99話 外部の詳しい者に聴取
タカオは魔眼を使い体力をかなり
消耗しているので自室まで送ったあと、
話を整理しようと郁人達も部屋に戻った。
「皆様、お茶を淹れました。
マスターもどうぞ」
「ありがとうポンド」
お茶を淹れてくれたポンドに
礼を言って考える。
「最初の被害者は最期まで
口を割らなかったのに、
どうして見習い達は狙われたんだ?
情報を得るためにまた従業員を
狙いそうなのに……」
〔そうよね。
被害者は情報を漏らさなかったわ。
なのになぜかしら?〕
頭に疑問符を浮かべていると
チイトが答えてくれる。
「そいつが死んだから
情報を得られたんだよ。
そいつが空間魔術に資料を
仕舞っていたから」
「どういうことだ?」
首を傾げる郁人にチイトは
説明する。
「フェイルートに最初の被害者について
さっき聞いたけど、そいつは植え付けられた
刻印で空間魔術を使ってその中に資料を
仕舞っていたんだって。
空間魔術は使用者が亡くなれば
魔術が解除され、仕舞っていた物が
その場に全て放り出されるんだよ」
「そうなのか?!」
知らなかったと驚く郁人に
チイトは得意気に話す。
「そうなんだ。
だから、そいつが死んだときに
資料が手に入ったから
他の奴は狙わなくていいんだよ」
「成る程……」
〔それでもう従業員を狙わないのね。
欲しい情報はもう手に入ったから〕
郁人は頷き、納得する。
「血塗れた資料は大半使い物に
ならなかったみたいだけど、
無くなった物から予測するに
盗まれた資料はおそらく有望株な
見習いのリストだって言ってた」
説明するチイトにジークスが尋ねる。
「さっき言っていたというが、
いつ聞いたんだ?
君はずっと共に行動していたはずだが」
「これを使っただけだ」
チイトが視線をやればその影が蠢き、
水面に物を投げたように模様が広がると、
無数の虚ろな瞳が一斉にジロッと
こちらを見る。
〔いやああああああああああああ!!〕
背筋が粟立つ光景にライコが
絹を裂いたような悲鳴を上げた。
「……!?!?」
郁人も叫びそうになったが、自身より
驚いている者がいたので冷静になれた。
(耳……が……)
ー 代償として耳鳴りがしているが。
「この数は初めて見るな……」
「これは……"シャドウアイズ"ですな。
索敵などに使える魔術ですが……
これだけ居ますと悪夢を見そうですな」
ジークスは少し顔色を悪くした。
あははと乾いた笑いをみせたポンドは
質問する。
「ですが、シャドウアイズは見るだけで
意見を聞いたりなどは出来ないはず……」
「シャドウアイズは少し手を加えると
意思伝達が可能となる。
このように笑うことも可能だ」
チイトが指を鳴らすと目玉が口へと変わり
"ギャハハハハハハハハハハハ!!"
けたたましく笑いだした。
耳をつんざくように笑う様に、
聞いてるこちらが気が狂いそうになる。
「……チイト教えてくれてありがとう。
もう大丈夫だから」
自身の精神をごりごりと削られていく
音が聞こえた郁人はチイトに話しかけた。
「?!
わかった、もう止めるね!!」
郁人の顔色が悪くなっていくことに
気付いたチイトは直ぐ様解除した。
「パパごめんね!
びっくりさせちゃって!!」
「謝らなくても大丈夫だから」
謝るチイトに気にするなと微笑む。
〔その割りには手が震えてその生き物を
ぎゅっと抱き締めてるけど〕
(そこは触れないでくれ)
精神を安定させようとユーを
抱き締めている郁人。
ユーは抱き締められ尻尾を揺らして
ご満悦だ。
いつの間にかジークスも郁人の頭を
撫でて気を落ち着かせている。
「すまないが君の頭を貸してもらう。
……あれは少しキツいものがある」
「別にいいけど。
ユーのほうが落ち着くと思うぞ」
ユーを提案してみるも、
ジークスは首を横に振る。
「私は君の頭を撫でてるほうが
落ち着くんだ」
「?それならいいけど」
「パパに触れるな!」
郁人の頭を撫で続けるジークスの手を
バシリと乱暴に振り払う。
「彼が許可してるなら触れてもいいと
思うんだが……」
「俺が嫌だ。
パパに勝手に触れるな、むしろ近づくな。
一生話しかけるな」
「それは無理な話だ。
俺とイクトは親友、固く太い絆で
しっかり結ばれているからだ」
ジークスは真剣に告げる。
「それに、イクトとはこれから
もっと仲良くなりたい。
話したい事や一緒にやりたい事、
行きたい場所など数えきれない程
存在するからな」
「……ほう。
ジジイが随分と世迷い事をほざく」
チイトとジークスの目付きが鋭くなり、
空気がどんどん冷たくなっていく。
そして空気がはりつめたものへと
変貌していき、肌を切り裂きそうだ。
「2人共……!」
「御2方!!
これからどう行動しますかな!!
方針を決めなくては先に進まないかと
思いますが!!」
郁人が制止する前に、ポンドが流れを
変えようとわざと大きな声で問いかけた。
「そうだな!
俺はもっと情報が必要だと感じるけど、
みんなはどう思う?」
便乗し、郁人も大きな声で話しかける。
「……そうだね。
情報はたしかにもっと欲しいかな」
郁人をチラッと見たあとチイトが呟く。
「次に狙われそうな奴が確実に
あの見習いだとかはあいつらにも
わからないみたいだし。
小さな人影についても情報が
もうちょっと欲しいよね」
チイトが意見を述べたあと、
ジークスも口を開く。
「……従業員や内部の者にしか
聞いていないからな。
外部の者にも話を聞きたいところだ。
客観的な意見も聞きたい」
2人は睨み合うのをやめた。
ピリッとはりつめた空気は
徐々に消えていく。
(よかった……)
静かに郁人は息を吐く。
〔こいつらの今にも殺りあいそうな
空気は怖いわよね……。
戦った前科があるから余計にかしら?〕
(それもあるだろうな。
もう絶対に戦って欲しくない
2人だから心臓に悪いな)
自身が手がけた創作キャラであり
今では家族同然の"チイト"と、
この世界に来て仲良くなり、
いつも側にいて頼りになる親友の
"ジークス"。
2人は郁人の大切な人なのだ。
以前のように命を奪い合うような事は
2度と起きて欲しくない。
もう起きないで欲しい。
郁人の切実な思いである。
(仲良くとは言わないけどさ。
2人は相性が悪いみたいだし……)
〔2人とも手合わせで互いに
気晴らしをしてるみたいだから
前よりは良いんじゃないかしら?
方法があるだけマシと思いましょ〕
(そうだな。
ポンドやローダンみたいに
手は絶対に出ないとわかってるなら、
言い合いも構わないんだけど。
険悪な空気も全然無かったし)
〔……あいつらがあの話題をする事すら
想像がつかないけど〕
郁人は移動中に口論していた風景を
思い出す。
「あっ!」
「どうしたのパパ?」
突如声を上げた郁人にチイトが
話しかけた。
「ここに詳しそうなの身近にいた!!」
ーーーーーーーーーー
チイトがシャドウアイズを送り、
フェイルートから居場所を聞いた
郁人達は暗い階段を手すりを頼りに
下へと降り続けている。
「すごい暗いな……。
この手すりが無いと歩くのも
難しいくらいだ」
郁人はその暗さで思い出す。
(あれに似てるな。
胎内巡りだったか……?
目を閉じてるのと同じ暗さだったから
妹と一緒に驚いたっけ……)
郁人は懐かしい気分に浸りながらも
慎重に進む。
「それにしても……
なんでこんなに暗いんだ?
手すりが無かったら確実に進めないぞ」
降りるだけでヒヤヒヤする
と郁人は呟く。
「ここに居るのは明かりを嫌うのが
多いかららしいよ」
「明かりを嫌うとは、この下に居るのは
どんなものなんだ?」
チイトの言葉にジークスは尋ねた。
尋ねられたチイトは嫌そうに答える。
「……あいつが言うには
"とても繊細でか弱い子達でね。
日の光は刺激が強すぎてあの子達には
合わないんだ。
だから丁重に対応してくれ"
との事だ」
「声真似上手いな?!」
意外な特技に郁人は目を丸くする。
「そうかな?」
褒められて照れ臭そうにチイトは
ふにゃりと微笑む。
「今フェイルートさんの声がした!!
マジ助けてフェイルートさーーーーん!!」
奥のほうからローダンの叫び声が
響き渡る。
「……彼も間違う程似てるらしい」
「助けてって言ってるし、急ごう!」
「進むのは慎重に行きましょう。
ここでこけたら助けるのも
難しいですからな」
手すりを辿りながらローダンの声が
した方向へ進むと、明かりが漏れている
部屋が見つかる。
暗闇にいたため漏れでた明かりでも
まぶしくて目を細めてしまう。
が、違和感を覚える。
「……明かりが嫌いな筈じゃ」
「なにかが起きたという可能性があります。
私が開けますのでマスターは後ろに」
「わかった」
目が慣れてきたのと漏れでた明かりで
輪郭がわかり、言われた通り後ろに
下がる。
「もし何かがあれば斬り伏せるぞ」
「貴様に言われなくてもそのつもりだ」
ジークスとチイトは備えて態勢を整えた。
「では、開けますよ!」
ポンドは勢いよく扉を開ける。
「わあ……!」
ー そこには日光とはどこか違う明かりに
照らされ色とりどりの花々が美しく
咲き誇っていた。
しかし、美しさよりも目を引くのは
その大きさだ。
ゆうに1番背の高いジークスを越え、
小さい花でも郁人と同じくらいの
大きさなのだ。
〔この花、大きいけどとっても綺麗ね!
まるで絵本の世界に入ったみたいだわ!〕
「すごい……ここは……」
ライコのはしゃぐ声を聞きながら、
あるものを見て郁人は言葉を
途切れさせる。
〔どうしたの?なに……が……〕
ライコが視線の先に目をやり、
郁人と同様になった。
なぜなら
「た……す……け…て……」
ー 上半身を大きな花に飲み込まれた
ローダンの姿があったからだ。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
面白いと思っていただけましたら
ブックマーク、評価
よろしくお願いします!




