幕間 レバニアの鬼将軍
レバニア軍総隊長の『ガッシュ・アルマティ』将軍はこれまで数々の修羅場を潜り抜けてきた猛将である。
その自ら斬り込み隊長として先陣を斬り、戦場を駆け抜け暴れまわる姿は、他国からは『レバニアの鬼将軍』と呼ばれ畏れ奉られていた。
そんな彼だが家庭に入れば良き父、良き夫として家族を愛している。
特に一人娘のサーニャに関しては溺愛している。
だからこそ、王族からの一方的な婚約破棄は表には出さないが内心は腸が煮えくり返っていた。
しかし、相手は王族であり、自分は仕える一兵士である為、反論は出来なかった。
本当は一発ぶん殴ってやりたいのだが、そんな事をしたら家族共々悲惨な目に遭うのはわかっている。
なので、今は我慢している。
更に言えば、先日、メタノル王に呼ばれ、近日中にカイン王子を王の座につける事を言われた。
その際、軍の責任者として勇者パーティーの一員であるグダールを新たに任命する、そのサポートをしてほしい、と言われた。
つまり事実上の『引退勧告』を受けたのだ。
ガッシュ将軍だって、若くはないし自分の引き際位はわかっている。
しかし、それは自分で決める物であって他人が決める物ではない。
それにグダールの実力に関しても些か疑問がある。
勇者と共に戦い魔王を倒した、と言っているが、そこまで強いとはガッシュは思っていない。
ガッシュから見れば一般兵よりちょっと強いぐらいである。
そんな奴が軍を統率出来るのか。
そんな訳で彼は現在、人生の岐路に立たされている。
「失礼致します。ガーザス・エドハルト部隊長、入ります!」
「うむ、入れ。何かあったのか?」
「はい、至急将軍の耳に入れておきたい事がありまして・・・・・・、お嬢様に関する事です。」
ピクッ
「・・・・・・サーニャがどうかしたのか?」
「実は、お屋敷から姿を消しました。」
「なんだとっ!?」
ガッシュはガーザスからの報告に思わず立ち上がった。
「ご安心ください。お嬢様の身柄は既に保護しております。自分の知り合いで信頼できる男がお嬢様を助けまして、現在療養しております。」
ガッシュにとってはサーニャがまさか家から出る、なんて考えていなかったので正に寝耳に水である。
「サーニャは・・・・・・、無事なんだな?」
「えぇ、勿論です。」
「そうか・・・・・・、すぐに迎えに行く。それで、サーニャを保護した男の名は?」
「ノエル・ビーガー、と言います。」
「ノエルっ!? ノエルというのはまさか・・・・・・。」
「はい、真の勇者です。」
ガッシュも名前だけは知っている。だが、報告書では勇者はカイン王子の名に書き換えられていた。
ガッシュの王国に対する不信感はそこから始まった。
実はそれだけではないのだが・・・・・・。