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94話 そうこなくてはとニカッと笑った




「失礼いたします」


突然、襖の向こうから声がかかる。


「お食事をお持ちいたしました」

「……話はこれで終いにしよう。

我が君の食事が優先だ」

「そうだな」

「パパの食事が大切だ」


3人は話を止めて、

フェイルートが許可する。


「入っても構わないよ」

「失礼いたします」


従業員達が1人1人の座卓やお盆に乗った

食事を運んでくる。


「ぬし様の席はこちらですよ?

さあさあ」

「ありがとう、レイヴン」


レイヴンに案内され、床の間を背にした

席についた。


〔それにしても、あいつの声は

本当にスゴいわね……。

ヘッドホンごしでもくらっとして

意識が奪われそうになったもの〕


あの声は反則だわ

とライコは呟く。


(大丈夫かライコ?)

〔……あんたが平気なの本当にスゴいわ〕

「パパ、ご飯食べよ。

"あったかいものはあったかいうちに"

でしょ?」


斜め前に座ったチイトが声をかけ、

意識をこちらに戻す。

ユーの食事も用意されており、

早く食べようとヨダレを垂らして

郁人をじっと見ている。


「そうだな。

では、いただきます」

「いただきます」


手を合わせ、郁人の言葉を合図に

食事に手をつける。


豪華な和食のフルコースは、

郁人には朝食の為、郁人の食事は

あっさりとしたものが多く、

日本人の舌に馴染み深い味だ。

そして、盛り付けや器の美しさで目も

楽しませた。


(こんな豪華なご飯、しかも和食が

食べられるなんて……!!)


心を弾ませながら、郁人はパクパクと

箸を進める。


(お箸があるのも驚いたけど、

ジークスやポンドが使いこなしてるのも

驚いたな)

〔あんたが寝ている間に練習したみたいよ。

綺麗な箸使いだわ。

あの生き物も使いこなしているのには

驚きだけど〕


ジークス達は箸の練習をしたのか、

綺麗な箸使いで食べながら楽しんでいる。

ユーも箸を使って食べているのには

2度見してしまった。


〔それしても……すごく綺麗だわ!

食材にこだわりを感じるし、

器や盛り付けにも品がある!

朝から贅沢の極みね!!

……って、あら?〕


ライコは不思議そうな声をあげる。


〔あんたが今食べてるの

あんたの皿にしかないわね〕

(言われてみればそうだな。

たたき美味しいのになんでだろ?)


肉のたたきはとても柔らかく、

旨味が閉じ込められながらも

さっぱり食べられる。

タレもついており、それを付けると

また違った味わいを楽しめた。


(新鮮な肉じゃないとたたきは

食べれないからなあ。

本当に美味い!タレも最高!

わさびもつけてみようかな?

でも、どこかで食べたような……?)


肉の美味しさに頬を緩ませながら、

斜め前に座るチイトに尋ねた。


「チイト。

なんで肉のたたきは俺のにしかないんだ?

すごく美味しいのに」

「その事についても今から話すよ。

フェイルート、レイヴン」


郁人の向かい側に座る2人に視線をやる。


「今から話そうとしていたんだ。

そう急かすな」

「全く、待てを覚えろよな」


フェイルート達は一旦箸を置き、

郁人を見つめる。


「では我が君、今から少し話をさせて

いただきます」

「まず、ぬし様は月に1度こちらに

通院してもらうのは聞いております?」

「うん。フェイルートから」


フェイルートの隣に座るレイヴンが尋ね、

郁人は頷く。


「そして、我が君の斜め前に座る竜人、

ジークスの血肉を食べる回数を

増やさせていただきます」

「……何回くらい?」


その言葉に郁人の反応が遅れる。


(ジークスは気にしていないけど、

俺は気が進まないんだよなあ……)


食べる当人の郁人はあの時折れたものの

やはり気になってしまう。


「月3回になります。

我が君の体に定着させるには

それくらい食べなくてはなりません。

以前はそれ以上食べていたようですが、

3回が妥当だと判断しました」

「そんなに食べられていたのですかな?!」

〔あんた、月に3回以上も食べてたの?!〕

(……やっぱりか)


思い返せば、ジークスのカツサンド、

肉を郁人は頻繁(ひんぱん)に貰っていた。

見れば味や食感など容易に思い出せる

くらいに。


血の方も口の中から鉄の味がしたのは

月に2,3回以上は余裕であったのだ。


〔それだけ食べてた上に、

不法侵入されてたのね……

そりゃ現実逃避したくなる訳だわ。

てか、不法侵入され過ぎじゃない?

1回くらい気づかなかった訳?〕


ライコははっきり疑問を口にした。

郁人は頭をかきながら答える。


(俺、寝たらなかなか起きない

タイプみたいなんだ。

妹に耳元で銅鑼(どら)を鳴らされても

起きなそうって言われたし)

〔それ永眠レベルじゃないかしら?

その熟睡レベルは〕


どんだけなのよとライコに

ため息を吐かれるなか、

郁人はハッとする。


「……って、これまさか?!」


郁人は話の流れから、自身の盆だけにある

肉のたたきを凝視してしまう。


「あぁ、俺の肉だ。

ドラケネス以来、尻尾の生えるスピードが

格段に上がった。

だから、無くなる事は無いから

安心してほしい」


君が食べたいときに食べられると

ジークスの目がキラリと光る。


「君が寝ている間に料理も教わったので

バリエーションが増えたぞ。

君を飽きさせる事はないだろう。

タレも俺の血をもとに作っているため

尻尾と一緒に味わう事が可能になった。

君の美味しそうに食べている姿を見て、

心から嬉しく思う。次も期待してほしい」


郁人の目をじっと見つめ、

頬を紅潮させるジークスは自慢気だ。


〔……あんたの分しかない理由が

十分に分かったわ〕

「うん……期待してる」


誇らしげな姿に水を差せない郁人は

渇いた笑いで誤魔化した。


(ジークスは全く気にしていないどころか

自慢気だからな。

……………もう考えるのはよそう。

作ってくれるジークスに悪いし)


そのまま食べる訳でもなく、

きちんと料理してもらってるのだしと

親友の1部を食べているという事実から

目を逸らす。


「ぬし様の体がかなり弱体化してるのを

補う為でもあるんですよ?」


気が引けている郁人にレイヴンは

理由を語る。


「炎竜大兄の鱗を飲んでも体温があまり

上がってないのがまず有り得ない事態。

ジークスの旦那の血肉を食べないと

ずっと寝たきりになってしまいます」

「それは……嫌だな」

「でしょ?」


絶対に食べてくださいと

レイヴンは念押しする。


「まあ、気力だけでここまで来れたのが

驚きなんですが。

ぬし様の気力、精神はどれだけ

タフなんでしょう?」


そこも有り得ない事なのですが

と腕を組み、首を傾げる。


「……俺様も竜人みたいに血肉を与えて

ぬし様をパワーアップ!バフ盛りまくり!

とか出来たら良かったのによお」

「心配してくれてありがとうレイヴン。

気持ちだけで充分だから」


しょぼんと肩を落とすレイヴンに

郁人は気持ちを伝える。


〔英雄だけで充分よね。

精神面な意味でも〕


ライコの呟いた言葉に郁人は心中で

大きく首を縦に振る。


「担当医から貰った薬は引き続き

常備し、飲んでいてください。

あの男の鱗の効果がいつきれても

おかしくない状態ですから」

「わかった。

薬は……まだあるし、大丈夫」


ホルダーに入れてある薬を郁人は

確認する。


「滞在中になくなったら連絡を。

処方いたしますから」

「ありがとう、フェイルート」


微笑んだフェイルートは咳払いをして、

口を開く。


「そして、治療費などですが……

その分働いてもらおうかと」

「あっ!宿泊費とかは必要無いですよ!

こっちが部屋とか全て用意したのに、

払えとは言いませんので」

「つまり、働いて返せという事ですな。

しかし、なぜ働いてなのでしょう?

支払いのほうが早いですが」


顎に手をあてたポンドが尋ねた。


「支払いでも良いんだが……

ちょっと厄介な事がこの国で

起きているんだよなあ」


両手を頭の後ろにやり、わざとらしく

レイヴンは息を吐く。


「しかも、俺様達が直接じゃねーが、

間接的に被害を受けている。

俺様達が動いてもいいんだが、

色々と引っ張りだこでよお」


猫の手も借りたいくらいに大忙し

と、座椅子の背もたれにもたれる。


「ポンドの旦那達はパーティーを

組んでるんだろ?

だから、俺様達が依頼して旦那達が

依頼をこなして治療費分はチャラ

という訳よ。

依頼達成したら、専属のパーティーに

なってもらおうとも考えてるぜ」

「専属?」


聞き慣れ無い単語に郁人が首を傾げると、

ジークスが答えてくれる。


「こういった大きな店では指名で

依頼することが多い。

そして、働きが想像以上に良いものなら

"専属契約"を結ぶ。

報酬に色を付ける代わりに最優先で

依頼をこなしてもらう為にな」

「この店でも専属契約を結べる

パーティーを探しております。

我が君のパーティーなら申し分ないかと」


目を細めたフェイルートは薄い唇に

微笑みを浮かべる。


「けど、俺とフェイルート達は身内だろ?

その事でいちゃもんつけられたりして、

フェイルート達に迷惑かからないか?」


心配そうな郁人にフェイルートは

優しく告げる。


「心配はいりません、我が君。

貴方様は専属するための絶対条件を

悠々と達成されているのですから」

「条件?」

「専属契約する為に条件が存在する

店もある。

ここはどういった条件なんだ?」

「私達も達成していなければ難しいかと」


ジークスとポンドの問いにレイヴンは

歯を見せて笑う。


「そこは全員クリアしてるぜ!

なんてたって条件は

“色香大兄の色香(フェロモン)に長時間耐えれる事“

だからな!」


レイヴンは親指をビシッと立てる。


「ここで一緒に食べてる時点でクリア!

専属になろうと様々なパーティーが来たが、

色香大兄のフェロモンに耐えられたかは

察しの通りだあ!」

「ここの専属になれば

“この旅館を滞在の間、無料で使える“

という好条件にしても耐えれません

でしたから」


処理が大変だったとレイヴンは笑い、

フェイルートはため息を吐く。


〔こいつのフェロモンに耐えろとか

相当ハードルが高過ぎるわよね。

あんた達がなんで耐えられるか

不思議なくらいよ〕

(本当になんでだろう……?)


ライコの疑問に郁人も気になった。


「で、皆々様はこの話乗りますかい?

依頼を、クエストを引き受けます?」


レイヴンの問いに、郁人は皆の顔を見て

確認したあと、口を開いた。





ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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