幕間 とある令嬢
その日は大雨が降っていた。
誰もが傘をさし、軒先で雨宿りをしていた。
そんな大雨の中を傘もささずに、ずぶ濡れになりながら歩く少女がいたら人は注目するだろう。
その少女はまるで死に場所を求めてさ迷っている様に見えた。
目に光は無く、フラフラと歩く少女に雨宿りをしている人々は憐れみの目で見ていた。
彼女は『サーニャ・アルマティ』、レバニア国王子の元婚約者である。
それはサーニャにとって青天の霹靂だった。
突然、王国から『カイン王子との婚約を破棄する。』と一方的な連絡を受けたのだ。
当然、両親は納得が行かず説明を求めたが相手にはされなかった。
サーニャにとっては幼い頃から王妃教育を受けいつでも結婚出来る状態だった。
しかも、生真面目な彼女はカイン王子一筋で出来る限り尽くしてきた。
それなのに婚約破棄されたのでショックは大きかったが『私に至らない所があった。』と無理矢理納得するしか無かった。
しかし、婚約破棄の数日後にカイン王子の婚約が発表された。
相手は一緒に魔王討伐した仲間の聖女。
その事実はサーニャの心を粉々に砕くのには充分な理由だった。
その日からサーニャは部屋に引きこもった。
両親もショックを受けているので仕方がない、と使用人達にサーニャの様子を監視しておく様に伝えた。
暫くしてサーニャは夜に家を出て、王都をフラフラとさ迷う様になっていた。
しかし、朝になればサーニャは家に戻っていたので使用人達は気づいてはいなかった。
寝間着姿でさ迷うサーニャの姿は王都では噂になりつつあった。
勿論、サーニャがカイン王子の元婚約者とは知られていない。
でも、何かあった事は何となくだが察しは出来るが関わりは持ちたくない。
王都の人々はただ見ているしか無かった。
この大雨の日、彼女はいつの間にか王都の外まで出ていた。
そして、王都から離れた小さな村に来ていた。
彼女は疲れたのか空き家となっている一軒の家に入り、そのまま床に寝てしまった。




