第1話
「という事で改革をやっていこ〜」
「なんでそんなに楽しそうなの、アドルフ」
こう話しかけてくるのは秘書で幼馴染のカチューシャ。そんな事より、
「いつも言ってるけど2人の時はいいけど他の人の前ではきちんと様付けをして、ミンスター様って呼んでね?」
「分かってるよアドルフ。心配しなくてもいつも気をつけてるからさ。そんな事より次に何するか分かってる?」
「分かってるって」
そう、これから俺は里長として新年の挨拶と重大発表を世界樹の前にある広場で行うことになっている。
「ちゃんと言う事考えてあるんだよね?」
こんな感じでいつも心配してくれる...してくれるのは良いんだが、もう里長なんだからいい加減に辞めてほしいとは思う。だが、決して口に出して言わない。何故なら前にうっかり口を滑らせて、言ってしまったら謝るまで口を聞いてもらえなかった事があったからだ。
「大丈夫だって」
「本当?羊皮紙に書いておいた方が良いんじゃない?...」
お前は面接試験前の母親か。というような言葉を聞きながら頭の中で整理していく。
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「もちろんだよ。おっと、もう時間みたいだ。行かないと...」
「全くいつもアドルフはそうなんだから。良いわよ。服装も準備してから寝てよね」
そんな言葉を残し彼女は部屋を出て行った。
さて、準備して寝ますか。
ここで用意したのは神主さんが行事の時に着ている格好だった。エルフなのに和服なのはイマイチだと思うんだが...
翌朝。日の出とともに皆が世界樹の前に集まる。
俺はマイク型の魔道具の前に立ち、静かになって全員が注目するまで待つ。さざ波の様な音も無くなった事を確認した俺はゆっくりと語りかける様に話し始める。
「新しい年を無事に迎えられた事を喜ばしく思う。今日のこのめでたき日に皆へ伝えなくてはならない非常に重要な事がある。我々ミンスクの里は代々、他の種族との関わりを避け森の奥で籠っていた。
しかし、つい先日里の近くにまで人間が近づいてきている事が分かった。このままでは30年程で接触する事になるだろう。我々はその時まで待ち続けるべきであろうか。」
少し間を置き強く訴えかける様に話す。
「否。古来より伝えられし話の通りだとするとあまりにも危険すぎる。故に我々は変わらなくてはならない。伝統から転換期へとなったのである。しかしこのまま他の種族と関わるのではあまりにも我々は弱い。否。弱すぎるのである。その為に準備をせねばならない。他の氏族とも協力を強めていかなくてはならない。変わらなくてはならない。」
少し間を空ける。皆の目が真剣味を持ちこちらへと向けられている。
「我々エルフとしての誇りを持ち、人間へと立ち向かう為に皆の協力が必要不可欠である。今後の諸君の働きには大いに期待している。これをもって簡単ではあるが新年の挨拶とする。」
皆を見回してから家へと戻る。最初の感触としてはイイ感じであったがまだ安心はしきれない。このままいい方向へと進んでくれればいいが...。と考えているとノックの音が聞こえてきた。ドアを開けるとそこにはカチューシャがいた。
「どうしたカチューシャ。他の皆と過ごさなくて良いのか。」
「大丈夫。皆にはもう挨拶したし。」
「別に今日くらい来なくてもいいぞ。家で家族と過ごしていろよ。」
「いいのよ別に。」
寒さからか顔を赤くしながらカチューシャは言う。
「まぁいい。寒いだろうから中に入れ。2人で酒を飲もう。」
昔話を肴にして飲んだ酒は美味しかった。しかし、こんなのんびり過ごせるのも数日だけ。すぐに改革を進めなくてはならない。なんて言ったってエルフの30年はあっという間なのだから。
次回1週間後の予定




