幕間 偽りの聖女
ステラ・ミラールはノエルの幼い頃からの友人だった。
ハノイ村の村長の娘として、彼女は裕福な環境に育った。
しかし、出世欲の高い両親はこの小さな貧乏な村に留まろうとは思ってはいなかった。
美人で教養もあるステラを出世の道具にしよう、と思い彼女を王都の学校に通わせ貴族との繋がりを得ようとした。
それがステラのターニングポイントとなる。
純粋で優しかったステラの性格は貴族の息子達からちやほやされた事で両親と同じ出世欲が高い我儘な性格に変貌したのだ。
そのステラの美貌にやられたのがカインである。
カインはステラに様々なプレゼントを贈り彼女の心を捉えていった。
そんな中でステラは聖女の認定を受ける。
そして、ノエルと再会する事になるのだが、この時のステラにとってはノエルは只の幼馴染みであり、出来れば隠したい過去を刺激する厄介な人物だった。
だから、カインの計画に乗ったのだ。
勇者パーティーとして魔王を討伐に成功した彼女は、カインからプロポーズを受け了承し、婚約を発表した。
その後は王妃教育を受け、戴冠式兼結婚式でこの国の女王に君臨する。
彼女の未来は明るかった。
しかし、直前になって状況は一変した。
グダールの件である。
勇者パーティーの一員だった彼が行方不明となり、更に過去、そしてパーティー参加時に起こしていた女性スキャンダルが発覚し、国民のお祝いモードは一転し王族、勇者パーティーに対する不信感が溢れていた。
当然だがその矛先はステラにも向かっていた。
ステラはグダールの件に関して捜査官から事情聴取を受けたが、自分は無関係だし知らない、と言った。
だが、それは全員の力を合わせて魔王を退治した、という勇者パーティーの美談を真っ向から否定する事になる。
ズブズブと彼女は底無し沼に足を踏み入れている事に気づいてはいない。
「はぁ・・・・・・。」
結婚式を直前に控えた彼女は憂鬱だった。
ここ最近の国民や王宮内での重い雰囲気や冷たい視線がちやほやされてきたステラにとってはキツかった。
「大丈夫よ、明日はきっとなんだかんだ言ってお祝いしてくれるに決まっている。勇者と聖女が結婚するのよ。最高のカップルじゃない・・・・・・。」
一人自分を奮い立たせる様に呟くステラ。
「それはどうかしら?」
「っ!? だ、誰っ!?」
突然、自分以外の声がしてステラは振り向いた。
「誰って、自分の雇い主を忘れた訳?」
「えっ・・・・・・、あ、貴女は・・・・・・。」
「聖王ミラージュ、引導を渡しに来たわ。」
「い、引導・・・・・・?」
突然現れたミラージュに戸惑うステラ。
「ステラ・ミラール、聖女である事を取り消し、能力を回収させてもらうわ。」
「な、何でですかっ!? 私は聖女として魔王を倒しましたよっ!!」
「でも、勇者ノエルを裏切ったじゃない。私が知らない、とでも思ってるの?」
冷たい視線で睨み言うミラージュに脚がすくみその場で座り込むステラ。
「それに聖女は結婚してはいけないの。世界の為に平和を祈るのが聖女の役目。でも、貴女はそれを放棄して破った。」
「そ、そんなの聞いてない・・・・・・。」
「言ったわよ、私は。聞かなかった、じゃ済まされないわよ。」
ステラは聖女認定の為に一度だけ聖国に行き、ミラージュと対面している。
その時はミラージュは聖服を身に纏い、顔も隠していた。
聖女の心得や使命を説いたのだがステラは全く聞いていなかった。
「私の言葉を無視した時点で、取り消せば良かったわ。性格まで見抜けなかったのは私の落ち度よ。」
「も、申し訳ありません・・・・・・。」
「謝れば済む問題じゃないわよ。貴女は神が選んだ勇者を裏切った。それは神に喧嘩を売った事にもなるのよ。だから、その身で償いなさい。」
ミラージュはそう言ってパチンと指を鳴らした。
その瞬間、ステラは体から力が抜けていくのを感じた。
「それから、この子も回収させてもらうわよ。」
「えっ・・・・・・。」
ミラージュの腕の中にいつの間にか毛布に包まれた『胎児』を抱えていた。
その胎児は光と共に赤ん坊になっていく。
その時、ステラはお腹の辺りが空っぽになっている事に気づいた。
「そ、その子は私の・・・・・・。」
「そう、貴女の子だけど、聖女は性行為も禁止している。だから、この子はしかるべき安全な所に預かってもらい育ててもらう。」
「か、返してっ! 私の赤ちゃんを返してっ!」
「貴女は自分の罰を受け入れなさい。まず貴女が変わらなければこの子と会う機会は永遠に来ないわよ。」
そう言ってミラージュは姿を消した。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
ステラは泣き崩れた。
因みにミラージュが言っていたしかるべき安全な所とはノエルの事であり、ミラージュから「この子を預かって♪」と言われ、呆然となるのは別の話である。