る声は色々と……!

だから早く……!!」

「マスター!

ジークス殿の為にも早く!!」

「わかった……!!」


ジークスの異様な姿に嫌な予感がして

急いで直した。


「これでいいか? ジークス」


郁人が顔を覗きこむと、

ジークスの目がまたとろん

としていく。


「………あぁ、綺麗だ」

「ジークス殿!

いい加減慣れてくださいっ!!」

「もうジジイ抜きのほうが

いいんじゃないか?」




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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