元勇者、村に帰る
「何とか戻って来た……」
俺は半年かけて元来た道を歩き続け、ようやく生まれ故郷である『ハノイ村』に帰ってきた。
その道中に、魔王討伐時に寄った村や町を通ったが、みんなが笑顔だった。
それを見ただけで、俺がやった事は無駄じゃあ無かったんだな、と思えた。
勿論、俺が勇者である事は知らないので、普通の旅人として接してくれた。
宿に泊まりたかったがあいにく金は無かったので森などで野宿した。
食事は山菜とか獣を狩って焼いたりして食べた。
俺の故郷は山奥にあり、国と国の境界線上にある。
自然に囲まれた典型的な辺境の村だ。
途中で王都に向かう分かれ道があるのだが、俺はそれを無視して森の中に入り山へと入って行く。
薄れかけた懐かしい記憶を頼りに進んでいくと村に着いた。
久しぶりに訪れた我が故郷は、見るからに『廃村』となっていた。
「旅に出る前より廃れているなぁ」
畑は荒れ果て、建物はボロボロ。
「新しい人生を送るには丁度良いな」
俺は自宅に入った。
「ただいま」
当然だが返事は無い。
まぁ、当たり前か。
埃だらけで汚いが、部屋の隅に置いてある写真を見つけた。
小さい頃の家族写真だ。
俺の両親は結構有名な冒険者だった。
親父は元々国の騎士団の団長を勤めていて、お袋はどっかの貴族の娘だったらしい。
でも、色々あって親父は騎士団をクビになり、お袋は実家から勘当されたそうだ。
俺は冒険者の頃の両親しか知らないから、その頃の両親の話を聞いてもピンと来ない。
ここでの生活は、決して豊かでは無いけども、幸せだった、と思う。
そんな両親も既に亡くなっている。
天涯孤独になってしまった俺だったがステラの実家にお世話になりながらも自立を目指して頑張っていた。
そんなある日、国から呼び出され、勇者の称号を与えられた俺は、仲間と一緒に魔王討伐の旅に出た。
そして今、こうして帰って来た。
村人達は王都に移住した。
此処での生活には、不便しかない。
それでも、俺はこの村に帰って来た。
俺にとって此処は、どれだけ不便であろうとも、居心地のいい場所なのだから。