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121話 朝の体操




郁人が体を起こすと仁王立ちで

こちらを見下ろす

ナランキュラスがいた。


「おはようございます……

キュラス師匠」

「あぁ!おはよう!」


郁人が挨拶すると、

ナランキュラスも返した。

そして郁人の布団を取り払う。


「太陽光を浴びると

調子が良くなる!

なにより!俺の美しさを

引き立たせる素晴らしいものだ!!

さあ、あんたも浴びるがいい!

そして!!

俺の美しさを刮目(かつもく)せよ!!」


障子に向かうと勢いよく開け

太陽光を背にナランキュラスは言う。


「見るが良い……!!

太陽光を浴びる俺をっ!!

俺の自慢の髪が太陽光によって

更に輝いているのがわかるだろう!」

「はい……すごく……

キラキラしてまぶしいです」


金髪が太陽光を浴びてキラキラと

輝きを引き出している。

寝起きの瞳には眩し過ぎる

くらいだ。


「そうだろう!

日焼け止めも塗っているから

安心して輝ける!

あんたも常に日焼け止めを

塗るようにな!

勿論!髪にもだぞ!

髪用のものがあるからな!」

「了解しました、師匠」


自慢の髪を輝かせながら

告げるナランキュラスに

郁人は引っ付きそうな目蓋を

開けながら頷いた。


〔朝からこいつの声は響くわね……。

まだ5時なのに元気過ぎじゃない?〕


頭に響くわとライコはぼやく。


〔あんた大丈夫だった?〕

(ライコこそ大丈夫だったのか?)


ライコとは突然別れたので

心配だった郁人は問いかけた。


〔あたしはあんたの夢から

弾き出されたみたいなものだから

大丈夫よ。

もしかして、弾き出したのって……)

(フェイルートだ。

夢魔の血をひいてるから)


郁人の言葉にライコは息を吐く。


〔やっぱりあいつだったのね……。

弾き出される瞬間、少しだけど

柔らかな香りがしたもの。

それにしても、どうして突然

あんたを夢に誘い込んだのかしら?

なにかあったの?〕

(実は………)


郁人が理由を伝えようとしたが

ナランキュラスに顔を掴まれた。


「何をボーッとしている?

ボーッとしている暇はないぞ!」


顔を掴んだままナランキュラスは

チェックを行う。


「顔は……きちんと晩に

ケアを行ったようだな。

流石、フェイルート様の

オーダーメイドだ」


うんうんと頷いたあと

ナランキュラスは指示する。


「まずは顔を洗うぞ!

スキンケアも欠かすなよ!

そして体操を行う!

軽く体をほぐした方があんたの

血の巡りも良くなるだろう!

では、先に洗面台に行くぞ!!

次に体操だ!!」


ナランキュラスは親猫が

子猫を運ぶように郁人の襟首を

掴むと引きずっていった。


ユーが離せと叩くが離す気は

さらさら無いようだ。


「ちょっ?!

いきなり掴まないでほしいです!

浴衣がゆるみますので!」

「早く動かないあんたが悪い。

それと敬語はいらん。

フェイルート様に伺ったが、

お前とは同い年だからな。

師弟関係とはいえ不要だ」


ナランキュラスは抵抗されても

気にした素振りはない。

引きずったまま話した。


「わかりました!

じゃなくて、わかったから

とりあえず引きずらないでほしい!」

〔……この様子じゃあたしが

弾かれた後の事を聞くに

聞けないわね。

悪いけど、後であんたの記憶を

覗かせてもらうわ〕

(そうしてもらえるとありがたい。

……ん?)


なんとか離そうとする郁人の視界に

あるものが入った。


それはナランキュラスの背中にある

剣のような紋様であった。

背中が空いた服なので

はっきりと見えたのだ。


(あれはなんだろ?

剣に見えるような……。

後で聞いてみるか。

今は襟首を離してもらうことに

集中しよう)


郁人はユーと共になんとか

離してもらう事に集中した。


ーーーーーーーーーー


襟首をなんとか離してもらった郁人は

洗面台で顔を洗って指示された通りに

スキンケアをしたあと

ナランキュラスについていく。


ついていく矢先、郁人は今居る場が

旅館ではないことに気付いた。


(旅館は心を和ませる空気があった。

けど、ここは気分が不思議と

高揚していく感じがする。

飾られている物も華やかで、

朱色がメインになっているし……)


館内を見渡しながら郁人は尋ねる。


「ここって旅館じゃないよな?」

「気付いたか。

ここは蝶の夢の館内だ。

旅館と繋がっているから

移動が楽なんだ」

「どうしてここに?」


首をかしげる郁人に

ナランキュラスは答える。


「旅館は癒しの空間だ。

その庭で体操をしていては

客が怪しがり、癒しどころでは

なくなる。

ゆえに、こっちに来たんだ」

「ここにも人がいるみたいだけど……」


少し開いた襖の隙間から机に

向かう者が見えたり、発声練習を

している声が聞こえたり、

本を捲る音など様々な人の気配が

感じられた。


「ここは従業員専用の場。

ここに居る者は全員、

蝶の夢の従業員だ。

そして全員がフェイルート様や

レイヴンさんのお役に立つ為、

技術をより向上させようと

早起きして勉学に励んだり、

美を磨いたりしている」


ナランキュラスは説明していく。


「あんたが今やっている

稽古や作法を自ら進んで学び、

より困難なものに挑戦している者

だっているぞ。

全員が集中している為、俺達が

体操しても気付かない。

だから問題ない」

「……そうなのか。

……すごいな」

〔全員が同じ志を持ち、

頑張れるなんて本当にスゴいわ〕


郁人とライコは感嘆の息を吐く。

特に郁人は尊敬の念すら

抱きつつある。


(ここの人達は俺が四苦八苦しながら

やっている事も進んで学び、

更に上を目指そうと日々努力を

しているんだな)


本を読んだり、躍りの稽古などを

頑張っている従業員達を見ながら

郁人は決意する。


(この人達より上と言われている

囮役をするんだから、恥を

かかせないようにしないとな)


そして、絶対に犯人を捕まえてやる

と拳を固く握り締めた。


「……気を引き締めたようだな」


振り向いたナランキュラスは郁人の

様子を見て呟いた。


「あんたは囮だ。

ここにいる者、従業員を

優に超える絶大な期待を

背負ったな。

その囮が駄目な奴ではここの者達の

顔に泥を塗ることになる」


ナランキュラスは真剣な顔で

郁人に告げる。


ー 「だから努力しろ。

泥を塗ることは絶対に許さない」


真剣な光が郁人を真っ直ぐ見つめる。

郁人はその眼差しをしっかり受け止め

頷く。


「わかった。一生懸命頑張る」

「ならば良い。俺も尽力する。

絶対に囮にふさわしくなって

もらうからな。

……俺が囮になれれば良かったんだが」


ナランキュラスは廊下を進みながら

ため息を吐く。


「あの方達のお役に立てる上、

ここまで長引くことは無かったんだ。

……称号がいつまで立っても

消えない為に」


ナランキュラスがぽそりと吐いた

言葉は、外の小鳥のさえずりが

聞こえる程の静けさだった為、

郁人の耳にしっかり届いてしまった。


「……それって勇者の称号のこと?」

「っ?!」


“勇者“の単語にナランキュラスは

すごいスピードで振り向く。


「おいっ!!」


郁人の肩に掴みかかり詰め寄る。


〔なに勇者って?!〕

「なぜあんたが知っている?!」


思わず声をあげたライコと

目を見開くナランキュラスに

郁人は慌てながら答える。


「その、フェイルートとレイヴンから

夢で聞いたんだ」

「夢で?!

くっ……!羨ましい!!

寝ている中でもあの美しさを

拝めるとはっ!!」


ナランキュラスの目の下がこわばり、

わずかに歯を見せる。

悔し涙まで流している為、

羨ましいことがありありと

わかる。


「あんたがあの方達の

特別な存在だとわかっていたが

まさか……ここまでとはっ!!

くっ……!!

心底羨ましいぞ、イクト!!」

「ちょっ?!

頭が揺さぶられるから止めて!」

〔やめなさい!

気持ち悪くなるんだから!!〕


思いの丈を叫びながら郁人の肩を

ナランキュラスは揺さぶった。


頭も勢いよく揺さぶられ

三半規管がやられて

しまいそうになる。


「はっ?!

つい俺としたことが!!

………悪かったな。

つい………羨ましくてな……」


郁人の顔色の悪さに気付き、

すぐに手を離したナランキュラスは

謝罪した。


「実は、もともと俺が囮になる

予定だった。

しかし、あんたが言った称号が

邪魔をして不可能になったんだ」

「なんでなんだ?」


はてなマークを浮かべる郁人に

ライコが答える。


〔称号って、鑑定したときに

表示されるものの筈よ。

相手に鑑定系の魔術が使える奴が

いない限りわからないんだけど〕

(そうなのか)

「体操の後に話をするとしよう。

着いたぞ」


郁人が考えている間に着いたらしい。


ナランキュラスが扉に手をかけ

勢いよく開けた。


「……綺麗!」


開けた先には大きな桜がある

中庭が存在していた。


風に乗り淡い花弁がくるくる

踊っているように思える。


〔すごい立派な桜ね!

街中にあったのより1回り……

いや2回り程大きいわ!〕


あまりの立派な桜にライコは

テンションを上げた。


「本当に見事な桜だな」


郁人は桜を見上げながら

感嘆の息を吐く。


「この桜は蝶の夢の名物だ。

俺のお気に入りの場でもある。

夜になると紅く光り、

妖しい美しさを魅せる

素晴らしい桜だ」

「そうなのかっ?!

桜が光るなんて……

見てみたいな!!」


郁人は頬を紅潮させた。

見上げる郁人にナランキュラスは

声をかける。


「作戦が無事成功すれば

拝めるだろう。

さあ!

まずは体操からするぞ!」


ナランキュラスは懐から魔道具を

取りだし、地面に置いた。


~♪~~♪♪


魔道具から軽快な音楽が流れ始める。


「あれ?」


その音楽は郁人には聞き馴染みの

あるものであった。


「これって……」

「まず、第1から始めるぞ。

歌に従うように!」

「……えっと、わかった!」

〔これラジオ体操じゃないっ?!〕


郁人はナランキュラスの指示に従い、

戸惑いながら歌の通り体操した。


〔歌声キラキラの声よね!?

上手いんだけど内容がラジオ体操?!〕



ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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