プロローグ
初執筆、初投稿になります。
稚拙な部分が多々あるかと思いますが、先ずは完結を目指して頑張ります。
プロローグ:a
『40.5』
小さな体温計の画面は、穏やかではない数字を表示していた。
朦朧とする意識の中、これはマズいぞと警鐘が鳴り響いている。
「流石に、これは、病院に…今、何時だ…?」
起き上がろうとするも、身体が上手く動かない。枕元に置いておいた携帯を手繰り寄せ、時間を確認する。
日付が変わる3分前。
社畜大国日本といえど、こんな時間に開いている病院など近場にある訳もなかった。
「あー…うぅ…」
小さく唸る様に、掠れた声が暗い部屋の中に溶ける。
全身がとにかく怠い。まるで筋肉が鉛にでもなってしまったようだ。
頭の中では心臓の鼓動に合わせて鐘が鳴り響くように痛みが走る。
どうすべきか考えるのも一先ず保留。
一眠りすれば多少は楽になるだろう。楽になっていてくれ。そうでないと辛さに耐えられる自信がない。
もう一度携帯の画面を見る。
日付が変わる1分前。明日は29回目となる自分の誕生日だ。
「後生だ…せめて何かしら良い事でも起きてくれ…」
微睡んでいく意識の中、小さく呟いた台詞もまた、暗い部屋の中に溶けていった。
プロローグ:b
静かな石造りの通路には、格子で区切られた牢獄が並んでいた。
柱に焚べられた松明が時折爆ぜるような音を立て、その灯りは並ぶ格子の壁のひとつの前に立つ初老の男を照らしていた。
「今更言わずとも理解していようが、もし今晩の召喚で成果が得られなかった時は…分かっておるな?」
男の言葉は目の前の格子の向こう、牢獄の中にいる人物へと投げかけられていた。
じっとりと湿った空気が淀んでいる灯りのない牢獄の中、窓から覗く月を見上げて、少女は其処に佇んでいた。
投げかけられた声に反応する素振りはなく、男は苛立ちを覚える。
「ふん…つまらん。まるで死人だな。お前の喚び出した気狂い供の方がまだ可愛気があるわ」
男は小さな背中へ嫌味を吐き捨てながら、格子の前から去っていった。
少女は静かに瞼を閉じ、男の言葉を思い出していた。
次はない。それは間違いなく死を意味するのだろう。
「どうせ失敗すれば失う命なら…」
小さく呟きながら、そっと手を胸元に添える。
自らの心臓の鼓動を確かめる様に、小さく、深く息を吸う。
そして再び目を開き、月を見上げてゆっくりと息を吐く。
こうして静かに、少女の命を賭けた召喚が始まった。