元勇者、王妃から提案を受ける
「それで……、今日は何の用で?」
「純粋に領内視察よ、抜き打ちでたまに回っているのよ。」
「母上は昔からそうですよね、叩き起こされて『今から視察に行くわよ。』て言ってある領に行って領主の不正の現場を抑えてそのまま大暴れした事もありますよ……。」
何とも迷惑な目覚まし時計だなぁ、それ。
しかも、多分情報を握っていて確信的にやったんだろう。
「何事もルールに則ってやってると相手に逃げ口や言い訳を考える時間を与えてしまうから、たまにはレールから外れる事も重要よ。シュバルツは生真面目だから。」
「そのせいで軍や捜査官から文句を言われるのは僕なんですよ。フォローする身にもなってください。」
散々振り回されてきたみたいだなぁ、シュバルツ。
ただ、俺としてはこうして本音で言い合える親子関係というのは羨ましい。
俺なんか両親とも亡くなっているからなぁ……。
「で、話は変わるんだけど真面目な話、実はノエルに補佐官をつけよう、と思っているの。」
「補佐官?」
「領地が広くなった事で様々なトラブルがこれから起こると思うわ。そこでサポート役が必要になってくるわ。」
なるほど、それは確かに一理ある。
「もしかしてシュバルツが担当するのか?」
「それも考えたんだけどシュバルツにはまた別な事を頼むから。『娘』を補佐官に任命するわ。」
「えっ……、『リリア』が来るんですか?」
シュバルツが冷や汗を掻いている。
「えーと、つまりシュバルツの妹が補佐官として来るのか?」
「えぇ、あの子は将来は国の重要ポストに入る予定だから、その修行としてもあるのよ。」
まぁ、そりゃそうだが……。
シュバルツの冷や汗が止まらないのは何故だ?




