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103話 賭けの提案




「で、色々言われてたら母さんが

チュベローズさんの胸ぐらを掴んで

外にぶん投げたんだ」

「じつは俺も遠くから見ていたが、

すげえブチキレてたぞ、女将さん。

なんで俺が覚えててチェリーは

覚えてないんだよ」


なんで忘れてたんだろ?

と郁人は自身の記憶力に不安を覚える。


ローダンは郁人の記憶力に

ため息を吐いた。


「あれは驚いたよ。

力を込めればポキリと折れそうな細い腕に

あんなパワーが秘められていたとはね。

投げ飛ばされて宙を舞ったのは

初めてだったよ。

なかなかの良い思い出になった」


あの女将さんとハードなお遊びも

悪くないと笑うチュベローズ。


「…………………」

「…………………」


笑い声が響く以外に音は一切せず、

チイトとジークスは微動だにしない。

表情もなく、目に光も無い。

あるのは"無"だ。


「あー、そういえば……」


あまりの静けさに耐えきれなかった

ローダンが郁人に声をかける。


「チェリーくんよ、

ちなみになに言われたんだ?

会話までは聞き取れなかったんだよな」

「私も気になるのですが……。

思い出せる範囲で構いませんので

お教えいただけませんか?」


それに……

とポンドは続ける。


「あの母君が発言だけで投げ飛ばす

行動はしないと思うのです。

マスターをその場から逃がすとは

思いますが……」

「えっと…………」


2人の問いに、チュベローズの発言を

思い出しながら声に出す。


「夜明けのコーヒー?紅茶を

一緒に飲みたいだったかな?

あと、俺にいれたいとか

なかをなんだったっけ……??

たしか………………」


意味はわからなかったけど、

単語だけなんとか覚えていた

と、郁人は思い出した単語、

言葉を片っ端から口に出した。


「……………………だったな。

あれ?どうかしたか?」


発言を言い終えた郁人は、

視線が集中しているのに気付く。


「もしかして変な事だったのか?

内容わからないからそのままを

伝えたんだけど……」


気に障る単語だったのかもしれない

と焦る。


「……絶対言わないであろう人物の

口からえげつない……あんな言葉が

出るとすごい衝撃を受けるのですな」

「チェリーくんなら絶対言わない

内容だからな。

俺も一瞬意識が飛んじまった」

〔あまりの内容に意識が飛びそうだわ。

特にあんたの口から言われるとね……〕


乾いた笑いを浮かべるポンドとローダン。

ライコも2人の意見に同意した。


「パパが……穢された……!!

パパの耳が……口が……!!

真っ白なパパが……穢され……!!」


隣に座っていたチイトはボソボソ呟き、

青ざめ痙攣(けいれん)しだした。


「チイト?!大丈夫か!!」

「イクト……」


チイトの様子に心配していると、

突然ジークスが肩を掴んできた。


「ジークス?」


振り向くと沈痛な面持ちで

こちらを見るジークスがいた。


「どうかしたのか?

なんでそんな悲しそうな顔を?」


理由がわからない郁人は首を傾げる。


「……私がその時その場にいたら

君は穢されずに済んだのか?

私がいたら……私がいたら君は……!!」

「なんで俺が被害を受けたような

顔をするんだ?!穢れってなに?!」


ジークスのあまりのシリアスな雰囲気に

困惑する郁人。


そんな様子を見てチュベローズは

腹を抱えて笑いだす。


「アハハハハハハ!!

彼をそんなにしているとは……

想像以上だ!!

君達は彼に無垢のまま生きていて

ほしいのか!そうに違いない!!」


君達の態度が物語っていると

指先で笑いから出た涙を拭う。


「やはり君は"仔猫"ちゃんだ!!

真綿で包むように大切に、誰からも

傷つけれないように手折られぬように

大事に大事に守られているからね!

そんな君だからこそ……ね……」


(とろ)けそうな瞳を郁人に向け

唇をなめると、口を開く。


「君達は蝶の夢の惨殺事件を

解決するため、犯人の情報を

聞きにきたんだろ?

話してやってもいいぜ。

俺は犯人に関する情報を

持っているからね」

「本当ですか!?」


チュベローズの言葉に身を乗り出す

郁人に話を続ける。


「ああ、勿論。

すぐにでも話してあげたいところだが……

客から聞いた、しかも個人情報だからね。

そう簡単には話せないな」

「人が何人も殺されていてもか?」

「だって、うちに関係無い事だからな」


他所様の問題に首を突っ込む程

うちは暇ではないんだと

チュベローズは語る。


「それに、ここでの客との話は

墓場まで持っていくのが決まりでね。

そう簡単にべらべら話しちゃ、

信頼がなくなって客が一切来なくなり

店が潰れてしまうだろ?」


ジークスの問いにチュベローズは

はっきり答えた。


(この店に関係無いって事は……

これからも狙われるのは蝶の夢だけ

だからか)

〔他にも被害が行く可能性も

考えていたけど、無いと言っていいわね〕


チュベローズの言葉に可能性が1つ

消えたことがわかる。


(そもそも、なんで蝶の夢が

狙われているんだ……?)


犯人探しに絞り過ぎて根本的な理由が

わかっていない事実に気がつき、

なぜと頭をひねる。


(………なんでなんだ?)


思案しているとチュベローズから

声をかけられる。


「おーい、仔猫ちゃん。

考え事してるみたいだけど、

どうする?

ある賭けに勝ったら情報を

教えてあげてもいい」

「賭け?」


提案に郁人達は耳を傾ける。


「うん、賭けだ。

こちらから持ち出した賭けに勝ったら

教えてあげてもいいよ。

それなら、まあ、うん……別にいいだろ。

さて、もう1度聞くけど、どうする?」


うんうんと頷きながら、

チュベローズはこちらに尋ねてきた。


「内容は?」

「勝負なら彼以外が相手しよう」


チイトがチュベローズに問いかけ、

ジークスは郁人を背後に隠しながら

尋ねた。


「君達相手に力比べを提案する程

俺は酔狂じゃないさ。

確実に負け試合だからね」


君達、特に歩く災厄に敵うわけがない

と肩をすくめる。


「内容は単純。"飲み比べ"さ。

相手が酔い潰れるまで飲んで飲んで

飲みまくるだけだよ」



ー 「なら、俺が勝負に出る」



賭けにのると郁人は断言した。


「パパ?!」

「イクト?!」

「マスター?!」

〔あんた正気!?〕


まさかの郁人自身が出ることに

4人は驚く。


驚きの色を浮かべる4人に

自身が出る事について理由を話す。


「だって、酒飲み勝負なら

ジークスは無理だし、チイトは未成年。

ポンドは未知数だ。

なら、俺が出たほうがいいだろ?」

「でも……?!」

「たしかに、ジークス殿やチイト殿は

出られません。

しかし……」

「チェリーくんが出るなら問題無えな。

チュベローズさん。

その勝負、チェリーくんが相手するぜ」


周囲の心配を他所にローダンが

チュベローズに申し立てた。


「貴様勝手に……?!」


目を吊り上げるチイトを郁人が

宥めるため、目線を合わせて

じっと見る。


「俺なら大丈夫だから。

信頼してほしい。お願い」

「……………………………わかったよ。

パパを信じる」


パパには勝てないや

と郁人に見つめられたチイトはこぼす。


「でも、心配はするからね。

信頼と心配は別物だから」

「わかってるよ。

心配してくれてありがとうな」


郁人はチイトの頭を撫でる。

優しく撫でる郁人にジークスは

尋ねる。


「イクト、本当に大丈夫なのか?

君が飲んでる姿を私は見たことが

無いんだが……」

「飲んだことあるぞ。

その時も大丈夫だったからさ」

「……無理はしないでほしい。

私が出れたら良かったんだがな……」


私は全く呑めないからな……

と落ち込むジークスの肩を軽く叩く。


「その気持ちだけで嬉しいよ。

ありがとな」


ユーも心配そうに見ていたので、

抱えて撫でる。


「大丈夫だぞ、ユー。

皆心配性だな」

「マスターは体が弱いですし、

ジークス殿もおっしゃっておりましたが、

飲んでいる姿を見たことは1度も

無いですからな。

心配になりますとも」


私も不安と心配な気持ちでいっぱいだ

とポンドは告げる。


「決して無理はなされないように

お願いします」

「わかった。気をつけるよ」


ポンドの言葉に郁人は頷いた。


〔耳にタコかもしれないけど

気を付けなさいよ。

あんたが倒れたら大変なんだから〕


世界滅亡待った無しだと

ライコは呟く。


〔おまけに、あの変態……

なにか裏がありそうなのよね。

他に目的があるような……〕

(目的?)


ライコは言葉を続ける。


〔だって、あいつにメリットが

無いもの。

あんたが勝てば情報を得られて犯人を

捕まえれて依頼もクリア。

けど、あいつが勝てば信頼を守れるだけ。

負けた時のデメリットの方が

明らかに大きいじゃない〕


割に合わないわと告げる。


〔……なにかあいつが勝てばメリットに

なるようなのがあるはずだわ〕

(成る程な。

たしかにそうだ)


話に納得した郁人はチュベローズに

尋ねる。


「賭けを提案するのでしたら、

そちらにもメリットがあるのでは?」

「勿論。

負けた場合のリスクは大きいからね。

こっちにもメリットが無いと挑む

意味が無い」


ライコの予想は的中した。


(メリットの内容はなんなんだ?)


郁人はメリットがなにか気になった。

尋ねる前にポンドが問いかける。


「貴方が勝った場合は

どうされるのですかな?」

「俺が勝った場合はもう決めているんだ」


金色の瞳を爛々(らんらん)とさせ、

唇をほころばせた。



「内容はいたってシンプルさ。

ー"仔猫ちゃんを1晩中自由に出来ること"

だよ」



「……………………………」

「……………………………」


チイトとジークスによって

空気が氷河期のように冷たく

凍てついた。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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