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101話 ジャクショク




蝶の夢の従業員惨殺事件の話を

聞いたローダンは聞き覚えがあったようだ。

あれか!と声を出す。


「あのえげつねえ事件か!

ありゃあ、ひでえもんだったぜ。

狙ってたかわい子ちゃんもやられて

マジショックを受けたもんだ」


1回でもお話したかったなあ……!!

とローダンは嘆く。


「それにしても、お前らを呼んだ理由は

解決してもらう為でもありそうだあ」


俺にチェリーくんを連れて来るように

言ったのはその為か

と頭をかく。


「あの2人は何かと忙しい身だからよ。

マジで人手が欲しかったんだろうな」

「ローダンはなにか知らないか?

次に狙われそうな人だったり、

俺達が知らない事ならなんでも

教えてほしい」

〔どんな情報でもいいから。

じゃんじゃん教えてちょうだい〕


手を合わせて頼むと郁人に

ローダンは顎に手をやる。


「次に狙われそうな子っつても、

見習いとかのそういった勧誘は

レイヴンさんがやってるようだしよお。

あの人、人を見る目超あるから

雇われるのは大体有望株だからなあ……。

あっ!」


眉間に皺を寄せて記憶を思い起こした、

ローダンは声を上げた。


「そういや、貴族が破落戸(ごろつき)を使って

どうとかあーとか聞いたことあるな……。

たしか、令嬢が暴走してとんでもない事を

繰り返してるだったか……」

「?!

その話を詳しく教えてくれないか!!」

〔そうよ!!あたし達に教えなさい!〕


貴族、令嬢の単語に全員の視線が

ローダンに集中する。


「ローダン殿、その話をもっと

お聞かせいただきたいのですが!」


早く話をと促す視線にローダンは

狼狽(うろた)えながらも髪をかきまわす。


「詳しくは知らねーよ!

小耳に挟んだんだが………………

どこで聞いたんだ?俺??」


ローダンは唸りながら記憶の引き出しを

開けまくる。


「……あぁ!!あそこだ!!

あそこじゃねえか……!!」


そして、思い出した途端、

苦汁を飲んだ表情を浮かべた。


「………あのよ、お前ら直接聞きたいか?」

「出来たら聞きたい。

知ってるなら教えてほしいし」

「そうだな。

直接伺ったほうが人づてで聞くよりは

早いからな」

「そのほうが早い」

「なにか問題でもおありですかな?」


直接聞きたいと郁人達は告げた。


「あー………」


ポンドの言葉に頭をかきながら、

言葉に悩む。


「聞いた場所に問題あるんだよ。

特にチェリーくんが………うん、ヤバイな。

超ヤバイ。マジでヤバい。

居たほうが話がスムーズに進む可能性と

厄介になる可能性が半々だ」

「俺?」

〔なによその両極端な可能性?

なんで居たらそうなるのよ?〕


どういう事?と郁人は頭に疑問符を浮かべ

ライコも困惑気味な声を上げた。


「俺が行ってスムーズに進む可能性が

あるなら行かせてほしい。

頼むローダン!!」


郁人が手を合わせてお願いする。


「……あの御2人がチェリーに教えたと

知ったら怒りそうなんだがなあ……。

きちんと弁解してくれよ」

「了解!」


頼むぜとローダンは頭をかいた。



ーーーーーーーーーー



全員はローダンから教わった

その店のドレスコードに従い、

スーツに着替えてローダンを先導に

街を歩いている。


(……ここにもスーツってあったんだな)

〔服装は結構種類があるわよ。

あんたの言うファンタジー系なものから

現代系まで幅広くあるのよね〕


ポカンとしながら自身の着ているスーツを

見ていた郁人にライコは答える。


(意外な感じがするな。

現代的な服があるのは)

〔そうかしら?

あんたが着てる服だって現代的じゃない?〕

(あっ!たしかに!)


じゃあ意外じゃないか

と郁人は考えていると、声がかかる。


「こっから先がその店に続く道だ。

気を引き締めていけよ」

「……そんなに危ない道なのか?」

「命の危機的なものじゃねーよ。

別の意味での危機だな」

「どういう意味だ?」

「チェリーくんに教えたら俺は

ポックリされるので教えませーん。

ほら、とっとと行くぜ」


キョトンとする郁人をよそにローダンは

進んでいく。


昼前なのに薄暗く、スーツやドレスを着た

人々が行き交う、どこか怪しさが漂う

区域をキョロキョロと見渡す。


(雰囲気が全然違うな……)

〔昼間だってのに暗いわね。

なんていうんだろ?こう……

世界が違うと言うべきかしら?〕

(空に月があるんじゃないかと

錯覚しそうだよな)

〔それそれ!

太陽が空にあるとは思えない空間だわ!〕


そんな道を進んでいくと人通りが

どんどん少なくなっていき、男女比が

男に傾いていく。


「……ん?」


歩いているとたまに蛇のように

絡み付く視線がぶつけられ、

郁人は謎の身震いがする。


「どこに向かってるんだ?

たまにゾッとするんだけど……」

「パパ大丈夫?」


身震いする郁人を心配し、チイトが抱きつき

視線の盾になる。


「これで少しは大丈夫かな?」

「……チイトも見られてるけど大丈夫か?」


チイトにも視線が集まっており、

普段向けられる畏怖の視線とは違う

視線に郁人は心配になる。


「……本音を言えば少し気持ち悪いかな」


顔を曇らせるチイトの頭を郁人は

優しく撫でる。


「視線から庇ってくれてありがとう。

俺なら大丈夫だから。盾になるよ」

「その気持ちだけで嬉しいよ。

でも、パパが視線に晒される方が

耐えられないからこうするね」


チイトが笑い、パチンと軽く指を鳴らす。


「ぐわあっ?!」


瞬間、目を押さえてうずくまる男が

続出した。


「……何かしたのか?」


ジークスが尋ねると淡々と答える。


「視線をぶつけた奴等の目に

軽い呪をかけただけだ。

気味悪い想像をした分だけ痛みが

走るようにな。

……俺やパパにそういった念をぶつけるな。

道に転がる塵芥風情が」


吐き捨てるチイトの瞳に物騒な色が

宿る。


「……スプラッタ案件は駄目だからな」

「わかってるよ。痛みだけだから

心配しないで。

……おい、向かっているのは

貴様が地下に行く前に働かされた場所か?」


チイトの問いにローダンは答える。


「そうだ。そこそこ。

掃除してたらあそこの店主が客と

そんな話をしてるのを小耳に

挟んだんだよ。

ほら、着いたぜ」


ローダンが指差す先には一等明るい光が

漏れでている屋敷があった。


店構えは和とかけ離れた洋風建築だが、

薄暗い路地にあってもその屋敷がある

区域だけは高級感が漂っている。


「ここが男女問わずの……

まあ男の客が多いあの"若色(ジャクショク)"だ」

「若色ってたしか……

俺が絡まれやすいって言ってた店だよな?

危険な店なのか?」



ー 「危険だなんてとんでもない。

ここは夢を見られるとっても

素敵な場所だよ、仔猫ちゃん」



首を傾げる郁人の上から深く色気のある声が

聞こえた。


見上げると、2階のバルコニーに

その声の持ち主がいた。


濡れ羽色の髪にいやらしい程に白い肌、

恐ろしいまでに整った顔立ちの、

フェイルートとはベクトルが違う

美しさを持つ男だ。


サングラスから覗く瞳は金色に輝いている。


「とってもとっても素敵な夢が見られる。

この世とは思えない程の悦がここには

あるのさ」


サングラスの美丈夫は全員を見下ろしながら

薄い唇をほころばせる。


「火照った体をもて余した未亡人から、

女と接することを禁じられている男達と

様々な理由で高い金銭を払い、それと同等、

いやそれ以上の快楽を味わうことができる

夢のような場所、つまりは"楽園"さ」

「チュベローズさん……?!」


サングラスの美丈夫を見上げながら

ローダンは目を見開く。


「そんなに俺がここに居る事が驚きかい?

たしかに、普段ならまだ眠っている

時間だからね。

それとも、タイミング良く俺が

起きていることに驚いてるのかな?」


バルコニーに肘をつきながら、

フフと軽やかに笑うサングラスの男、

"チュベローズ"は階下に話しかける。


「俺は君が彼らを連れてくることは

知らされていたんだから起きるのは

当然だろ?

大事なお客様、その中に俺の待ち人が

いたからね。

つい、気が急いてしまって待ってたんだ。

この俺が焦らされる立場になるとは

思いもしなかったよ。

ねえ?仔猫ちゃん」


チュベローズの視線は真っ直ぐ

郁人を射ぬく。


緩やかな弧を描く金色の瞳には

期待のほかに郁人の知らない

感情が浮かんでいる。


「どこで知ったのか気になりますが……

マスターあの方は知り合いですかな?」

「パパ知ってるの?」

「どこかで会ったのか?」

〔あいつ、あんたに対して並々ならない

思いを抱いてるみたいだけど……〕

「どうなんだろ……??

会ったのかな……??」


ぶつけられる質問に郁人は頭を

フル回転させ記憶を辿る。


「もしかして覚えてない?

俺は一時も君を忘れたことは無かったのに。

あの時のことはさ」


残念とチュベローズが肩をすくめる動作で

ファーストールはフワリと揺れる。


「チェリーくん……お前確実に会ってるぜ。

あんなインパクトある言葉は滅多にねーぞ。

あと、去り方もな」


なんでお前が忘れてるんだよ

とため息と共に呆れた視線をぶつける。


(インパクトある言葉と去り方……)


郁人の頭にある光景が浮かび上がり、

声を上げる。


「!! あれだ!!

母さんに投げ飛ばされた人!!」

「投げ飛ばされたですかな?!」

「どういう状況だったんだ?!」


郁人の言葉にますます疑問が深まる

ポンドとジークス。


「思い出したか、お前。

俺だったら絶対に忘れねーよ。

あんなの」

「そう。俺が投げ飛ばされた人だ。

思い出してくれて嬉しいよ」


ローダンはそれだと深く頷き、

チュベローズは笑みを深めヒラヒラと

片手を振った。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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