表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/377

96話 事件の聴取




タカオから聞いた話をまとめれば

以下の通りであった。


・男性スタッフは人事や警備を担当していた

優秀な人物であり、警備や接客の人材を

探したりしていた。

・死に様は拷問された後のようだった。

・大事な資料、人事や警備関連のものが

なくなっていた。

・それから、見習いが連続で無惨な姿で

発見されるようになった。

・殺された見習いは将来有望な者達ばかり。

・殺された日もバラバラで法則性が無い為、

常に警戒している。


話を聞いたチイトは顎に手をやる。


「……そいつが狙われたのは

やはり情報を奪うためか。

有望か判断するには必要だからな」

「チイト殿の言う通りですな」

「ということは、男性スタッフは……」

「巻き添えを食らっただけだな。

それと内部に詳しい者も疑わしい」


ジークスが推測を語る。


「その殺されたスタッフが

目当ての資料を持っているかは

ここに通っている常連の者、

もしくは内部の者でなくては

知らない筈だ」

「えぇ。

ジークスはんの推測通りやと

わらわも思います。

しかし、内部の者はあり得へん話や」


断言したタカオにポンドは尋ねる。


「高嶺の君、それはどうしてでしょうか?」

「ここに居る者は皆、フェイルート様と

レイヴン様に一生かけても返しきれへん

恩義があるんや。

恩義を仇で返すような不義理な者を

女将さんが見過ごすわけあらしまへん」

「女将さん?」

〔そんな感じの人居たかしら?

ご飯運んできてくれた人?〕


一体誰だろう?と郁人は首を傾げる。

ライコも誰だと考える。


「この方が女将さんどす」

「っ?!」

〔でっでた……!?〕


タカオが手を向けた先に蔦が突然生え、

郁人は筋肉を強ばらせてしまう。

その蔦は下を向き、ペコリとお辞儀を

しているように思えた。


驚く郁人をよそに、ユーは

胸ポケットから出てきて挨拶している。


「やはりな。

この建物自体が番人であり、

貴様の言う女将か」

「前に言ってた、生きてるって話が

関係してるのか?」


頷くチイトに郁人は尋ねた。

尋ねられたチイトは嬉しそうに話す。


「うん、そうだよ。

建物自体が植物であり魔物なんだ。

フェイルートが施したみたい」

「そんな事出来るのか?!」

「フェイルートなら息を吸うのと

同様に簡単に出来るよ。

魔物を建物にする案はレイヴンから

らしいけど」


あいつの考えそうなことだ

とチイトは呟く。


「だから、この建物には意思があって、

こうやって挨拶することも出来る。

この建物はこいつの体内でもあるから、

見張りにもなるしね。

まさに番人だ」


報連相も数秒で出来ると笑う。


「チイトはんの言う通りどす。

女将さんが蝶の夢であり旅館でもある。

そんな女将さんの目を盗んで犯行なんて

不可能や。

まず、女将さんはフェイルート様達に

忠実な御方。

怪しい者を見過ごす訳あらしまへんわ」

「自分の体内だもんな……」


異常があればすぐにわかるな

と郁人は頷く。


〔植物、いや魔物を建物に変えるなんて

想像出来なかったわ……)


有り得ないわ……

とライコは呟く。


〔よく魔物を建物にしたわね、あいつ。

反抗されたらって……

あの色気野郎には関係ないわね。

フェロモンで反抗のはの字も

浮かばないのだろうし〕


上ずった声でライコは告げた。


(なにかあれば、フェイルートに

すぐ伝わる。

だから、この建物内では犯行を

企てる事すら不可能か)


チイトとタカオの話に郁人は納得した。


「女将さんを採用したフェイルート様達の

慧眼には感服極まるわ」


柔らかな口調で目をキラキラさせながら

タカオはフェイルート達を称えた。


「……タカオさんはフェイルート達を

尊敬してるんですね」


言葉の端々からフェイルート達への

尊敬の念が漏れている事に郁人は

気づいた。

ライコも同意する。


〔あたしもそう思うわ。

本当に純粋に尊敬……

いや崇拝に近いものも感じてしまう程よ〕


宝石のような瞳をぱちくりさせた後

タカオの表情が和らぐ。


「尊敬なんて当たり前どす。

あの御方達はわらわの人生の恩人

なんやから」

「恩人というのは……?」

「どういう意味だ?」


人生の恩人という言葉が気になる2人は

問いかけた。

郁人も気になるので、タカオを

つい見てしまう。


「……あまり話すような内容とは

ちゃうと思うけど。

話さんかったら専属パーティー候補、

しかもかなり確定に近い人達に

失礼に当たるかもしれへんなあ……。

秘密が多い女は魅力的や言うけど、

聞かれたことには答えんとな」


タカオは林檎のように赤い唇を開く。


「今、夜の国がある森は以前は

パンドラからはゴミ箱のような扱い

やったんよ。

魔物が食べてくれるやろと、本当に

色々と捨てられ、その中には

“人間“もあったんえ」

「人間が……?!」


有り得ない単語に郁人は目を見開く。


「とっくの昔に禁止されとりますが、

あの国では人身売買があってな。

秘密裏にまだ続いとるんよ」


森の向こうにあるパンドラへ

タカオは視線をやる。


「……それで、商品にならへん人間は

この森に捨てられとった。

他にも使えんくなった人間も堂々と

捨てられ、その中にわらわもいた」


不自然な程に体を強ばらせ、

胸骨の辺りに手を押し付けながら

話を続ける。


「今、あの時を思い出しただけでも

苦痛なもんや。

人として全く扱われず、替えのきく

道具のように遊ばれ使われ……

そして……捨てられた」


タカオの薔薇のような頬は

昔を思い出し、青白くなる。


「森の中、このまま生きてもしゃあないと

全てを諦めていたわらわを御2人が

拾ってくださり、わらわの人生全てが

目まぐるしく変わった」


今にも倒れそうだった青白さから

うって代わり、表情が一気に和らぐ。


「あの御2人は、わらわに人としての

生き方を思い出させてくれた。

綺麗な服着て、読み書きから歴史など

多岐にわたる勉学の数々や礼儀作法を

教わり、温かいご飯に、癒しを与える

お風呂や心から休めるベッド。

わらわは生まれ変わった気分を……

いえ、間違いなく生まれ変わった!!」


胸がいっぱいで声を上ずらせながら

タカオは続ける。


「そしてこの蝶の夢という世界を、

楽園に住まわせてくれた……!

あの御2人はわらわにとって恩人、

神様と言ってもおかしゅうない。

言葉を尽くしても尽くし足らへんくらいの

素晴らしい方々なんよ…!!」


頬に手の平を軽く押し付け微笑む姿は、

美が内側から溢れ、部屋1面を照らす。


(本当に……フェイルートとレイヴンを

尊敬してるんだ、この人は……)


言葉や態度からあの2人にどれほど

感謝し尊敬しているのか郁人はわかった。


「まあ、無条件でこの楽園に居れる程

甘くはないんよ」


深く息を吸い、自身を落ち着かせる。


「蝶の夢は話術や容姿などでお客様に

現実を忘れさせ楽しい夢を魅せる場や。

自分を磨くは基本、あらゆる知識を

吸収し高みを目指すのが当たり前。

いつも磨くのにてんやわんやして、

恩を一生かけて返そうと頑張っとる」


毎日勉強、努力と自分磨きが当然

とタカオは語る。


「わらわみたいな境遇の者もおれば、

それ以上の者もおり、皆があの御方達に

尽くさせていただいとるんや。

ー だから、相手を蹴落とす、

ましてや殺人やら拷問なんてする暇、

わらわ達にはあらしまへん」


真剣な声でタカオは告げた。


その言葉から、絶対に有り得ないだと

確信する。

いや、してしまう力がタカオの声や

表情にあった。


タカオは自身の境遇を話すことで、

蝶の夢の従業員全員の無実を示したのだ。


「……わかりました。タカオさんの

言うことを信じます。

内部の方以外を調べてみます」


郁人はタカオの言葉を信じた。


「わらわの事を信じてくれるんやね。

おおきに」


嬉しそうに目を細めたタカオだが、

不思議そうに尋ねる。


「でも、わらわが言うのもなんやけど。

会ったばかりの相手をそこまで

信じてええん?

騙しとるとか、犯人を庇っとるかも

しれへんえ?」

「信じます。

フェイルート達を尊敬しているのは

本当ですから」


郁人は真っ直ぐタカオの瞳を見る。


「パパが信じるなら、俺も従うよ。

警戒は怠らないけど」

「俺も君を信じよう」

「私も同じですな」


チイトやジークス、ポンドは頷く。


「……ふふ。

皆様、特にイクトはんは随分

人が好いどすな」


花が咲くように、林檎の唇をタカオは

綻ばせる。


「そんな真っ直ぐ見られたら、

熱うなってとろけてまいそう。

フェイルート様やレイヴン様が

骨抜きになるのも頷けるわあ」

「骨抜きって……」

〔あながち間違いじゃないわね〕


タカオは立ち上がり、女将に話しかける。


「わらわは少しこの人達を

案内してくるさかい、

わらわを訪ねてくる人がいたら

今日は出掛けとるって伝えてくれはる?」


女将は頷く動作を見せると、全員に

一礼して去っていった。


「案内って……」


キョトンとする郁人にタカオは告げる。


「わらわは休みがなかなかとられへん。

やから、事件解決に協力したくとも

出来んかった」


眉を八の字にしたタカオだったが、

大輪の花のように微笑む。


「けど、こうして休みがとれたんやし、

事件解決に手を尽くしてくれはる

イクトはん達に会えたんやから

有効活用しなな。

着替えるさかい、旅館前で

待っといてくれやす?」

「わかりました……」


流れに流されながらも頷く郁人に

くすりと微笑む。


「敬語は無しでええよ。

チイトはんと同じように話したらええ」


ほな旅館前でと告げるタカオの目の奥は

イタズラっぽく輝いていた。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

ブックマーク、評価(ポイント)

ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ