元勇者、引っ越しを手伝う
何で、ガーザスの家にやって来たか、と言えばズバリ『引っ越しの手伝い』だ。
ガーザスは軍を辞めて冒険者に戻りハノイ村に居住を移す事になった。
ただ、ハノイ村はシュヴィア領に属しているため、レバニアから籍を移す事になるので手続きがあり、その影響でこの時期になった。
お役所仕事って大体時間かかるんだよなぁ。
まぁ、妙な奴を防ぐ為の手段ではあると思うが‥‥‥。
「そういえば、ミレシアとはいつ籍をいれたんだ?」
荷物を馬車に積み込みながらガーザスに聞いた。
「‥‥‥実は、まだ籍はいれてない。ハノイに引っ越してから正式に籍を入れるつもりだ。」
「でも、お前の姓を名乗っているんじゃないか?」
「それはですね、私は既に実家から籍を抜かれているからなんです。」
「ミレシアは、家族との関係が上手く行ってなくてな‥‥‥。」
話を聞けばミレシアには姉がいるのだが、両親は姉ばっかり可愛がりミレシアは厄介者扱いされて生きてきたらしい。
で、ガーザスとの婚約を期に実家と縁を切った、というのが実状だそうだ。
「姉は美人で要領が良くて殿方から好かれるタイプでしたから、両親も可愛がられたんでしょう。私はどっちかと言うと部屋に籠って本を読んだりするのが好きなので‥‥‥。」
「貴族では出来の良い方をちやほやするのが多いからな。そういうのも知った上で婚約したんだ。」
「それで、お姉さんは結婚したのか?」
「はい、名門の貴族の家に嫁がれましたが‥‥‥、クーデターがきっかけでその貴族の家が潰れてしまったんです。姉さんは実家にもお金を送っていて両親は贅沢三昧していたらしいんですが‥‥‥。」
「今、現在もミレシアに金の催促をしてるんだよ。此処にも押し掛けてきたんだ。」
「それで、引っ越しか。なるほどな。」
「まぁ、ミレシアが『貴殿方とはもう縁は切りましたのでどうぞお引き取りください。あんまり騒ぐと通報しなければいけないので』ってピシャリと言い切ったのにはスカッとしたよ。」
「私に自信を与えてくれたのはエドハルト家の皆様ですから。皆様が私を受け入れてくれたお陰で居場所ができました。」
ニッコリと笑うミレシアを見て本当に幸せなんだな、と実感した。




