元勇者、呆れる
「ノエル、これ見てくれ。」
ガーザスが一冊の本を持ってきた。
「何の本だ?」
「国が作った『勇者の英雄譚』。国民に一冊ずつ買わしてんだよ。金貨一枚で。」
「こんな本が金貨一枚? 高いな。」
「だろ? 無料ならともかく金を取るんだぞ? 貧乏人にもだぞ?」
「金貨一枚なんて用意出来ないだろ。」
「だから、国が立て替えてやってるそうだが、事実上の借金だよ。」
酷すぎて呆れてしまう。
中身を読んでみると内容がかなり違う。
「アイナ、これ明らかに創作だよな?」
「そうね、私勇者に惚れたなんて事は一度も無いし、かなり美化されてる。」
ドラゴンを一撃で倒した、と記述してあるが実際は結構ギリギリで倒したよ。全員が満身創痍だったし。
旅の中で恋話なんて甘いエピソードは無かった。
書いてある事のほとんどは嘘だ。
訴えたら絶対に勝てる事案だ。
「もうすぐ、『戴冠式』と『結婚式』だからな。改めてカイン王子に箔をつけておこうとしてるんだろ?」
「かといって早すぎだろ? 魔王軍の残党の動きもあるだろうし、こういうのは後世の人々が書く物だろ?」
「俺もそう思う。一部の国民達は不満を洩らしているよ。」
だろうな。
評価をするのは自分じゃなくて他人なんだよ。