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98話 魔眼の力




歪みに歪んだあとの空間に青白いもやが

複数現れる。


「なんだ?!」

「これは一体!?」


目を見開くジークスとポンドを

よそに青白い影は形をはっきり

させていく。


ー そして、それはある形となる。


「人の形になった?!」

〔これってもしかして……?!〕


この現象の理由に思い至ったライコは

息を呑む。


「あれ?

血がなかった場所になにか……?!」


もやはより正確に形を成していき、

はっきりとわかる。


血塗れていなかった場所に、

後ろに腕を縛られ、箱に座らされた

人影が出来たのだ。


それを囲うように5人の人影が

立っており、手には武器を持っていた。

離れたところには誰か来ないか路地を

見張っている人影もある。


そして、それを見守るように

小さな人影があり、側に2人が

控えていた。


「これって……?!」

「空間の記憶を読み取り、

それを再現しているみたいだよ」


チイトが息を呑む郁人に解説する。


「あの女の"魔眼"の力だね。

空間の記憶、正確には残留思念かな?

それを読み取って、見えるように

再現しているんだ」

「魔眼?」


首を傾げるとライコが答えてくれる。


〔魔眼っていうのはとっても

珍しいものなの。

魔眼には先天性と後天性が

存在するけど、あの太夫の瞳は

かなり珍しい部類よ〕


魔眼の中でも超絶レアだわ

とライコは呟く。


〔今まで盗まれなかったのが

おかしいくらいのものね〕

(盗まれることがあるのか?)


眼を?とキョトンとする郁人に

ライコは言い辛そうに語る。


〔だって、魔眼は魔道具無しでも

行使できる魔法みたいなものだから。

欲しがる輩は数知れないわ〕


魔術師なら誰でも欲しがるものよ

とライコは説明する。


〔それこそ、大金をはたいても、

どんな事をしてでも手に入れたい、

喉から手が出るほど欲しい奴だって

たくさんいるもの。

他の奴からくり貫いて自分に

植え付けた奴だっているわ〕

(もしかして……後天性って……!?)


郁人は背筋をゾクッとさせた。


〔………そうよ。

他の奴からくり貫いて

植え付けたパターンよ……。

自分で説明しときながら鳥肌が立つわ〕


説明に肩を抱き締めてしまった郁人は

考えるのをやめてじっと青白い人影を

見る。


「………あれ?」


そして、気づいた。


「なあ……あの小さい人影って

女の子じゃないか?」

「どうしてそう思う?」


郁人の言葉にジークスが尋ねた。


「いやさ、なんというか……

動作がその……ほら、ドレスの裾を

気にしている動作をしてるし。

扇を口元に当てるみたいな動作も

してるだろ?

あと、髪をくるくる指で巻いてる

仕草もしてるような……」


小さい人影をよく見ていると、

下を見て何かを指でつまんで持ち上げたり、

扇ぐ動作や指を髪に遊ばせたり

しているのがわかる。


じっと観察したジークスは頷く。


「君の言う通りだな。

という事は側にいるのは護衛だろう。

小さな人影を守っている動作が見られる」

「ジークス殿の言うようにあの2人は

護衛でしょうな……。

だとすると、あの小さな人影は身分が

高い者の可能性が充分あります。

マスター、よく気付かれましたな」


驚くポンドに郁人は理由を話す。


「その、店の常連さんに動きが

似てる気がしてさ。

背の高さは全然違うから、あの人影は

常連さんではないけど」

〔常連に女性も居るのね〕


てっきり男性ばかりかとと驚くライコに

郁人は告げる。


(たしかに男が多いけど居るよ。

ジニアさんっていうんだ。

美味しいスイーツの噂を聞いて来た

って言ってた。

いつも紅茶とスコーンにクッキーを

頼む人なんだよ)


俺におすすめの本とか教えてくれる

優しいお客さんだと話す。


〔……あんたの家、そんな喫茶店みたいな

メニューも置いてあるのね。

意外だわ〕

(食べたくて作ったら、母さんが

皆にも食べて欲しいってメニューに

加えたんだ)


女性の常連さんが出来て嬉しいって

笑ってたなと思い出した。


「イクトどうかしたのか?

もしや、体調が悪いのか?」


突然、話さなくなった郁人に

ジークスは覗き込んだ。

顔には心配だとはっきり書いてある。


「ごめん。ちょっと考えてた。

体調は大丈夫だから心配しないで」

「悪くなったらすぐに言ってほしい。

君の体調が優先だからな」

「わかってるよ。

無理はしないから」


きちんと言うようにとまっすぐ

見つめてくるジークスに

郁人は頷く。


「……それにしても」


ポンドは後ろ手に縛られている者に

目を向ける。


「最初の被害者の方は縛られ

暴力を受けていたようですな……」

「殴る蹴るだけではない。

刃物で斬ったりもしている。

まさに拷問だ」


ポンドの言うように座らされ、

被害者は殴る蹴る斬るの暴行を

受けている。

再現とはいえ、あまりの酷さに

止めにいきたくなる程だ。


「被害者はこれほどの暴力を

受けていたのか」


ジークスはあまりの酷さに

眉をしかめる。


「……焦れてるみたいだな。

あの縛られている奴は

あいつらへの恩義の為、

口を割る気はないようだ」


どんどんエスカレートしていく暴力に

チイトが呟く。


「…………………………」


タカオは微動だにせず、

ただじっとその様子を見つめていた。


〔魔眼を使ってる間は動けないみたいね。

……すごく悲しそうだわ〕

(家族が暴力を受けているのを

ただ見ているだけしか出来ないもんな……)


ライコの言うように、塗れた虚ろな

眼差しに深い悲しみが伺えた。


そして、更に暴力はエスカレートしていく

が、被害者は全然口を割らないようだ。


被害者は浴びるほどの暴力を受けても

口を割らず、ただ睨み返している。

その姿からはフェイルートとレイヴンへの

恩義の深さがわかる。


(あの2人を本当に尊敬していたんだな……)


すると、小さな人影は行動に出た。


側の人影に話しかけ、なにか

命令しているようだ。


そして側の人影は囲んでいる者達を

掻き分け、被害者のもとへ向かう。


「あっ……」


背筋がぞくりと泡立つ、

郁人は嫌な予感がしたのだ。


(これ……駄目かも……?!)


なにかが起きる、起きてしまう、

そんな予感が。

予感を振り払おうと頭を横に振り、

前を見る。


ー そして、見てしまった。


瞬きした瞬間、頭が消えたのをー。


その頭は地面をころころころころころころ。

転がり、転がり、転がり、転がり止まる。


郁人の足元で止まった頭は影なのに、

じっとこちらを見ている気がした。


「あ………!」


目があった、あってしまった郁人は

そこから視線を外せない。

息が止まる、時間も止まってしまう。


「うぁっ……?!」


再現だが、郁人は殺人を目撃してしまった。


人の命があっけなく散る様を、

無情に冷酷に刈り取られてしまった現場を。


「……パパ!パパ!!」


肩を揺さぶられ意識が戻る。


目の前にはこちらを見つめるチイトがいた。

ジークスやポンド、ユーも心配そうに

見ている。


「パパ大丈夫?」

「君には刺激が強過ぎたな……」

「マスター顔色が……」

「……ごめん。

調べに来たのにこんな調子で……」


自身の情けなさにうつむく。


〔あんたの世界では人が殺されるのは

身近じゃないのだから仕方ないわよ。

今のはあたしでも刺激が強かったし……〕

「イクトはん大丈夫?

無理したんとちゃう?」


魔眼を解除したタカオが心配して

駆け寄るが足取りは覚束ず、

顔色は青白い。


「タカオ殿!」


ふらりと倒れそうになるタカオを

ポンドが支える。


「ポンドはん、おおきに」

「俺は大丈夫。

タカオさんこそ顔色が……」

「目を使った反動や。

一気に体力を取られてしまうんよ。

気にせんといて。

それにしても……

あの子はあんな風に殺されてんな……」


下唇を噛みながら、タカオは

血塗れてなかった場所を見つめる。


「あいつは絶対に口を

割らなかったようだな」

「あの子はそういう子やったから……」


チイトの言葉に、タカオはうつむき、

肩を振るわす。


「タカオさん……」


今にも消えてしまいそうな姿に

言葉をかけようと口を開くが、

出てこない。

伸ばした手を引っ込める。


(俺にはどんな言葉をかけたら

いいのかわからない……。

大丈夫ですか?とかは

違うと思うし……。

どうすればいいのだろうか……)


郁人が悩んでいると、

ユーは殺された場所に背中の

チャックから取り出した花を供えた。


「……たしか、ユーはんやったね。

あの子の為におおきに」


花を見つめながら、タカオは呟いた。


ユーはタカオにもう1輪花を差し出す。


「わらわに?」


どうやら供える花を渡しているようだ。

タカオは首を横に振る。


「その気持ちだけ受けとるわ。

わらわは事件が解決した後、

供えさせてもらうさかい」

「……早く解決出来るように頑張ります」


郁人は拳を握りしめ、

まっすぐ見つめたあと、頭を下げる。


「早く花を良い報告と一緒に

供えてもらうために。

タカオさん、案内や目を使って

協力してくれて……

本当にありがとうございます」


タカオの言葉と行動に郁人は事件の

早期解決を改めて誓う。


「礼を言うのはこちらのほうや。

わらわは事件の被害者の関係者でも

あるさかいな。

気を遣って関わらせてもらえなんだ」


関わりたくても無理やったんよ

と告げる。


「けど、このような形なら協力してええ

と御2人に言って貰えた。

協力させてくれておおきに。

早期解決、頑張ってな。

また協力出来ることがあったら言うて。

いつでも協力するさかい」


郁人の決意を聞き、

タカオは薔薇の唇をほころばせた。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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