幕間 魔法使いの後悔
私アイナ・ネカールは魔導士のエリート一族に生まれた。
幼い頃から魔法の英才教育を受け魔術学院を首席で卒業。
そんな私が勇者パーティーに選ばれる事は当然といえば当然の事。
魔王を討伐出来れば私は宮廷お抱えの魔導士として将来が約束される!
ただ、任命式の後、勇者を除いた私達はカイン王子に呼び出された。
勇者の手柄を俺の手柄にしろ、討伐後に優遇出来るようにしてやる、と。
今、考えてみれば神が選んだ勇者の手柄を横取りするなんて、神に喧嘩を売るような物だったんだけど、浮かれていた私達は王子の依頼を承諾してしまった。
私達は勇者よりもカイン王子をとってしまった。
結果、勇者ノエルが魔王に最後の一撃を与えた直後に魔方陣を展開し、私達は転移した。
そして、後から来たカイン王子と合流して私達は国に凱旋した。
市民からは『英雄』と呼ばれ、国からは報奨として王都に豪華な家、更に宮廷魔術師に任命され私の未来は既に約束されていた。
・・・・・・はずだった。
魔王討伐から数ヵ月が経過した現在、私は引きこもりになっていた。
報奨で与えられた家の一室から出ず、何もする訳でも無く、私はボーッとしていた。
私がこうなってしまったのは、宮廷魔術師として城にやって来た初日に起きた、ある出来事がきっかけだった。
宮廷魔術師には専用の部屋が与えられ好きなように使う事ができる。
新人である私は先輩の魔術師に挨拶をした。
期待の言葉をかけられ私は有頂天になっていた。
だが、ある先輩魔術師だけは違っていた。
「君、どんな魔法を使えるの?」
「はい、全ての属性の魔法が使えます。」
「ふむ、・・・・・・精霊術や死霊術、封印術は使える?」
「えっ!? いや、あの・・・・・・攻撃魔法だけです。」
「う~ん、それじゃあこの仕事は厳しいかもね。僕達の仕事は国を支え豊かにする事なんだ。魔王が倒された事で魔獣の襲撃も少なくなるだろうし・・・・・・、まぁ、これから覚えていけば良いと思うけど。」
この言葉の意味を私はすぐに気づく事になった。
宮廷魔術師の仕事の中には、国民からの相談の解決、という物がある。
不作で困っている、水不足を何とかしてほしい等、生活に関する相談が山の様に来ている。
生まれてこの方、攻撃魔法しか使った事が無い私にはどうしようも無い事だ。
私に与えられる仕事と言えば、畑を荒らす野性動物を追い払う事ぐらいだった。
じゃあ、今から覚えれば良い話なんだけど術が複雑で難しい。
私は次第に自信を無くしてしまい、自分の家に籠るようになってしまった。
こんな事になるんだったら宮廷魔術師になるんじゃなかった・・・・・・。
今更辞めるって言っても、家や国のプライドがあり、辞めたくても辞められない。
懺悔したくても勇者を裏切った、なんて言える訳がない。
八方塞がり、というのは正にこの事だった。
闇の中をさ迷っている心境だ。
心身共に限界を迎えていた私は遂に王都を飛び出してしまった。
何処かの森か田舎の村に籠って暮らそう、そう思っていた。
そして、私はある土地にやって来た。
人が住んでそうな気配は感じないけど、一軒だけ整備されている家があった。
藁をもすがる思いでドアを叩いた。
「はいはい、誰で・・・・・・。」
出てきた住人の顔を見て固まった。
「ノ、ノエル・・・・・・。」
「お前・・・・・・、アイナか?」
死んだ、と思っていた勇者ノエルが目の前にいた。