元勇者、企む
「つまりはその悪徳領主をコテンパンにやっつければいいんでしょ? それだったらやる方法は一つしかないわね。」
「一つ、って?」
「同じ目、いやそれ以上の被害を与えれば良いのよ。」
「それはつまり、セラウィン伯爵を詐欺に遭わせる、という事ですか?」
「そういう事。相手が悪党だったら遠慮はいらないわ。」
しかし、騙すにしてもどうやって騙せばいいんだ?
そもそも人を騙した事なんて無いし、相手だってそう簡単に騙されない筈だぞ。
「詐欺の基本は最初に得をさせて、大損をさせる。『騙されない』っていう変な自信を持っている奴こそ騙されやすいのよ。若しくは騙されている事に気づいてないのよ。」
「しかし、騙された事に気づいたらどうするんですか?」
「その時こそ、悪徳領主の今までの悪事の証拠を見せるのよ。」
「なるほど! 『お前達だってやってたじゃないかっ!!』と断罪出来る訳か。」
後はどうやって騙すべきか、だ。
「それだったらアリスに協力してもらえれば良いんじゃないかしら?」
「アリスに? なんでだ?」
「これからは魔族と平和な関係を築いていくんでしょ。 それを逆手にとるのよ。セラウィン伯爵に魔族に関する上手い話を持っていくのよ。一般人は魔族に関する知識は余り無いから乗りやすいと思うわよ。」
なるほど!
「しかしアイナ、お前詐欺の手口をよく知ってるな。」
「‥‥‥私も以前、騙されたのよ。魔王討伐の旅に出た直後ぐらいに偽道具屋に杖を買わされて、使ったら1回でボキッて折れて‥‥‥、あの親父、絶対に許さん‥‥‥。」
アイナの背後にメラメラと炎が出ている様に見えるのは気のせいにしたい。