元勇者、嘘をあばく
その翌日
「昨日はエルフィンがお世話になったみたいで悪かったな。」
「いや、なかなか貴重な体験をさせてもらったよ。」
アリスが村にやって来た。
「話はエルフィンから聞いて、ちょっと調べてみたんだ。」
「調べる、てマインの父親の事をか?」
「うむ、ダンジョンマスターの任命は魔王の役目、報告書がちゃんと上がってきておる。」
「……魔族もデータをとっているんですか?」
マインが意外そうな顔をしている。
「勿論だ。それで、過去の報告書を調べてみたが少々おかしな事がわかったぞ。」
「おかしな事?」
「マインとやら、お主の父親の名前は?」
「『エヌゼル・ネコール』と言いますが……。」
「その者な、こちらには記録が残ってないぞ。」
……はい?
「ダンジョンを攻略したり、魔物を倒したりすると自動的にその者の名前やデータは魔王城に送られてくる仕組みになっているのだが、そのエヌゼルと言う者のデータは無いぞ。」
「えっ……、本当ですか?」
「うむ、ちなみにどこのダンジョンを攻略したか聞いた事があるか?」
「ちょっと待ってください。」
マインはガサゴソとカバンの中を漁りある物を取り出した。
「これは父の武勇伝を纏めた本です。この中に父が活躍した話が載っています。」
……本にしてんのかよ。
何かカインを思い出したよ。
結局、アイツの本全部燃やされたらしいからな。
アリスは本を読みながら報告書と照らし合わせていく。
ふぅっ、と息を吐いたアリスはマインに言った。
「お主の父親、とんでもない大嘘つきだぞ。この本に書かれている武勇伝は全て嘘だ。」
「ほ、本当ですか?」
「倒したどころか、仲間を見捨て逃げているらしい。多分、映像が残っているかもしれない。」
マインは呆然と立ち尽くしていた。
そりゃあそうだろうな。
絶対的存在の父親が実は大嘘つきだ、と言う事は娘であるマインにとってはショックだろう。
でも、これでひょっとしたらマインのトラウマを解消できるかもしれない。