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95話 連続誘拐殺人事件




「連続誘拐殺人か……」

「憲兵に頼んだ方が良さそうなものだが」


郁人達は廊下を進みながら、

依頼内容を思い出していた。


フェイルートとレイヴンの依頼は

討伐や護衛といった内容では

なかったのだ。


ーーーーーーーーーー


ー『皆様への依頼は護衛といった

ものではございません。

本来頼むような事じゃねーんだが、

さっきも言ったように猫の手も

借りたい状況でな』


はあと息を吐くと、レイヴンは

頭の後ろをかきながら話す。


『依頼内容は

“連続誘拐殺人事件の犯人“を

捕まえて欲しいんだよ』

『殺人事件?!』


予想外の内容に郁人は目をぱちくりする。


『最近、俺様達の店“蝶の夢“の従業員や

見習いが誘拐され、目も当てられない

無惨な状態で発見されているんですよ。

目星がついたとしても、まさにとかげの

尻尾切り。

次から次へと沸いてきやがる』


レイヴンは両手をチョキチョキする。


『大元を叩きたいが逃げるのが

本当にうまくてなー。

だから、その犯人を捕まえてくれって

訳ですわ。

俺様達も協力出来る範囲で協力するし、

他の従業員にも伝えとくからよお。

頼みますよ、ぬし様』

『犯人を捕まえてください、我が君』


レイヴンとフェイルートはまっすぐ

郁人を見つめた。


ーーーーーーーーーー


と、2人の依頼を引き受けた郁人達は

まず情報が欲しいと、聞き込みを

している最中だ。


「憲兵から情報聞けたりしないかな?」


捜査の進展とかを聞けたらと

提案したがチイトは首を横に振る。


「憲兵自体ここには存在しないよ。

レイヴンが自警団を立ち上げて

自ら指揮してるみたい」

「店の経営等もされてるようですし、

レイヴン殿はとても働き者ですな」

「そんなタイプじゃなかったんだけど……」


郁人は不思議そうに腕を組む。


(俺の為に変わったと言っていたが……

変わりすぎだろ)


レイヴンをかなりの面倒臭がりで、

自ら動かない性格に設定してたので

とても驚いた。


(ここに来て変わったのなら自我がある

証拠だし、良いことだな。

人を嫌っていたフェイルートも

医師として動いたり、蝶の夢という

旅館兼店の主であるみたいだし)


2人が自分で考え、自分の意思で

行動している事に郁人は嬉しくなる。


「まあ……フェイルートやレイヴンの

モテ具合にはすごく驚いたけど」

「捜査をしているのか、彼らの人気を

調べているのか分からなくなる時が

あるからな」


郁人の言葉に、ジークスは同意する。


〔あいつらのモテ具合が半端ないわ。

てっきり、色気野郎だけが人気なのかと

思ったら熱狂的なグラデ野郎のファンも

たくさんいるもの〕


聞き込みをしているのだが、

2人のモテ具合はもう凄かった。


蠱惑な美しさや医療技術は神の領域と

フェイルートを讃える者がいれば、

レイヴンの仕事の手腕やイケメンぶりなど

話す者が数多くいたのだ。


しまいには、頬を紅潮させ発狂したように

叫ぶ者も存在し、あまりのうるささに

顔をしかめるチイトがいても怯える素振りを

全く見せず、マシンガントークを

繰り出す者もいた。


「2人が慕われているのは

嬉しいことだけどな」

「パパ。

話を聞いてる限り狙われてるのは

有望株ばかりだよね?」

「チイト殿の言う通りですな」


チイトの言葉にポンドは頷く。


「しかも男性を狙ったのは1回限り。

あとは女性で有望な見習いばかり

ですからな。

更に、スカウトされて就職前の

女性まで狙われております」

「女性ばかり狙われていると思うけど

例外が男性スタッフだよな……」


たしかに、チイトの言うように

狙われてるのは有望な見習いばかりなのだ。

殺害された見習い達は店に出たら

出世間違いなしと言われていた程である。


〔有望な人が狙われているって事は……

同僚や先輩が自分の立場を脅かされない

ようにかしら?〕

(だとすると、なぜ男性スタッフが

1番最初なんだ?)


郁人は疑問の花を咲かす。


(レイヴンが言うには男性は

事務や警備担当。

女性が調理や接客担当だ。

その接客部門の見習いばかりが

殺されていて、唯一の例外は

その男性スタッフだけだ)

〔そうなのよね……

なんで男性スタッフが狙われたか

気になるわ〕

(本当になんでなんだ……?)


なにか理由がと考えを巡らせる。


「狙われたのは情報を握っていたから

じゃないかな?」


郁人が頭を捻っていると、

チイトが声をかけた。


「その従業員は結構上の立場にいると

話でわかったからね。

上にいればいるほど、いろいろと情報を

握っているから」

「成る程。

上の立場程、情報は握っているだろう」

「なんの情報だ?」


首を傾げる郁人にチイトは説明する。


「最初の奴は人事に関する

役職持ちだったから。

そういった情報は持ってたんじゃないかな?

警備に割く人や見習いとかの有望株は

リストアップしてただろうね。

……確証を得るにはそういった事に

詳しい人に聞かないと」



ー「わらわが話をいたしましょか?」



華やいだ声が後ろから聞こえた。


「誰……で……」


振り返り、声の主を見た瞬間、

息が止まる。


「お初に御目にかかります。

わらわは“蝶の夢“にて太夫をしとります。

“タカオ“と申します。

こないな軽装で申し訳ありまへんが、

以後よしなに」


華々が咲き誇る着物を艶やかに纏い、

宝石のように輝く紫の髪を流し、

右目に眼帯、左目は自信に満ち溢れた

輝く瞳をこちらに向ける。


まさに“高嶺(たかね)の花“という言葉が

ふさわしい女性がいた。


綺麗なお辞儀をした際にふくよかな

香りがふわりと薫る。


〔……わあ、すごい綺麗な人!!

あの色気野郎とはまた違った

こう……艶があるというか……!!〕

(こんな綺麗な人もいるんだ……!!)


全員が息を呑む中、チイトは坦々と

話し出す。


「貴様は俺達が知りたいという

情報を持っているのか?」

「えぇ。わらわは蝶の夢の古株。

他の方々が知らへんような情報を

知っているのは確実かと」

「そうか。

なら、貴様から話を聞かせてもらおう」

「では、話をさせていただきますさかい。

こちらに」


タカオはふわりと微笑むと、先導するように

そばにある渡り廊下へと進む。


「ほら、パパ早く行こう!」

「……うん!」

「!

待ってくれ!」

「お待ち下さい!」


今だ息を呑む郁人の腕を引き、

チイトはタカオの後を追う。

気づいた2人も急いで追う形となった。


「はじめまして、タカオ殿。

私はあちらにいらっしゃる郁人殿に

仕えております、ポンドと申します。

こちらこそよろしくお願いいたします」

「丁寧にありがとね。

ポンドはんの噂は聞いとるよ。

いろいろと慣れとるようやね」

「いえ、そんな。

貴方様の魅力に息を呑まれ、

目を奪われましたとも。

今はその魅力を間近で見たいと

勇気を振り絞っているところです」

「ふふ。ポンドはんったら上手やわあ」


そしてポンドはタカオに話しかけ、

話に花を咲かせている。


〔あいつは相変わらずだけど……

猫被り!あんたも少しは動じなさいよ!

あんな綺麗な人、滅多にいないわよ!!〕

<興味無い。

強いていうなら、パパにあの着物は

似合いそうだ>

〔……女性に興味持ちなさいよ、

あんた〕

(俺にあの着物は似合わないんじゃ

ないか?)


郁人は苦笑しつつ話をそらす。


「そういえば、太夫って言ってたけど……」

「あいつらの店、吉原の遊郭(ゆうかく)

モデルにしたらしいからね。

髪型は簪付けたらそれ以外は自由に

してるそうだけど、着物とか

礼儀とかそういうのを叩き込むのは

大変だったって言ってたよ」

「ヨシワラ?」


ジークスは聞き慣れない単語に

思わず口にしてしまう。


「受け売りだけど、吉原は俺のいた

ところにある昔の場所の名前なんだ。

そこ1帯では女性、遊女が男性に接客し、

酒を注いだり、話に花を咲かせたり、

宴会をしたりと男性の息抜きの場所……

みたいな感じだな」


説明を終えたとき、チイトが突然

郁人の耳を塞ぐ。


「パパが知ってるのはそこまでだが、

吉原は貴様が知っている知識では

娼館が当てはまる。

遊女は性的サービスをする者だが、

ここでは性的サービスは無しだ。

まさにパパが言った説明のままだ」

「成る程。君が塞いだ理由を理解した」

「?」


耳を塞がれて聞こえなかったが

ジークスは納得したようだ。


チイトは耳を塞ぐのをやめる。


「パパいきなりごめんね」

「説明感謝する。

君の説明もとてもわかりやすかった」

「パパにあれこれ聞かれても

困るからな」

「?」

「イクトの説明もわかりやすかった。

ありがとう」

「どういたしまして?」


耳を解放された郁人はなぜ塞がれたのか

わからなかったが、感謝の気持ちを

受けとる。


「着きました。どうぞ中へ」


タカオがこちらを振り返り、

襖を開けていた。


「えっと、失礼します」

「失礼する」

「失礼いたします」

「……」


チイト以外は声をかけ、入っていった。


その部屋は清潔感と共に生活感もあり、

お香のふわりと芳しい香りがする。

内装からも女性の部屋だと一目瞭然だ。


「堂々と話すべきとちゃいますから。

わらわの部屋で堪忍しとくれやす。

どうぞご自由にお座りくださいまし。

今飲み物をお持ち……」

「飲み物など不要だ。

話を聞けばすぐに去るからな。

貴様が知っている内容を話せ」

「チイト……!」


いつもと変わらぬ傲岸不遜な態度に

焦ってしまう。


(協力してくれている人に

その態度は……!!)


慌てる郁人にタカオはふふと唇を

綻ばせる。


「別に構いまへんよイクトはん。

フェイルート様達から

“チイトはんが態度を改めるのは

イクトはんのみ、それ以外の方に

改めたらそれはチイトはんではない“

と聞いとりますから」

「すいません……」


気にしてないと微笑むタカオに

郁人は謝罪する。


「イクトはんが謝られる必要は

あらしまへん。

ほら、お話するんやからどうぞ

ご着席くださいな」

「……はい」

「パパはどうして謝ったの?」

「なんでもないよ。ほら、座ろう」


キョトンとするチイトの頭を撫でる。


(チイトも人を人と見ていないし

興味すら無いからな……。

態度のことは俺がカバーしたらいいか)

〔その方が良いわね。

そいつ、あんたが言っても

聞かないわよ。

もし、聞いたとしても何十年も

かかるんじゃないかしら。

ほら、女神のあたしにでさえ

その態度だし〕

(……そうだな)


郁人はライコの意見に同意しながら

用意されていた座布団に座る。


「では、高嶺の君にいくつか

質問させていただきます」

「ええ、お手柔らかに」


ポンドの言葉にタカオは大輪の華のように

微笑んだ。






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