第19話
今回は志願者視点でお送りします。
俺の名前はマルク。186歳になったばかりのエルフだ。
ミンスター様発案の兵隊組織に参加している俺は木の上で新兵器のイ式狙撃銃を構えつつ魔獣がやってくるのを待っている。すぐ近くには分隊員で幼馴染のダグとカールにクライド、ビショップも同じ様に木の上に登っている。手にかいた汗を拭いつつ気を引き締め見張る。
(大丈夫だろうか)
ハインツ司令官の説明によるとこの銃で十分倒せるらしいが...
前方にいたダグが合図を送ってくる。どうやら来たらしい。こっちにも駆けてくる音が聞こえた。今はもう手にかいた汗を拭う余裕など無くなり前へと注視する。
(見えた!)
前から4足の魔獣が4匹走ってきた。
銃に魔力を込め射撃体制を整え頭を狙う。作戦ではカールの合図とともに発砲開始だ。
カールが指を2本立てて振った。
発砲開始だ。
パンッ。パンッ。パンッ。パンッ。
森に4回発砲音が鳴り響く。
(上手く倒せたみたいだ)
カールが声をかけてくる。
「気を緩めるなよ。まだやってくるだろうから」
「分かってる」
遠くからも発砲音がする。
「他の所でも始まったみたいだ。今回はどれ程来るかわからないけど生きて里に帰るぞ」
「その為には頑張らないとな」
「次が来たぞ!」
ダグが声をあげる。
「さあやるぞ」
その後数刻程打ち続けた。
「おいっ!オークが来たぞ!」
ダグの悲痛な声が聞こえる。オークとは、豚の顔をした人型で体長2m程の比較的大きな魔物である。
「オークだと。これで倒せるのか?普通なら魔法を撃ちまくってようやくなのに」
そう、いつもオークを見つけた時には人を集め魔法で攻撃し続けようやく倒せるのだが、
「やるしかないな。攻撃準備!」
カールの声が聞こえる。
(そうやらなければやられるのはこっちなんだ)
この作戦が発表された時にミンスター様がおっしゃられた事を思い出す。
『諸君遂に実戦の時がやって来た。今回の作戦は大変厳しいものになるだろう。しかしこの日の為に頑張ってきたのだ。君たちの後ろには家族がいると思い護る為にその力を存分に発揮してほしい。以上だ』
(そうだ。俺の後ろには護るべき家族がいる。護るべき里がある。その為には...)
「頭を狙え!同時に撃つぞ!」
カールの声でここが戦場だと思い出す。慌てて再装填を行いオークの頭を狙う。
「射撃ヨーイ」
引き金に魔力を込め指を当てる。
「テーッ!」
パパーンッ。
計5発の弾がオークの頭に吸い込まれる様にして飛んでいく。
「ブモッ!」
オークが発砲音に気付いたようだがもう遅い。操り人形の糸が切れた時のように崩れる。
「やったか?」
誰かがそんな声を漏らす。
「みたいだ」
カールがそう判断する。
「「「やったー」」」
勝ち鬨の声をあげる。
パンッ。
ビショップが発砲する。ハッとし銃口の先を見るとダークウルフが倒れていた。
「まだ。笛が鳴るまで油断しない」
いつも口数が少ないがしっかりとしている彼は油断せずにいた。
「すまん。ありがとうな」
カールが礼をいう。
「大丈夫」
そうして俺たちは警戒し、やってきた魔獣を次から次へと撃って倒した。
魔獣が来なくなってしばらくのち
ピーーーーッ
と里の方から笛の音が聞こえてくる。
「どうやら終わったみたいだ。里に帰ろう」
カールの掛け声で里に帰る為の準備を始める。あたりには血の臭いが満ちているので素早く準備を終え里へと戻る。集合場所のハインツ司令官の家へと向かうと全員が揃った。
「うむ。全員が揃ったか」
そう全員がである。つまり犠牲者がゼロなのだ。
「とりあえず疲れているだろうから小隊長以外は帰って良いぞ。小隊長は報告を頼む」
俺らは小隊長のカールを残し先に家へと向かう。
家でお互いの疲れをねぎらい酒を飲み交わしているとカールが笑顔でやってきた。
「おいカールどうした?」
「良い知らせだ。今回の迎撃が上手くいったから全員に御褒美が出るらしい」
「なに!?御褒美だと、でその御褒美とやらは?」
「それはまだわからんが期待して待ってくれってさ」
「そうか。じゃあ飲むか?」
「おうもちろん」
こうして第1回目の実戦経験は被害者ゼロという記録を残し無事終わった。
次回はいつも通りアドルフ視点です。
擬音は火縄銃をイメージしてください。