元勇者、ギルドに寄る
荷物を全部纏め終え、出発する前に冒険者ギルドへ向かう事にした。
レバニアからシュヴィアへ転属する為の書類を提出する為だ。
そういえば、ギルドに来るのは久しぶりだなぁ‥‥‥。
入ると昔馴染みの顔がいたから安心した。
すぐに俺に気づいてもみくちゃにされ、ちょっとした騒ぎになった。
新人らしき冒険者達も俺の噂は聞いていたんだろうか、憧れの眼差しで見られたのはちょっと心苦しかった。
「おぅ、ガーザスにノエルっ! 久しぶりだなぁっ!」
「マスター、久しぶりです。」
奥から中年の男性が出てきた。
この男性がギルドマスターである。
このギルドには酒場も併設されていてそのマスターも勤めている。
マスター自身が大の酒好きでカウンターにいる方が多い。
「色々大変だったみたいだなぁ。まぁ、その顔を見て安心したよ。」
「俺も早く挨拶したかったんですが申し訳無いです。」
「気にすんな。おぉい! 勇者ノエルのご帰還だっ! 今日は一杯だけ奢ってやるぞっ!」
周りから大歓声があがった。
「やっぱり此処の酒は旨いなぁ!」
「そうだろそうだろ、レバニア一の酒を仕入れているからなぁ。お前の領地でも酒を作る事になったら仕入れてやるよ。」
酒かぁ、素材はよさそうな物があるから考えてみるか。
「しかし、変わってないですね、此処のギルドも。」
「そうだな、他のギルドはランクアップすれば増築したりするが、うちは変わらないな。万年Bランクだからな。」
ギルドにもランクがあって、下はEランクから上はSランクまである。
俺が所属していたこのギルドはBランクで普通クラスのギルドだ。
主な依頼と言えば薬草採取から、モンスター討伐くらいだ。
「マスターはランクをあげようとは思った事無いんですか?」
「立ち上げ当時はあったけどなぁ、上に上がると色々規制が出来て面倒臭いんだよ。今のランクでギリギリ自由に出来てるから今が良いんだよ。」
そういえばSランクギルドは気品があったよな。
それが良いか悪いかは別にしても俺はこの雰囲気のギルドの方が好きだ。
それに冒険者というのはランクが上がるにつけて変なプライドを持ち始めたり、傲慢になりやすい。
そこで生じてくるのが『パーティー内の格付けによるいじめ』問題だ。
ランクが下だから、と言って役立たず扱いされ最悪追放され、そのまま廃業してしまう事もある。
勇者時代に他のギルドに情報収集の為に寄った時にそういう現場に出くわした事があるが、心苦しかった。
‥‥‥俺も結果的には同じ様な目にあったけどな。




