幕間 戦士の末路(残酷表現あり)
最初に書いておきますが今回の話はホラー表現がありますので苦手な方は読まない方がよろしいか、と思います。
グダール・カファンには夢があった。
貧しい家の出身である彼には強い出世欲があり、周りの友人達に『俺はいつか地位も名誉も金も女も手に入れる!』と宣言していた。
成長したグダールは騎士団に入隊し、一兵士として国の為に戦ってきた。
だが、彼には悪い癖があった。
それはかなりの『女好き』だ、という事。
女性関係のトラブルを度々起こしてはガッシュ将軍に怒鳴られている。
しかし、反省する事は無かった。
そんな彼にチャンスがやって来た。
勇者パーティーの一員に選ばれたのだ。
勇者に選ばれなかったのは不満ではあったが、彼にとっては最大のチャンスだった。
更に国王からの、勇者ノエルの手柄を横取りしてカイン王子を勇者として名乗らせる、という計画に彼は乗ってしまった。
そして、魔王討伐に成功した彼は報酬として王都に立派な家をもらい、将来の軍の幹部の地位を約束された。
更に家にはメイドとして数人の彼好みの少女達を雇い、毎晩『夜の奉仕』をしてもらっている。
将来の国王であるカインの後ろ楯もあり、ガッシュ将軍も煩くは言わなくなった。
正に彼の人生は順風満帆だった。
そんなある日、かつての友人がグダールに会いにやって来た。
「久しぶりだな。噂には聞いていたが凄い出世だな。」
「そうだろそうだろ。勝ち組って感じだろ? 俺の人生、薔薇色って感じだろ?」
「そうだな。ところでさお前『アンヌ』って覚えているか?」
「アンヌ? 確か、近所に住んでいた地味な感じの女だっけ? ソイツがどうかしたか?」
「・・・・・・自殺したよ。」
「・・・・・・は?」
「自宅で首を吊ってるのが発見されたんだ。遺書も置いてあったんだが、それにお前の事が書かれていたんだよ。」
「はぁっ!? 何で俺の名前が書かれてるんだよっ!?」
「俺も詳しくは知らないがお前に対する恨み言が書かれているみたいなんだ。お前、何かやったのか?」
「そんな訳ねぇだろっ!? あんな地味な女、頼んでも・・・・・・。」
その時、彼は思い出した。
まだ軍に入る前、悪友数人で遊び半分でアンヌを襲った事を・・・・・・。
「・・・・・・それとな、お前とつるんでいた奴等、ここ最近、連続で行方不明になってるんだ。ある日、突然姿を消してるんだよ。」
「ゆ、行方不明・・・・・・。」
「まぁ、偶然だと思うけど、気を付けろよ。」
グダールはただ頷くしかなかった。
友人が帰ってからグダールの頭の中にはアンヌの事でいっぱいになっていた。
彼女の死に関してではない。
昔の自分の愚行が世間にバレた場合、全てを失う可能性が高いからだ。
「アレがバレたら俺は終わりだ。なんとかバレない様にするには・・・・・・。」
嫌な汗が体中から出てくる。
さっきまでの浮かれていた気分が一瞬にして吹っ飛んでいた。
「失礼致します、ご主人様。」
「っ!? な、なんだ? 何の用だ?」
突然、メイドが入って来て一瞬ビクッとしたが直ぐに何も無かった様に対応する。
「シーツの交換に参りました。」
そう言ってメイドは布団のシーツを交換し始めた。
メイドは表情は見えないが体つきは良い。
気分転換でもしよう、とグダールはメイドに近づきお尻を触った。
「ひゃっ!」
「へぇ、感触が良いな。結構好きな方なんだろ。」
「な、何がですか・・・・・・。」
弱々しく答えるメイド。
「今夜は人恋しい気分なんだ。わかるだろ?」
ニヤニヤしながら言うグダール。
「・・・・・・えぇ、わかりますよ。今夜は貴方を地獄に突き落としたい気分です。」
「はぁ、何を言って・・・・・・。」
その時、初めてメイドの顔を見た。
「お、お前は・・・・・・。」
「久しぶりね、グダール。そうよ、『アンヌ』よ。あの日の夜のお返しをしに来たわ。」
アンヌと名乗ったメイドはその姿を変貌させた。
頭には角が生え、目は銀色に輝き、口には牙があり、爪は長く尖り、服装もメイド服から露出度の高い服になっていた。
「な、なんだよっ!? その格好はっ!? それに死んだはずじゃなかったのかっ!?」
「えぇ、死んだわよ。貴方達を恨んでね。それが邪神様に気に入られたみたいね。今の私は邪神様の僕よ。」
「じゃ、邪神だってっ!?」
グダールは壁に飾ってあった刀を取り構える。
「ふざけるなっ!! 魔王を倒したこの俺が返り討ちにしてやるっ!!」
そう言ってアンヌに向かっていった。
しかし、サッと避けられ腕を捕まれた。
その瞬間、ジューという音と共に肉が焼けただれる臭いがした。
「ぎゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!! あづいあづいあづいあづいぃぃぃぃっっっっ!!!!」
振りほどこうとしても振りほどけない。
「どうかしら? その腕じゃあ剣も握れないわね。」
そう言って顔を近づけるアンヌ。
グダールは思わず仰け反る。
だがアンヌはグダールの首もとに口を近づけ
ガブリッ!!
「ぎゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!! いだいいだいいだいぃぃぃぃっっっっ!!!!」
「ふふふっ、貴方の肉も血も全て私の物。私が全ていただくわ。」
「だ、だれがぁ、だ、だずげでぐれぇ・・・・・・。」
「言い忘れていたけど、此処のメイドは私が全部いただいたわ。この屋敷も全部邪神様の管理下になってるわ。」
アンヌはグダールをベッドの上に放り投げた。
腕はちぎれ出血が止まらずグダールは既に虫の息だ。
「さぁ、私と一緒に冥界に逝きましょう。既に仲間も逝ってるから。」
意識が朦朧としている中、グダールの体はベッドに沈んでいく。
腕や足がベッドから出てきた手により捕まれベッドの中に引きずり込まれていく。
もう抵抗する力も残っていないグダールは何でこうなったかを必死に考えていた。
身の丈に合わない夢を見てしまったからか?
女心をわからずに弄んでしまったからか?
カイン王子の誘惑に負け勇者を見捨ててしまったからか?
「あぁ、言い忘れていたけど貴方が見捨てた勇者ノエルは生きてるわよ。」
・・・・・・あぁ、そうか。
神に選ばれし勇者を見捨てた時点で神の怒りを買ってしまったんだ。
漸く自分の罪に気づいたグダールは後悔の念を胸に意識を手放した。
翌日、グダールが来ない事を心配した部下がグダールの家に入って驚愕した。
メイド達の姿は無かったが壁には血がびっしりとへばりついていた。
グダールの部屋に行くと部屋の至るところに血の跡があり、ベッドの上には血が人の形に残っていた。
調査は行われたが、真相はわからずじまい。
後年、この屋敷は『呪われた家』と呼ばれ誰も立ち寄らなくなった。
近くを通ると男の後悔の泣き声が聞こえるらしい・・・・・・。




