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104話 賭け開始




「あんた!!

あいつがどんな内容を言ったのか

わかってるの?!

なんで呑んじゃうのよ!!」


郁人達は賭けの準備の為に晩に来るように

チュベローズに言われたので蝶の夢に一旦

帰ってきていた。


そして、郁人は晩に備えて昼寝していると

仁王立ちのライコが現れ、夢の中で

正座しながら、説教を受けていた。


ーーーーーーーーーー


チュベローズの発言から肌が斬れるのでは

と思わせる、張り積めた冷たく重い空気に

なる。

息をしただけで肺が凍りつきそうだ。


「……俺?」


賭けの報酬として指名された郁人は

なぜなのかキョトンとしている。


(理由を聞きたいけど、

空気が冷たくて無理……!!)


頭に疑問の花を咲かせながら戸惑う。


「……パパ」

「どうしたチイト?」


抑揚の無い声に郁人は思わず筋肉を

強ばらせてしまう。


〔ひっ……!!〕


ライコが思わず悲鳴をあげたのも

無理はない。


顔を見ると瞳に感情は無く、

ただただ冷たくゾッとする瞳が

そこにあったからだ。


瞳にだけ背筋を凍えさせる感情を

乗せながらチイトは口を開く。


「今からこいつ殺して脳味噌から

情報を抜き取るから待ってて」

「チイトストップ!!」


手にはいつの間にか刀が握られ、

すぐにでも斬ろうとするチイトを

急いで止め、刀を持つ手を上から

押さえる。


郁人が放したら即斬り刻むのは

目に見えているためだ。


「物騒なのはダメだから!!なっ?!」

「あの祭りのときのように、

情報を見るのは不可能なのか?」


ジークスは止める素振りすら見せず

平然とチイトに問いかける。


「あれか……」


チイトは首を横に振る。


「あれは対象がその事を考えてなければ

読み取れない。

頭を鷲掴みにすれば読み取れない事

もないが……。

先程、試しにチラリと見たが……

パパに気色悪いこと考えていやがる」

「気色悪いとは酷いね。

俺が仔猫ちゃんとシタイことを

イロイロと考えていただけじゃないか」


チイトは舌打ちし、チュベローズは

冷たい空気を物ともせず笑う。


「仔猫ちゃんを賞品にするのが

嫌なのかい?

それとも、矢面(やおもて)に立たせたくないのかな?

賭けが嫌なら、仔猫ちゃんだけ

いただくのもアリだよ?」


挑発するように口の端を

ニヒルにあげる。


「いただけるなら……

仔猫ちゃんの働き次第で

ポロリと話してしまうかも。

(つたな)くとも奉仕してくれる姿を見るのは

うん、悪くない」


ドロッとした色を瞳に浮かべながら

郁人を見て舌なめずりする。


「………そうか。

情報が見れないなら良いんじゃないか?

イクト、彼を放してやってほしい」

「遠回しだけど、まさかの殺害許可!?

絶対ダメだから!!」


ジークスからのチイトへの援護に

声をあげた。


「では、仕方ない……」

「ジークス殿?!

なに自然な動作で大剣に手をかけて

おいでですかな!?」


郁人の1歩も譲らない姿勢に

ため息を吐き、大剣に手をかける

ジークスをポンドが押さえた。


「離してくれポンドっ!!

彼の身に危険が……!!」



ー「お前らってさ、なんでチェリーくんが

負ける前提なんだあ?」



鼻筋に皺を寄せ、肘掛けに肘をついた

ローダンが2人に声をかけた。


「少しは信用してやれよお前ら。

第1、お前らはチェリーくんに危険が

無いようしたいんだろうがやり過ぎだ」


過保護にも限度があらあ

と、わざと息を吐く。


「お前らはチェリーくんが転けねえよう

歩く道の小石から雑草やら全部過剰に除けて

道の原型をなくしてから通らせてるような

ものだろ??

俺にはこいつの可能性から何まで全て

否定しているように思えるね」


胸の前で腕を組み、2人を見据えながら

言葉を続ける。


「こいつがやるってんだから

応援してやれよ。

本人が大丈夫ってんだからさあ。

ー 信頼してやんな」

「ローダン……!」


ローダンからの思いもよらぬ言葉に

目を丸くする郁人。


そんな郁人の側に行き、

バシっと肩を叩く。


「お前なら大丈夫だ!胸張って挑みな!!」


歯を見せてカラッと笑った。


ーーーーーーーーーー


「まさかあのクズからあんな言葉を

聞くなんて思いもしなかったわよ。

猫被りと英雄はそのクズに諭されて

落ち込んでたけど」


珍しい光景が見れたわ

とライコは呟く。


「あのさ、ローダンは女性関係と

金遣いは目も当てられないけど。

他に良いところあるんだぞ」


郁人はローダンに関して話し出す。


「俺がいじめられてたら

助けてくれたり、厄介な人との

接し方とか教えてくれたり

するんだよな。

友達も多いらしいが、女性や金関係で

よく破綻するとか聞いたけど」

「……良いところを全て上回るくらい

女好きで金遣いも荒いのね」

「うん、そんな感じだな」


ライコの的を射た言葉に苦笑する。


「で、あんたは賭けに乗ったけど

負けた場合どうなるか考えてるの?

酷い目に合う可能性は極めて

高いんだから」


わかってるの?

とライコは眉間に皺を寄せる。


「わかってるよ」


郁人はコクリと頷く。


「第1、俺を自由にって言ったって、

酷いことになるとは限らないぞ。

チュベローズさんも言ってただろ?

“最初からハードなものはしないさ。

とろけるくらいに優しくするよ“って。

なぜか爪も切っとくとか言ってたけど」

「…………あんたがどんな目に合うのか

理解してないのは理解したわ」


理解していない郁人の様子に

ライコは肩を落とし、

ため息を吐いてしまう。


「あんたが負けた場合のことを

考えたら恐ろしいわ……」


ライコは頭を抱える。


「あの猫被りは勿論、反応から見て

英雄も黙ってないだろうし……

国が滅びそうよ……!!」

「俺が勝てばいいんだからさ。

大丈夫だって。俺を信じてほしい。

勝算が無い訳じゃないんだし」


顔を蒼白させるライコに、

なんでみんな負ける前提なんだと

郁人はムッとする。


「信じてない訳じゃないわよ。

ただ心配なだけ。

勝ってほしいのはやまやまだけど、

絶対に無理は禁物なんだから。

わかった?」

「わかった。

心配してくれてありがとう。

絶対勝つよ」


ライコに郁人は約束した。


(それに……もしかしたら“あれ“に

会えるかもしれないしな)


郁人は静かに期待に胸を膨らませた。


ーーーーーーーーーー


青白い月が夜の国を照らし出す。

夜の国の本領発揮と、大人達が刺激を、

甘い夢を求めて彷徨い歩く。


路地を抜けていくと、ドレスコードを

守った紳士淑女が集う店がある。


ー その店"若色"の店内は活気に

満ちていた。


いつもの妖しくも薄暗さはどこにもなく、

客は勿論、スタッフすらも熱気に当てられ

普段よりテンションが高い。


理由は視線の先にある。


吹き抜け構造で客が見下ろす先、

中央のスポットライトに照らされ、

1つのテーブルに向かい合うように

座る2人。


一方は場の雰囲気に飲まれること無く、

ただ静かに座っている郁人。


ドレスコードのスーツを着ており、

いつも着ているジャケットは色々と機能が

備わっているのでチイトに預けている。


もう一方は、禍々(まがまが)しい角、"鬼"の角を

1つ額から生やし、新緑の髪を刈り上げた

威圧感のある美丈夫。


背丈は2メートル、目付きは鋭く、

スーツを肩に羽織り、シャツの上からでも

わかる筋肉は今にもボタンを

弾き跳ばしそうだ。


「よ!お前が相手か!」


吊り上がった瞳を緩ませ、

ニカッと笑う姿に威圧感が霧散した。


屈託ない笑みを浮かべながら

話しかける。


「俺は"グロリオサ"。

この若色の専属、荒事やこういった

賭け担当でな。

今回、酒飲み勝負と聞いて参戦した。

お前の名は?」

「俺は郁人と言います。

よろしくお願いします」

「……固いなあ。

酒を呑む場で敬語は無しだ。

もうちょっとゆるく行こうや。

折角の酒の味が不味くなる」


グロリオサはそう笑うと、

真剣な面持ちになる。


「先に言っておく事がある。

後から言うと反則や卑怯やら

言われちまうからな」

「なんでしょうか?

えっと……なに?」


敬語を使った瞬間、グロリオサの眉間に

皺が出来たの言葉を崩して尋ねた。


自身を親指でビシッと差しながら

グロリオサは告げる。


「俺は見ての通り"鬼"の血が入っている。

それに"ドワーフ"の血もな。

鬼とドワーフの"ハーフ"って訳だ」

〔ドワーフって……

酒が異常に強い種族じゃない!?〕


嘘でしょ?!とライコは悲鳴をあげた。


〔鬼も強いのにドワーフの血も

入ってるなんて……あの変態サングラス!!

どれだけ本気なのよ!!〕


彼を参戦させたチュベローズに

文句を言うライコ。


「そうか」


郁人はそれを聞いても態度を変えず、

感想を述べる。


「じゃあ、呑んでもすぐに潰れないって

ことだな」

「おっ!

聞いても顔色変えないとは……

余程自信があるんだな」

「ないとこの場にはいないだろ?」

「そりゃそうだ!

こりゃ楽しめそうじゃねーか!!」


グロリオサの笑い声が響き渡る。


<パパ……無理しないでね>


チイトの心配そうな声が聞こえた。


振り向き、見上げると取り囲むように

見守る客達、そして用意された特等席、

いや部屋と言うべきか。

そのバルコニーからチイト、ジークス、

ポンド、ユー、ローダンが見守っていた。


(大丈夫だから。

心配してくれてありがとう)


返事をしながらチイト達に手を振る。


「さて、御両人。

心構えはよろしいですか?」


テーブルの側にいつのまにかスタッフが

立っていた。


「ルールは簡単です。

用意された酒を飲んでいただき、

先に潰れたほうが負けになります。

医療スタッフもおりますので遠慮無く

飲んでください。

わかりましたか?」

「おうよっ!」

「はい」


2人の了承を聞いたスタッフは

1度2人の顔を確認し、声を上げた。


「では、開始いたします!!」


合図とともにゴングが打ち鳴らされた。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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