109話 親友の琴線に触れてしまう
スケジュールを作成し、女将さん(蔦)に
なにかを伝えたあと、レイヴンは
郁人を見る。
「さて……スケジュールと必要な人手は
獲得した。
まず、ぬし様をどう仕上げるか目標を
定めるといたしましょう」
「あのスキルを使えば良いだろう。
あれなら問題無い」
「あぁ、あれですかい?
たしかに問題無いですねえ」
「?
あれとは一体?」
4人を置いて話を進めるレイヴンと
フェイルートにポンドが尋ねた。
「それを今からお見せいたしましょう。
ぬし様、腕を出してもらえませぬか?」
「?
こうか?」
言われるがまま腕を見せると、
レイヴンは袖をまくり、そのまま掴む。
「では、失礼して。
色香大兄、ここらへん?」
「そこだ。合っている」
「合ってるって?」
レイヴンはフェイルートに確認した。
腕を掴まれたまま郁人は首を傾げる。
「良かった良かった。
チクっとしますよ」
「?!」
ホッとしたレイヴンはどこからか
針を取りだし、腕に刺した。
「えっ?! 注射?!」
〔どんどん赤くなってるわよ?!〕
ライコの言うように針がどんどん
赤く染まっている。
血液を採取しているのだ。
「……これでいいかね?
申し訳ございません、ぬし様。
突然の無礼をお許しください」
「いや、びっくりはしたけど、
怒ってはないからさ」
頭を下げるレイヴンに
気にしてないと郁人は告げた。
「パパ大丈夫?
突然にも程があるだろ。
前もって言え鳥野郎」
「手前には言われたくねえ
言葉だなあ」
刺された部分をすぐに消毒しながら
チイトは抗議し、レイヴンは反論する。
「なぜイクトの血をいきなり採ったんだ?」
「それは見てのお楽しみですよ?」
レイヴンは宙にスクリーンを
表示した。
「スクリーンにポイっとな!」
〔ウソっ?!〕
「針がスクリーンに?!」
「みるみる内にっ?!」
レイヴンがスクリーンに針が投げると
吸収されていったのだ。
《対象の血液を獲得しました。
情報をインストールいたします》
スクリーンから抑揚のない音声が
流れた。
《10%》
《20%》
《30%》
《40%》
スクリーンにメーターが表れ、
音声とともに赤くなっていく。
《50%》
《60%》
《70%》
《80%》
《90%》
ー そして
《100%
インストール完了いたしました
獲得した情報を公開いたします》
音声が完了を告げると、
スクリーンが光った。
「俺?!」
そこには郁人のステータスとともに
全身図が表示されていたのだ。
「ぬし様、俺様のスキル忘れちゃった?
髪の毛1本や血の1滴でもあれば、
こうして相手の情報を得られるの」
「あったな! そんなスキル!」
レイヴンの言葉に思い出したと
あっ! と郁人は声を出した。
「このスキルは相手のステータスを
知るだけでしたが、ここに来てから
パワーアップしたようでして。
このように……」
レイヴンが表示されている郁人に触れる。
《どうかしたのか?
聞きたいことでもあるのか?》
「いや、ぬし様に触れてみたかった
だけですよ?」
《そうか?
でも、聞きたいことがあったら
聞いてくれよ。
答えれる範囲なら答えるからさ》
すると、表示されている郁人は反応し、
レイヴンと会話したのだ。
「まるで生きているように
反応するんですぜ!
しかも、触れて尋ねると質問に
きちんと答えてくれますよ?
髪の毛だけではここまでは
出来ません……。
が、血を得たからこそ、
このようになるのですよ?」
「……すごいな! これ!!」
まるでSFに出てくる最先端技術に
郁人は目を輝かせる。
(こういったスクリーンを
レイヴンも出来るのか!
すごいなこれ!!
会話も出来るなんて俺が
設定した以上になってるし!!
本当にすごい……!!!)
〔なんかタッチパネルで遊べる
ゲームみたいね。
育成系? 恋愛系? だったかしら?
そういうゲーム好きな子が持ってたわ〕
(持ってる神がいるのか?!)
ライコの意外な発言に目を丸くする。
〔こっちは意外と道楽が少ないから、
異世界のものにハマる子が多いのよ。
実際、あたしも異世界のスイーツに
すっかりハマったし。
あの子はゲームのやり過ぎで
怒られてたわね〕
懐かしいわと語るライコ。
郁人は神々の日常を垣間見た気がした。
「これは本当にすごい……!
イクトが中にいるようだ……」
《その、くすぐったいんだけど》
ジークスがおそるおそるスクリーンに
触れると、スクリーン内の郁人は
くすぐったいと反応した。
「すっすまない!」
ジークスは反応するスクリーン内の
郁人に面を食らいながらも謝った。
「レイヴン殿にも驚かされますな!」
「……これ出来たら持ち歩きで」
ポンドは未知との遭遇に胸を弾ませ、
チイトはなにやら考え込み、
ユーは郁人とスクリーン内の郁人を
見比べ驚いている。
「すごいのはここからですぜ!
さあさあ御覧ください!!
ポチポチっとな!!」
レイヴンが別のスクリーンに打ち込むと
スクリーン内の郁人が変わりだした。
背は少し低くなり、髪は腰に届く程の長さに、
手首なども細く、体つきも更に華奢になり、
スタイルのメリハリが激しくなる。
《え? あれ??》
スクリーン内の郁人の声が
高くなった。
「………マジで」
スクリーン内の自分の変貌ぶりに
意識が遠くなりそうになるのを
何とか耐え、問いかけた。
「…………これってもしかして」
「ぬし様の想像通りでございますれば!
じゃんじゃかじゃーん!!
男性ホルモンを全て女性ホルモンに
変えたりした結果!!
“もし、ぬし様が女だったら~“
バージョンの完成でございます!!
これをもとにぬし様を女装させよう
と思いまして!」
目を爛々とさせながらレイヴンは
自慢気に見せる。
スクリーン内にはレイヴンの言う通り、
郁人の女バージョンがいた。
《その……
そんなに見られると……困る》
全員にまじまじと見つめられ、
スクリーンの女バージョンは
身じろぎした。
郁人の女バージョンを見ながら、
それぞれが感想を告げる。
「妹さんは見るからに活発で
ツンデレっぼい感じでしたが、
ぬし様の女バージョンは大人しそうで
お人形みたいな別嬪さんで
ございますな!
スタイルも妹さんとは違い1部の
主張が激しいですが……」
「体全体についていたものが
女性となった結果、1部に
集中したのでしょうか……?」
「パパがママになったら
こんな感じなんだね!
とっっても綺麗!!」
「本当に美人ですな!
しかも、なんと豊満な胸ですか!!
母君には後1歩及ばずですが、
大きいことに変わりありませんな!!」
「……………」
女バージョンはスタイルが抜群の、
特に胸に目がいく美人だった。
〔顔は女顔に近いからあまり
変化無い気がするわ。
でも、スタイル抜群過ぎない?
胸が成長し過ぎでしょ〕
(さらっと顔とか気にしてることを
言わないでくれ。
あと、女顔じゃないから)
〔あら? 妹さんとは双子なんでしょ?
なら似てるんじゃないの?〕
ライコの言葉に郁人は違うと
説明する。
(たしかに双子だけど、妹のほうが
身内の贔屓目無しで美人だから。
よくスカウトされてたし。
性格も曲がった事が嫌いで
無鉄砲なとこがあって
心配になるけど、人の事を思いやれる
とても優しい子なんだぞ!)
〔……あんた、実はシスコン?〕
<どちらかというと、父親っぽいぞ。
妹に対しての態度は兄であり
父親みたいだったからな>
ライコの言葉にチイトが返した。
<あと、パパは妹さんと目元とか
部分部分に似てるとこあるから。
あっ! でもでも!!
俺はパパのママバージョンのほうが
美人だと思うよ!
笑ったときに破壊力抜群な感じがして
守りたくなる感じがあるよね!>
〔……こいつの口から女の好みに
関して発言があるとは。
てっきりあんた以外興味ないのかと〕
(チイトだって男だし、興味あるからな)
<パパがママになったの見たから
言及しただけだ。
パパ以外に興味ない>
(………興味もとうな、チイト)
胸を張り断言するチイトに郁人は
かなり心配になる。
「………………………………」
ふとジークスがスクリーンを
見つめたまま動かない事に気付いた
郁人は気になって歩み寄る。
「ジークス、どうかしたのか?」
「……………綺麗だ」
「は?」
砂糖のような甘ったるい声に
面を食らう。
ジークスは郁人に気がつくと、
意識がこちらに戻ってきた。
「いや、そのっ!!
とても綺麗で驚いたんだ!!
パーツは今の君に似通ったところは
あるが、やはり女性だからか
女性的になっているように思う!!」
「…………そうか」
「それにだな!!」
ジークスは頬を紅潮させながら
郁人の手を両手でガシッと
握りしめる。
「髪もとても艶やかになって
風にフワリと靡く姿が目に浮かぶ!!
瞳の中にある芯の強さも良いし、
じっと見ていたら美しさに吸い込まれて
しまいそうだ!!
声も耳に心地よく、私の名前をずっと
呼んでほしくなる!
まあ、その……スタイルもたしかに
目を見張るものがあるが、やはり
雰囲気がとても良い!!
月夜に照らされる花のように不思議な
触れてはいけない儚さ……!!
しかし、手を伸ばしてみたくなる
魅力がある!!
そんな心を震わせるものが彼女には
ある!!
私はそう確信した!!
そして……!!」
ジークスの怒涛のマシンガントークに
思わず郁人は後退りしそうになる。
が、手を力強く握られてるので不可能だ。
(ジークスのこんな姿初めて見た……
なんかヤバイ気がして仕方ないんだが)
〔あたしも同感だわ。
今すぐ距離をとりなさい〕
(とりたくても手をギュッと
握られてるからなあ)
熱をもったジークスに対し、
郁人はただただ困惑してしまう。
「ジークスの旦那の琴線に
触れてしまいましたようで……」
「どうやらジークス殿の
好みど真ん中のご様子ですな」
「とりあえず黙らせよう。
なんかパパが困ってるし」
「自分の女姿に対しあんな風に
熱を上げた姿を見れば誰でも
あぁなるだろ。
我が君が困るのは当然だ」
レイヴンとポンドは苦笑し、
チイトは眉間にシワを寄せた。
フェイルートは紫煙をくゆらせた。
《どうかしたのか?》
騒動を起こした当人はスクリーンの中で
不思議そうに小首を傾げた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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