表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/377

116話 プライドに火をつけた




「レイヴンさん?!」

「よお!ちょいと失礼!」


邪魔するぜ

とレイヴンが入ってきた。

ナランキュラスは更に姿勢を正す。


「なぜこちらに?」

「報告を受けたからよお」


尋ねるナランキュラスに

レイヴンは答える。


「俺様や色香大兄ぐらいしか

知らねえ事実をぺらぺら喋る輩が

いるってなあ。

で、来てみれば……

やはり手前か」

「話すなとは言われてないからな」


レイヴンはチイトを見た。

チイトは鼻で笑う。

反省の色は皆無だ。


「ったく、どうやって調べたんだ?

まあ、聞いても答えねえだろうがよ」


レイヴンは頭をかき、

ナランキュラスを見る。


「そんで、最初の言い出しっぺは

手前らしいなあ。

なんで守り神の単語を出した?」

「誠にすまない。

フェイルート様達の特別な方なので、

もう知っているだろうと勝手に

思い込んでいた」


ナランキュラスは素直に謝罪する。


「……そうかい。

まあ、いずれ話す予定だったし

それが早まったと思っとくか。

だがよ、次からは1度、念の為に

俺様か色香大兄の確認を

とるようにしろよ」

「かしこまりました」


ナランキュラスはレイヴンに

1礼した。


「じゃ、俺様は仕事に戻ると

いたしましょうか。

きっちりキュラスの指導を

聞くように頼みますよ?

皆様頑張ってくだせえ」


ひらひらと片手を振り、

快活な笑みを浮かべながら

去っていった。


「…………どこから聞いてきたんだろ?」

「前に言ったの覚えてない?

植物自体が魔物だってこと」


郁人の疑問にチイトが答えた。


「そういえば……

チイト言ってたな」

「この建物、この魔物が

最初の“ドライアド“なんだよ。

つまり、この建物自体が

“初代“ドライアドで、

皆が言う“女将“なんだ」

「そうだったのか……?!」


女将の正体に目を丸くする。


(今思うと……

礼儀作法を教えてもらった時

すごい知識があるなと思ったな。

王族との長い付き合いが

あったからだったのかも……)


郁人は稽古中の女将さんの

知識の豊富さなどからそう感じた。


「こいつの体内だから

情報とかが筒抜けなんだ。

女将がレイヴンに伝えたんじゃ

ないかな?

フェイルートとレイヴンじゃ、

あいつの方が足速いし」

「成る程」


チイトの説明に郁人は頷く。


(設定では間違いなく

レイヴンの方が速いからなあ)


郁人はレイヴンの設定を

思い出した。


「少し気になったんだが……

この国はどうやってスペースを

確保したんだ?

切り開いた訳では無いように

思えるんだが……」


郁人の頭を丁寧に洗いながら

ジークスが疑問を口にした。


「切り開いたのでは、女将の怒りを

買いそうですからな」

「どうなんだろうな……?

ここに来る道中の森に移動させたとか?」


それぞれの予想を言う3人に、

チイトが答える。


「あの森もだけど、この国

内部の建物全部が女将の

“子供“だよ」


あれら全てが子供だ

と、チイトは告げる。


「夜の国の建物が全て

女将の子供のドライアド。

人間に嫌悪の感情しか

ないものは森にいるみたい。

そして、不法入国を防ぐ

番人の役割を果たしてる。

ちなみに、地下の花々も

女将の子供」

「そうなのか!?」

「夜の国の建物全部、

あの花々も女将の

子供達だったのか……!?

……驚いたな」

「これは予想外ですな」


答えに目を見開く郁人達。


「…………どこで知ったんだ

彼は?」


レイヴン達が話していないのに

なぜとナランキュラスは

息を呑む。


ナランキュラスの反応からして

正解なんだろう。


「チイト殿に対して驚いていては

キリがありませんよ。

ナランキュラス殿」


心臓がもちませんよ

とポンドは苦笑した。


ー「こいつは反則級だからな。

考え出したら脳が壊れるぞ」


声とともにふわりと優美な香りが

届いた。


「このふくよかで心を打つ香り……!!

そして耳を震わす、いや心をも

揺さぶる蠱惑なお声は……!!

フェイルート様っ!!」


ナランキュラスが勢いよく

振り向いた先には

フェイルートがいた。


「本日もなんとお美しい……!!

言葉に尽くせぬ美しさとは

まさにこの事……!!

その蠱惑な美しさは天上の神々も

見惚れ、貴方様に膝まずきましょう!」


目を輝かせ、まばたきの回数が

極端に減るナランキュラス。

その姿からフェイルートを

崇拝している事が一目瞭然だ。


「そんな貴方様に本日、

お会いできるとは……!!

俺の平凡な日が至極の日へと

変わりました!」


ナランキュラスのキラキラとした

輝く視線をフェイルートが気にする

素振りも無い。

これが日常的な光景なのだろう。


声を上ずらせながらナランキュラスは

尋ねる。


「して、フェイルート様は

どうしてこちらに?!

今のお時間は新たな香水の調合の

ご予定の筈……」

「いや、なに。

思いの外、早く出来たからな。

指導は順調か見に来たんだ」


フェイルートはナランキュラスの

問いに答えるとチイト達を見る。


「チイトは当然だが……

彼も我が君と引き離しといて

正解だったな。

彼らがいては、稽古もなかなか

進まなかっただろう」


甲斐甲斐しく郁人の世話を焼く

ジークスの姿を見て

フェイルートは確信を得る。


「今どこまで進んでいる?」

「現在、髪を洗い終え、

トリートメントも終わっています!」

「そうか。

では、我が君の体を洗うのは

これを使うといい」


フェイルートは懐から小瓶を

取り出す。


「我が君の肌にはここに

置いてあるものは少し

合わないだろうからな。

あと、脱衣場に置いてあるものを

我が君に」


わかりやすい場所に置いてある

と、フェイルートは告げる。


「明日からは髪の手入れも

そこから使え。

箱に入れてあるから見れば

わかるだろう。

働きを期待している。

俺に結果を見せろ」


フェイルートはナランキュラスに

近づくと小瓶を差し出す。


「かしこまりました……!」


ナランキュラスは膝をつき、

両手で恭しく小瓶をいただく。


「このナランキュラス!

最高の結果を貴方様に示して

見せます!!」


フェイルートは頷くと、

郁人に向かい笑みを魅せる。


「では、私はこれで失礼いたします。

我が君、無理はなさらないように。

体調に異変を感じましたらすぐに

お知らせを」

「ありがとな、フェイルート。

またな」

「えぇ。また」


郁人が告げると、柔らかな笑みを

深めてフェイルートは去っていった。


フェイルートの後ろ姿をしばらく

見ていたポンドはポツリと呟く。


「……あの御仁は相も変わらずの

色香ですな」

「彼が来ただけで空気が変わるな……」

「絶世と謳われるのも納得ですな」

「彼を超える者はいないだろう」


ジークスはポンドの言葉に同意した。


「…………イクト!!」

「……えっ!?なに!?」


突然、場を揺らすほどの大声に

郁人の肩が跳ねる。


「俺はあんたが羨ましい事

この上ない……!!

フェイルート様の“特別“な

存在であるあんたがなっ!!

フェイルート様の希少な

オーダーメイドの品も貰えるの

だからひとしおだ!!」

「ナランキュラス殿。

オーダーメイドはそんなに

希少なものなのですかな?」


今にも血涙を流しそうな勢いの

ナランキュラス。

ポンドが尋ねると、ナランキュラスが

力強く首を縦に振る。


「ここにある物は全て

フェイルート様の制作した物だが、

それは万人向けに過ぎない。

だが、オーダーメイドは

個人の為だけに作られた

特別な代物!

どれほど身分が高くとも、

大金を叩いても手に入れる事は

不可!

優秀な働きをした者にしか

送られないとても貴重な代物だ!!」


これまでオーダーメイドの購入を

希望した相手は皆、袖にされた

と、ナランキュラスは語る。


「オーダーメイドを使えば

肌は普段の数倍綺麗になり、

まるで赤ん坊のような肌に

若返る!!

髪も櫛がいらない程艶やかに!

綺麗になること間違い無しの、

まさに世の美を目指す者達が

喉から手が出るほど欲しい物

だからな!!」

「そんなにも変わるのか……?!」

「世の大半の方々が

欲しがりそうな代物ですな」


ナランキュラスの説明に

ジークスは目を見開き、

ポンドは感想を告げた。


「フェイルート様の口ぶりから、

おそらく、脱衣場に置いてある

代物も全てオーダーメイドに

間違いないだろう」

「そんなに……すごいものなのか……

それ……」


郁人はナランキュラスの

手にある小瓶を凝視してしまう。


拳を握りしめたナランキュラスは

高らかに宣言する。


「そんなにすごいものなのだ!!

このオーダーメイドはっ!!

だからこそ!

俺はフェイルート様に結果を

見せねばならない!!

素晴らしい物を授けてくださったのに

結果があんまりではフェイルート様に

合わせる顔が無い!!

目の前で切腹し、詫びを入れねば

ならないくらいだ!」


俺のプライドが許さない!

と、ナランキュラスは瞳を

メラメラと燃やす。


「イクト!!

あんたを最上級の美の持ち主に

せねば俺の気がすまない!!

許されないのだ!!

これから稽古中も抜き打ちで

チェックもするから気を

引き締めるように!!」

「……………はい。

わかりました………」


勢いに押され、郁人は返事をした。


「よし!

では、このボディシャンプーを

使うぞ!!

今はまだ動けないようだが、

動けるようになった際、自分で

出来るようにしっかり覚えるんだ!

孤高、いや、ジークスと言ったか。

今から言うことをきっちりやれ!」

「了解した。

完璧にマスターしてみせよう」


ナランキュラスの指導が

再び始まった。


「しかし、チイト殿が素直に

指示を聞いているとは驚きですな」

「俺のときにパパの肌が荒れたりしたら

大変だからな。

覚えとくにこしたことはないだろ」

「なるほど。

素直に聞いている訳ですな」


チイトの言葉にポンドは納得した。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

“面白い“と思っていただけたら

ブックマークや評価(ポイント)

してもらえると、

とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ