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第四話 ミニホムちゃんと私

 侵入者はほとんどの場合、深夜に訪れます。たまに日中に訪れるバカ……もとい、考えなしもいるにはいますが、そういった輩は全自動追い返しトラップによってご退場願っているのです。

 それゆえに本当にハタ迷惑な話なのですが、私とアーロン様の昼夜は逆転してしまっております。

 人間の昼が私たちの夜、人間の夜が私たちの昼。

 私たちがお昼ごはんと呼ぶのは深夜0時のごはん、朝ごはんと呼ぶのは夕ごはんとなっているわけです。

 こんな生活を続けていたら体調を崩してしまいそうです。まったく、吸血鬼でもあるまいに、これが勇者の家族として必要な責務なのでしょうか。そんなもの投げ捨ててしまいたいですね。

「アーロン様、そろそろお茶にしませんか?」

「え? ああうん、そうだね」

 時刻は深夜の三時ごろ。ちょうどおやつ時です。

 長い前髪をくるくるといじりながらアーロン様は答えます。

「キリがつくまでもうちょっと待ってね」

「かしこまりました。場所は裏庭でよろしいですか?」

「うん、お願い」

 アーロン様は事あるごとに前髪をいじります。そんなに気になるのなら切ってしまえばいいのにとは思いますが、そうできない理由があるのも事実。

 今日もアーロン様は前髪をいじりながら、魔導術式のプログラミングに励むのでした。


 もうちょっと待ってと言われて一時間。集中したアーロン様は、時には大好きなおやつの時間さえも忘れて、プログラミングに没頭することがあります。正確には週に二回ぐらい。数えてみると結構な頻度ですね。もう少し改善にはげむ必要がありそうです。

「あー肩こったー」

「マッサージチェアをご用意しておきますね」

「ありがと、ホームちゃん。でもお茶の後でいいよ」

 この家の裏庭には、ささやかな庭園が作られています。まあ、裏庭も含めて私なので、カスタマイズは自在です。豪華絢爛な庭にしろと言われれば、一瞬で変えてみせますよ。

 そんな庭の中央に、アーチと二人分の椅子はありました。アーチの周りには魔術で淡い光を灯しているので、暗くて手元が見えないだなんてことはありません。虫除けの術式も組んであるので、快適に外でお茶ができるというわけです。

「どうぞ。焼きりんごのパイです」

「りんご? 珍しいね、仕入れてきたんだ」

「はい、遠隔端末を使ってちょちょいっと」

「ホームちゃんってなんでもできちゃうんだねー」

 急に褒められると照れてしまいます。アーチをくねらせて照れていると、アーロン様はそれを無視して紅茶を傾けはじめていました。そんな無関心な態度をされると、ますます愛しくなってしまうではないですか。

「そういえばホームちゃんの端末って今どんな形してるの? 前はザ・村人! って感じだったけど、怪しまれないように定期的に変えてるんだよね?」

「はい、色々と使い分けてはいますが……アーロン様の前に出るとすればやっぱりこの姿ですかね」

 言うが早いか私はアーロン様の目の前に姿をあらわしました。身長は低く、体重も軽い。具体的に言えば彼女の手のひらに収まってしまいそうな、綿が詰まった可愛らしい人形の姿です。

「こんにちは、ミニホムちゃん」

「はいこんにちは、ご主人様」

 自分の端末とアーロン様が会話しているのを、本体である家が見ているというのもなんだか不思議な感覚です。

 ミニホムちゃんはちょこんと座って、小さな手でアーロン様と握手をしています。アーロン様は頰を緩めて楽しそうです。

 ああもう、羨ましい! 自分の分身だというのに嫉妬してしまいそうです!

「おや」

 空気を読んだのか読んでいないのかは分かりませんが、どうやら家の表門から誰かが入ってきたようです。

「侵入者?」

 パイを口に運ぶ手は止めないまま、アーロン様は私に尋ねてきました。私は門へと目を集中させ、ふむ、と声を上げました。

「今宵は夜に活動するべき方のご登場のようですよ」

「へぇ、一体どんな種族?」

 最後のパイのかけらをゴクリと飲み込み、アーロン様は首を傾けます。そんな仕草も非常に可愛らしいです。私の端末であるぬいぐるみが、ニヤリと口の端を持ち上げた気がしました。

「夜中に家に侵入しては、家主の精気を吸い取る……サキュバスです」

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