元勇者、ある計画を知る
「それと、もう一つお前に伝えなければいかん事があってな。」
「なんでしょうか?」
「近日中にシュヴィア城の建て替え工事が行われる。その建築士を決める『コンペティション』を行う。」
「えっ!? 本当ですかっ!?」
あの話、本当だったのか・・・・・・。
城と言えば国のシンボルと言っても過言ではない。
その建て替えを担当する事になる、としたら建築士にとっては名誉な事だろう。
しかも、先のデザインはエモルドさんが担当した。
実質上のエモルドさんの後継者を決める事になる。
建築業界に詳しくない俺でもドでかい仕事である事はわかる。
「多分、国中の建築士が手を挙げるだろう。アムール、お前はどうする?」
「・・・・・・僕は参加しません。もう、貴族や建築士の見栄とかに振り回されるのはうんざりなので。」
「そう言うと思ったわい。それでこそお前じゃ。お前はお前の好きな様に生きれば良いんじゃ。」
ホッホッと笑うエモルドさん。
多分アムールを試したんだろうな。
「ノエル殿、アムールの事をよろしく頼みましたぞ。」
教会から離れてエモルドさんに頭を下げられた。
「いやいや、頼むと言われても・・・・・・。」
「儂は今の業界内に流行る悪い風邪を治さなければいけませんからな。」
「? どういう意味です?」
「今回のコンペ、一つの課題を出そうと思ってましてな。テーマはこの儂の『終の住みか』ですじゃ。」
「終の住みか?」
「そう、儂もこの年になりますからな。そろそろ終焉について考えなければなりませぬ。だから、弟子にデザインさせよう、と思っておるんじゃ。」
そりゃあ、弟子達も気合い入れて作って来るだろう。
「因みにノエル殿は、終の住みかはどう考えておりますかな?」
「いや、いきなり言われてもなぁ・・・・・・、ただ生まれ育った家で迎えられたら良いですね。」
その為にこの村に戻って来たしな。
「ほぅ、流石は勇者、お若いのによくわかってらっしゃる。儂も同じですじゃ。最期は心穏やかに迎えたい物。無駄な装飾などいらんのですじゃ。その考えがあるか試してやろう、と思ってますのじゃ。」
なるほど、エモルドさんの様な高名な人に言われれば、価値観とかひっくり返る可能性が高い。
「まぁ、老人の最後の大掃除だと思ってくだされ。」
その顔は悪戯を企んでいる悪ガキの笑顔だった。




