表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/377

118話 疑問をぶつけた




真っ白に染まった視界は、

次第に色を付け始める。


ー 心を和ませる淡い桜色


ー 生い茂る草木の緑


ー 空のように澄みわたる青


ー 血のように鮮やかな赤


真っ白なキャンバスが様々な色で

彩られていくように空間は

染まっていく。


そして、光輝き、形を成した。


「………ここは?」


ー そこは1面の花畑であった。


柔らかな風に乗り、甘く優しい

香りが鼻をくすぐっていく。


日の光によって花弁に乗った

露がきらめき、花々を彩る。


この世界の主役である花々は

競い合うように咲き誇り、

地平線の先まで満たしている。


まるで楽園のような、

そんな幻想的な光景に感嘆の息を

郁人は漏らす。


「これは……夢……なのか?」

「夢ですよ、我が君」


あまりに現実とは思えない光景に

郁人が呟くと返答があった。


返答の声は聞き覚えのある

艶やかなもの。


突然強風が吹き、飛んでいかないように

肩にいたユーを抱き締める。


「ユー!大丈夫か?!」


郁人が見つめる中、風は花弁を舞わせ、

渦を描きだす。

その渦は花弁で色を咲かせ、

美しい光景を生み出していく。


「フェイルート!レイヴン!」


風がピタリと止み、その中心には

フェイルートとレイヴンがいた。


「正確に言えば、ここは私の

“夢“の中なのです」

「色香大兄は夢魔の血を

引き継いでおりますので!

人々の夢を渡り歩く“夢渡り“や、

ぬし様をこちらの夢に誘うことも

可能でございますれば!」


フェイルートの言葉の意味を

レイヴンが説明した。


「そうなのか……

すごい綺麗な夢だな」

「我が君を招くのですから、

幻想的なものがよろしいかと

思いまして」


目を輝かせる郁人に

フェイルートは薄い唇を綻ばせた。


「そうだったのか。

こんな綺麗なものを見せてくれて

ありがとな」

「我が君に喜んでもらえて

光栄です」


郁人が感謝の気持ちを伝えた瞬間、

花がふわりと舞い、空に虹がかかる。


「おっ!

色香大兄すごく嬉しいみたいだな。

この光景を見たら手に取るように

分からあ」

「?

どうしてだ?」


はてなマークを浮かべる郁人に

レイヴンはニヤリと笑う。


「ぬし様、ここは色香大兄の夢の中。

いわゆる色香大兄の世界とも

言えましょう」


この世界の主とも言えますが

とレイヴンは告げる。


「そして、この世界は持ち主の感情が

反映されるのでございます。

花が舞って虹が出ましたよね?

つまり!色香大兄はぬし様に

感謝されとても嬉し」

「では、お伝えしたい事も

ありますので。

ゆっくり出来る場を設けましょう」


咳払いをしたフェイルートが

パンっと手を叩き、レイヴンの

話を遮った。


叩いた瞬間、地面が割れそこから

水が溢れだし池が出来た。


その池には島があり、

島には大きな和傘、赤いマット、

その上に茶碗といった茶道具一式があり、

野点(のだて)の用意がされている。


「本当にすごい……!」

「行きましょうか」


フェイルートに手を引かれ進むと

島に続く橋が出来、その橋を歩く。


「こんな風に自在に出来るのか!」

「ここは私の夢ですから」

「夢でもここまでの芸当を

出来るのは色香大兄だけですよ、ぬし様。

俺様も色香大兄協力の元、

挑戦しましたが、てんでダメでして……」


もう片方の郁人の手に指を

絡ませたレイヴンはガックリと

わざとらしく肩を落とす。

そして、肩に乗っているユーを

チラリと見る。


「こいつは自由に行き来出来てるし

俺様も頑張らねーとなあ」

「私はその子を招待してはいないからな。

夢魔も混ざっているのだろう」


2人の視線を一身に浴びても

ユーは気にすることなく郁人の

頬にすり寄っている。


「まじで何渡したんだ?

あの反則くんはよお……」

「あいつの考えを気にしたら

キリがないからな。

放っておくにこしたことはない。


ー では、我が君。どうぞこちらに」


フェイルートに手を引かれるまま、

郁人は用意された場所に座る。


(あっ!靴脱いでない!!)


赤いマットの上を靴のまま進んで

いたことに気付き足下を見る。


(あれ?)


だが、靴を履いておらず

すでにマットの外にあった。


「俺、脱いでないのに……」

「靴が脱いであるのはぬし様の

意思が反映されたのかと」


首を傾げる郁人にレイヴンは

答える。


「色香大兄の夢は、ぬし様が快適に

過ごせるように設定されております。

ですので、靴を気にされる事を

予測し、反映されたのでしょう」

「そうなのか?!」


目をぱちくりさせながら郁人は

フェイルートを見た。

見られたフェイルートは

くすりと微笑みながら

茶を点てる。


「我が君を招待するのですから

これぐらいはしなくては……

こちらをどうぞお飲みください」

「ありがとう。いただきます」


フェイルートが点ててくれた

茶を受け取り、口に含む。


「?!」


すると、口の中にほどよい苦味と

甘味が感じられたのだ。


「あれっ?!

夢の中なのに味がわかる!?

飲んでる感じがする?!」


不思議だと驚く郁人。

レイヴンは驚きますよね?

と告げる。


「色香大兄の力でございます。

本当に意のままに出来ますので」

「その茶には疲労回復の効果があり、

肌にもいい成分が入っております。

ですので、私が作った化粧水などの

効果がより向上いたしますよ」


効果はお墨付きだと

フェイルートは艶やかに微笑む。


「それに、我が君が寝る前に

いつもの薬を飲むのをお忘れで

いらっしゃったと聞き、体温の

方面での効果も付け加えて

おきました」

「あっ!?」


フェイルートの言葉で常備薬を

服用する事を忘れていたことに

気付き、郁人は顔を青ざめる。


「そうだ?!

俺そのまま寝てしまって……?!」

「本日は我が君にとって慣れない事

尽くしでございましたから。

忘れてしまうのは仕方ないかと」

「なんで知ってたんだ?

俺が忘れていたこと……」


部屋には俺だけだったのに

と郁人は首を傾げる。


「それは女将からそのまま倒れて

寝てしまったとの報告が

ありましたから。

お疲れの我が君を起こすのも

偲びないので夢の中に招待した

次第です」

「本当にありがとう!

ヴィーメランスの鱗を飲んでも

朝はまだ辛くてさ……」

「礼など不要でございます。

医師として当然のことをしたまで

ですから」


フェイルートは蠱惑な笑みを

魅せる。

隣でレイヴンは申し訳無さそうに

口を開く。


「あのスケジュールなんですが、

1日に詰め込み過ぎた部分が

ありまして……。

ぬし様の体調の配慮に欠けてしまい

本当にすいません」


頭をさげるレイヴンに

郁人は慌てながら告げる。


「そんな事無いぞ!

あれだけ詰めないと本番で

失敗してしまう確率は極めて

高いんだしさ!

だから、気にしないで!」

「ですが、俺様の気が済みません!

ですので、一服した後に

電気療法をさせていただきます!」


拳を握りしめながら断言した。


「電気療法?」

「色香大兄に教授してもらい

出来るようになったんですよ?」


ぬし様に奉仕できるものは

身につけたとレイヴンは

胸を張る。


「俺様の電気をビリビリッ!

とすれば、体もほぐれ血行も

良くなると色香大兄のお墨付き!

ぬし様の体を万全!

いや!それ以上にしてみせましょう!」

「レイヴンもありがとな。

血行とか気にしてたから嬉しいよ」


茶を飲みながら、意気込むレイヴンに

郁人は礼を告げた。


(……こんな風に慕ってくれているが、

ライコの言うように俺に対して

不満や恨みはないのだろうか?)


慕ってくれる2人の姿を見て、

ライコの言っていた疑問が

ふと頭に浮かぶ。


(2人の態度が演技とは思いたくない……

けど、2人の実力なら俺を欺くなんて

簡単だろうな)


郁人は2人の設定を思い出す。


(フェイルートは医師でもあり

科学者だ。

しかも、頭もかなり回る。

それに、フェロモンで相手に

嫌悪感や警戒心を抱かせないで

懐に忍び込むなんて簡単だ)


郁人はフェイルートに視線を

向けると、次にレイヴンを見る。


(レイヴンも頭はかなり回る。

なんせ、世界中の情報を握り、

把握出来るんだ。

脳のスペックが余程高くないと

情報を処理しきれない)


見た目に反して頭脳派だからな

と郁人は考える。


(しかも2人共、人の機微に敏感だ。

俺なんて表情筋が動かないだけで、

瞳を見ればわかりやすい

らしいからなあ……。

もしかしたら、チイトや

ヴィーメランスも演技を……?)


全てが演技とは思いたくないが、

ライコの発言に思うことがあった為、

0とは言い切れない自分がいる。


1度沸いた疑問が頭から離れない。


(演技と決めつけるのは良くない。

けれど……もし……

そうなんだとしたら………………)


体が冷たくなっていくのを

郁人は感じた。


「どうかされましたか?

顔色がお悪いですよ。」

「体調が悪くなったのですか?

すぐにでも診察を……」


郁人の様子に気付き、

心配して声をかける2人。


(1人で考えてるだけじゃ

駄目だな……)


このままでは悪い方に考えが

進んでいくと察した郁人は

疑問をぶつける事にした。


(本当に慕ってくれているなら

こういう考えを持つのは失礼だ。

それに、さっきも思ったが、

不満が爆発する前に聞いた方が

断然良い)


郁人は拳を握り締め、

口を開いた。


「いや、体調は良い方なんだ。

その……………」

「どうしました?」

「なにか考え事でも……?」


郁人は大きく鼻から息を吸い込み、

口から吐き出す。


そして疑問を2人にぶつけた。


「俺を恨んだりしてないのか?

悲惨な設定にした、そんな設定を

付け加えたりした俺をさ……」






ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ