幕間 レバニアの精霊姫
レバニアの第一王女の『キャミー・レバニア』は精霊に愛されている少女である。
生まれた時から精霊の加護を持っており、大事に育てられてきた。
いつも笑顔を振り撒く彼女は国民から『レバニアの天使』、『精霊姫』と言われ愛されてきた。
そんな彼女だが、現在自室に立てこもり中である。
「キャミー、頼むから出てきてくれ。」
「嫌です! サーニャ姉様を追い出したお兄様とは、会いたくもありませんし話したくもありません!」
キャミーの部屋の扉の前で説得しているのはカインである。
「ステラだって素敵な女性だ。きっと一度会えば好きになるよ。」
「嫌です! あの方は嫌いです!」
ピシャリと扉越しに言い放つキャミー。
「お前が出てこないと事が進まないんだ。頼むから顔だけでも見せてくれないか?」
「嫌です!」
サーニャと婚約破棄してからずっとこの調子である。
カインがキャミーの説得をしているのには理由がある。
レバニアには重大な決断をする時には『王族全員の賛成が必要』という法律がある。
これは強権を発動しないようにする為の大事な法律である。
ただし参加できるのは成人として扱われる15歳から。
キャミーは今年の誕生日で15歳となった。
カインの国王就任やステラとの結婚は、キャミーが15歳になる直前に決まった事。
キャミーとしては自分の意見が入っていない、独善的に決まった事なので腹がたっている。
更に言えば、キャミーはサーニャの事を姉として慕っていたので、彼女を追い出したステラを許す訳にはいかない。
15歳の誕生日の時にキャミーはこう宣言した。
「私はお兄様の王位就任と結婚には反対です。戴冠式も結婚式も出ません。」
その日以来、キャミーは部屋に立て籠った。
最初は呑気に構えていた家族達だったが、事の重大さに気づいたのは数日後だった。
精霊の加護が無くなってしまったのである。
キャミーの怒りに反応した精霊達が離れてしまったのだ。
それで、現在に至るまでキャミーの機嫌が直る様に説得しているのだが、全く相手にされてない。
それもそのはずで自分達が何をしたのか、を理解していないからである。
「カイン、キャミー様はまだ出てこないの?」
「門前払いだよ・・・・・・、結婚式まで数日なのに。でも、きっとステラに会えば変わると思うんだ。」
「私もよ。キャミー様の事は私も好きだから。」
一旦、カインとステラは立ち去った。
「・・・・・・全く、自分達が犯した事を理解してないんだな。」
立ち去って行く姿を廊下の曲がり角から見ている人物がいた。
ミレットである。
二人の姿が消えたのを確認したミレットはキャミーの部屋の扉をノックする。
「キャミー、僕だよ、ミレットだ。サーニャの居場所がわかったよ。」
「えっ!? 本当ですかっ!?」
ガチャンと勢いよく扉を開けたキャミー。
「うん、だから部屋に入っていいかな? 色々話さなきゃいけない事があるんだ。」
「ミレット兄様なら良いですよ。」
キャミーの部屋に入ったミレットは、部屋の中を漂う精霊達の数に驚いた。
「また増えたんじゃないか?」
「私を心配してくれて他所の国から来てくれた子達なんです。毎日お喋りして楽しかったです。」
精霊と話す事が出来るのはキャミーだけである。
精霊と話し国に根付いてもらい恩恵を与えてもらう。
これがキャミーの役割であり『精霊姫』と言われる由縁である。
ミレットはノエルの事、魔王討伐の時に何が起きたのかを全て話し、サーニャがハノイ村にいる事を話した。
「やっぱりそうだったんですね。違和感をずっと感じていた理由がわかりました。」
「おかしいって気づいていたんだ?」
「お兄様やお父様から『嫌な物』が出てましたから。」
キャミーは人の感情を具現化して見る事が出来る。
この能力は余り知られていない。
「それで、僕は国を離れる事にしたよ。キャミーはどうしたい?」
キャミーは周りを漂う精霊達の様子を眺めて
「精霊達もついていくって言っています。私もこの国を離れます。」
国の衰退が決まった瞬間だった。




