元勇者、商会の末路を聞く
「メントル商会は元々、リッセルから声をかけられて始めた店だったんだ。 リッセルは資金を出してくれたんだが最初から軌道に乗れば俺を切り捨てる算段だったんだろうな」
「その通りです。ワイズさんが出ていってからはリッセルのやりたい放題でした。我々の給料や予算は減らされ、しかし今まで以上の質の良い物を作れ、と指示を受けていました」
「滅茶苦茶な話だな」
「あぁ、良い物を作るにはそれなりに金をかけなきゃいけないのに……、俺を見てわかっている筈だと思っていたんだが」
「次第に不満が溜まり店を辞めていく者が続出していき私も辞めました。ですが退職金は出ませんでした……」
「えっ!? 普通は出すだろっ!?」
俺は驚きの声をあげた。
「はい、しかし色々理由をつけて出さなかったんです。それで私や心ある者は決心をしました。『引導を渡す』と」
そして、リッセルがやって来た不正の証拠やら裏帳簿やらを持って国に告発をしたそうだ。
そして、結果として倒産する事になってしまった。
「我々としてはワイズさんに戻って来て欲しかったんですが連絡先がわからず……、事後報告になってしまい申し訳ないです」
「そうか……、でもこれで良かったかもしれないな」
そう言ってワイズは改めて建物をみた。
「会えて嬉しかったよ。これで本当に新たな一歩を踏み出せる」
「商会が無くなったとしても私はワイズさんのやる事を応援しております」
「ありがとう、今度新たに道具屋を始める事にしたんだ。機会があったら来てくれ」
「勿論ですともっ!」
ワイズと男性は固い握手をした。
ハノイ村に戻って来て俺達はクワイアの店で夕飯を食べていた。
「はぁ~、お前が羨ましいよ。何があっても信頼できる仲間がいて……」
「何言ってるんだよ、お前だって仲間がいるじゃないか」
「俺は一旦裏切られたんだぞ? 仲間だと思っていた奴等や国に。 あの時は本当に『魔王を倒すんじゃなかった』って一瞬だけ思ったよ」
「そんな事思うなよっ!? 洒落にならんぞっ!」
「本当に一瞬だけ世界の滅亡を望んだよ」
「闇堕ち寸前だった!?」
「まぁ、結果として今は充実した毎日を送っているから幸せなんだけどな」