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108話 得た情報




「ぬし様酒臭っ?!」

「これは……

相当呑まれましたね、我が君」


賭けに勝利した郁人達は帰って来たが、

レイヴンとフェイルートの2人に

顔をしかめられていた。


「そんなに酒臭いかな?」

「……かなり匂いますな」


郁人からかなり濃厚な酒精が

香っているからだ。


「ジジイ、その布しばらく離すなよ。

パパに迷惑かけるからな、貴様は」

「わかっている」


ジークスは酒に滅法弱いため、

しばらくは香りを遮断する

ハンカチで鼻と口を塞いでいる。


郁人達は用意された部屋にいるが、

酒の匂いで充満し、女将さん(蔦)が

空気を入れ換えるのに必死だ。


ちなみに、ローダンはいつのまにか

賭けをして大勝ちしていたので、

遊びに行っている。


〔勝ったお金で借金返せば良いのに〕

(俺もそう思う)


ライコの呆れた口調に郁人も同意した。


「この匂いは……

“神々の生き血“を呑まれましたね?」

「うん!美味しかった!!

しかも、チュベローズさんが

良い呑みっぷりだったからって

くれたんだ!

若色にしか置いてないから

また飲みにおいでって!」


息を呑む2人に対し、郁人は頬を

緩ませながらホルダーから

神々の生き血を取り出すと、

自慢気に見せる。


「これでしばらく楽しめるな!」

「………ぬし様、まさかのザルかよ」

「驚きました。

飲んだときのほうが表情筋が動き、

体の調子も良さそうですね」


神々の生き血を頬ずりする郁人は

周囲の視線を気にせず、さらに頬を

緩ませた。


〔あんた本当にザル、いやワクね。

あたしなんて、間違えて味覚を共有

したもんだから意識が吹っ飛んだってのに〕

(それで途中から話しかけて

こなかったのか……)


ライコが途中から話しかけてこなかった

理由に郁人は納得する。


「その様子ですと我が君達は

情報を得たようですね」

「答え合わせといくぞ」


チイトが口を開き、前に座る

2人を見据える。


「答え合わせ……?

その言い方では既に彼らは犯人を

突き止めているように聞こえるのだが……」

「知ってるぜ。

俺様達の情報網なめないでくんな。

ジークスの旦那」


ジークスの疑問にレイヴンは口の端を

上げる。


「では、なぜわざわざ調べさせたんだ?」

「……私達を試したのですかな?」

「御名答」


ポンドの言葉にフェイルートは

煙管を吹かす。


「私のフェロモンに耐えれれば

能力が無くても専属になれると

誤解されては困りますので」

「だから、調べさせたって訳だ。

まさか……あの旦那と勝負すること

になるとはなあ。

ぬし様は目をつけられてたから

会わせたくなかったのによお……」

「賭けの内容にも驚きました。

我が君が勝利したと聞き、

胸を撫で下ろしました」


ホッとする2人に郁人は首を傾げる。


「?

負けても着せ替え人形にされるだけだぞ。

そこまで心配しなくても」

「……ぬし様はどれだけ危なかったか

理解してないようだしなあ」


レイヴンは息を吐き、咳払いをする。


「で、首謀者は誰かわかりましたか?

ぬし様?」


問いに郁人は頷くと、口を開く。


「うん。わかったよ。

犯人の名前は

“ジョネヴィラ・サフラワー“。

パンドラの王族と繋がりのある

かなり高名な貴族の令嬢だ」


郁人はホルダーからチュベローズに

貰った紙を取り出し、見ながら話す。


「何度も蝶の夢で働きたいと

申し出たが門前払いを食らい、

逆上しての犯行。

資料から有望な見習いを特定し、

金を積んで、破落戸(ごろつき)に誘拐させて

散々痛ぶってから惨殺。

その破落戸が捕まったらまた別の

破落戸にさせている。

……最悪にも程があるな」


内容に不快感を覚えながら

郁人は続ける。


「令嬢はプライドが高く、

かなりワガママ。

自分に逆らえば容赦しないので

誰も逆らえず、親すらも見て見ぬふりを

していて困り果てていると、愚痴りに

執事が若色に来ている。

……とこんな感じだな」


郁人はまとめて話した。


内容にフェイルートとレイヴンは

笑みを深め、手を叩く。


「よくぞここまで辿り着きました。

チイトにあまり協力しないように

言ったのは無駄骨だったようですね」

「反則くんに頼らなかったしなあ」

「俺は頼ってほしかったのに……」


ますます笑みを深める2人に対し、

チイトは頬を膨らませる。


「……もしや、チイト殿は既に

把握しておられたのですか?」

「大体はな」


問いにチイトは頷く。


「パパが寝ていた3日間、

パパに危害をくわえそうな輩が

いないか情報を集めているうちに

手に入ったんだ。

すぐに教えたかったが、

この2人に止められてな」

「“このパーティは反則くんが

いなけりゃ能無し“

と思われるのは(しゃく)でしたので。

ぬし様が侮辱されるような事は

避けたいしな」


ぬし様への誹謗中傷はお断りだ

とレイヴンは告げた。


「だからチイトには教えないように

していたのですが、

皆様は地道に情報を集め、

自身の縁を使って見事犯人に

辿り着きました。

これで、皆様を専属にすることに

反感を抱く者はおりません」


フェイルートは艶めいた笑みを

浮かべる。


「だが、情報を掴んでいたのなら

なぜ捕まえようと動かない?」

「前も言ったように、いくら捕まえても

とかげの尻尾切り。

また次から次へと湧くからよお。

嬢ちゃん自身がいたら早いが、

一緒だったのは最初だけで、

あとは破落戸共に任せてるからなあ」


現行犯で確保出来たら楽なんだが

とレイヴンは頭をかく。


「しかも、頼むときは自分に足が

つかないようにしてるから証拠も無い。

おまけに、観光客が次々と

行方不明になる事件もあるから

大変なんだよ」


面倒くさとレイヴンは

ため息を吐いた。


「行方不明ですかな?」

「最近多発してるんだよ。

情報を集めてるんだが……

こっちはてんで駄目。

警戒心高くて高くてマジ面倒くせー」


ポンドの質問に答えたレイヴンは本当に

悩まされているのだろう。

肩を落とし、床に寝転がる。


「俺様は働きたくねえのになあ~

どうして次からうじゃうじゃと……

あー!マジで面倒くせぇ!!」

「それには同感だが行儀が悪い。

さっさと起きろ。

準備があるのだからな」

「……そうだった!!

面倒くさがってる場合じゃねーなっと!!」


レイヴンは腹筋の力だけで起き上がる。

そして、4人に話しかける。


「次の段階に参りましょう!

さて、ぬし様方に問題です!

ぬし様方が頑張ってる間も含め、

俺様達は嬢ちゃんの犯行を

妨害しまくりました。

嬢ちゃんはかなり頭にキテる。

裏もとれてるから間違いございません」


情報をバッチリ掴んでますと

ニヤリとレイヴンは笑う。


「で、キテるそんな時に幾多の

見習いとは格が違う。

俺様達に何度も働いて欲しいと

頼み込まれたという経緯持ちがこの店に

入ることになればどうしますかね?」


突然の問題に面を食らいながら、

顎に手をやり郁人は考える。


「そうだな……その子を狙うかな?

令嬢はプライド高いから、自分が

何度来ても門前払いだったのに、

頼まれて来た見習いとかかなり

腹が立つだろう。

だから顔を見に来そうだよな」

〔そうよね。

あたしよりそいつが良いって言うの!?

とか考えそうだし、顔は間違いなく

拝みに来るわ〕


郁人の言葉にライコも同意する。


「我が君のご推察通り。

令嬢は顔を拝んでやると息巻いていた

と情報が入っておりますから」

怒髪天(どはつてん)をついてるそうだ。

あぁ、恐ろしい恐ろしい」


レイヴンはおちゃらける。

怖がっている素振りはさらさら無い。


「おい、レイヴン」


チイトはレイヴンを無視し、

口を開く。


「次は囮を使うのか」

「あぁ。

囮を使い令嬢を捕まえようと

考えている」

「囮はどうする?

引き受けた者はいるのか?」

「危ない役割ですし……

私は賛同致しかねますな。

可憐な花を危険にさらしたくは

ございません」

「女の子を危ない目に合わせるのは

良くないと俺も思う」


ジークスが尋ね、ポンドと郁人は

乗り気ではない。


(囮作戦で怪我したら大変だ。

誰かが傷つくのは良くない……)


2人の不安を払う、爽やかな笑顔を

レイヴンは見せた。


「そこは問題ございません。

だって、囮は“ぬし様“なのですから」

「………え?」

「我が君。

鳩が豆鉄砲を食らったように

なっておりますね」

「パパを囮に使うとはどういう事だ!!

そこらの塵にでもさせれば良いだろ!!」


チイトの声は硬く、怒りを含んでいる。


「いやさ、他の奴に頼もうか考えたが、

俺様達は従業員を守る立場ですし、

こういっちゃ何だが……

大事な商品をこれ以上傷つけられるのは

困るんだわ。

ぬし様にも傷ついて欲しくは無いが……

1番安全なんだ、これが」


苦肉の策なんだぜ

とレイヴンは苦笑する。


「我が君に囮となってもらっている間、

貴様が我が君の影にひそめば問題ない。

危なくなれば言わなくても勝手に

貴様が対処するからな。

おまけに従魔であるポンドや

ユーも即喚べる。

これほど安全な囮はいないんだ」


レイヴンは息を吐き、フェイルートは

表情を曇らせた。


「……わかった。囮になる」

「パパ?!」

「……良いのかイクト?」


驚きの色を示すチイト、

ジークスは確認するように尋ねた。


「うん。

たしかに俺が囮になったほうが

良いと思う。

誰かが怖い思いをしないで済むなら

それが1番良いと思うから」


何を言っても郁人の気持ちは変わらない

と瞳から読み取れた。


「…パパは絶対に守るから。

傷1つつけさせはしない」

「ありがとう。信じてる」


覚悟を決めたような、真剣な面持ちの

チイトの頭を優しく撫でる。


「俺もこの頭巾で君の側に待機する。

必ず守り抜くと誓おう」

「ジークスもありがとう」


恐ろしく真剣な目付きのジークスにも

礼を告げた。


「ぬし様の了承をいただきましたので、

明日から手取り足取り、みっちり教育し

この蝶の夢で働いても文句なしの

美女にしたてあげます」

「………………へ?」

「雑な囮では令嬢に罠だと悟られますので。

元から細いとはいえ、それだけでは

騙せませんから。

タカオを目標にしましょうか」


キョトンとする郁人にフェイルートは

説明した。


〔あんた、囮になるんだから

女装するのは当然ね。

調べたけど、この店かなり

ハードル高いわよ。

頼み込まれてとなると相当じゃないと

即バレるわ。

覚悟しなさい、イクト〕

「…………マジかあ」


高嶺の華であるタカオを思い出し、

あまりのハードルの高さに呆然とする。


(囮になるだけと思っていたんだけど。

……ライコの言うように覚悟決めないと)


早期事件解決の為だと郁人は

両頬を叩いて気合いを入れる。


「ということは……

パパがあの綺麗な着物を着るんだよね!!

これが1番合うんじゃないかな!!

あと、これとかも合いそう!!」


郁人の心境を余所にチイトは

突如乗り気になり、空間から

色とりどりの着物やら草履を取り出す。


ユーも負け時と背中のチャックから

簪や帯などを取り出し、部屋1面が

埋まってしまった。


「おーおー、良いもの

いっぱいあんじゃん。

だが、まずは礼儀とか教えないとな。

ぬし様は祖母さんのおかげで

下地はあるし、1からでなくとも

問題無いでしょう。

スパルタでいくとしますかね?」

「我が君、ご安心ください。

倒れても私が治してみせますから」


レイヴンはスケジュール作成に入り、

フェイルートは蠱惑な笑みを浮かべる。


「……よろしくお願いします」


郁人は腹をくくった。




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