暗転
深夜2時を過ぎた頃、男は薄明かるい部屋で1人パソコンに向かい作業をしていた。静かな部屋の中にカタカタとキーボードを叩く音だけが響いている。その音はどこか焦燥や苛立ちを感じさせるような音だった。それもそのはず、男は明日までに提出しなければならない資料のことをすっかり忘れていたのだ。男はその焦りからか自分がいつもより手際が悪いことに気づいていた。その自分の愚かさが尚更男を焦らせていた。
カタカタカタ...カタカタカタ...
資料作りも終盤に差し掛かり、男は少し休憩を挟もうとした。最後の一文を打ち終わった時だった。
プツン
突然男のパソコンのモニターがフリーズした。男はまさかの出来事にひどく苛立ちを見せた。なんとか復旧させようとマウスをクリックしたり、モニターを揺すったりした。しかし、固まったモニターは全く変化を見せなかった。それでも男は焦りの表情を浮かべながら、カタカタカタカタカタカタとキーボードを強く叩き続けた。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
その努力に意味がないことを悟った男は手を離し、呆然となんの反応を見せないモニターを見つめた。部屋はいつの間にかもとの静けさを取り戻していた。
カタカタ...
その時だった。男が見つめていたモニターに無数の文字列が並び始めた。それは先ほど男が乱雑に打った文字だった。男は少しばかり希望を取り戻したように、期待しながら文字列を見ていた 。
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次々と浮かび上がる文字に男は心を躍らせた。男は心の中で祈り続けた。しかし...
プツン
モニターが暗転した。完全に電源が落ちたのである。男は絶望したかのような表情を浮かべモニターを見続けた。暗転したモニターに彼のその名状しがたい表情が映っている。男はそんな自分の表情をなんとなく見続けてしまった。そうしている内に男は何か違和感を感じる、自分以外にも何か映っている。そして男は気付く。自分の後ろに何かが立っていることに。男は驚き、反射的に振り向く。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
後ろの何かは、そう笑い声をあげ、首を左右に揺らしながら男を見つめていた。その姿を見た男は、叫び声を上げる間もなく、あまりの衝撃に気を失った。しかし、数分もしない内に男は目を覚まし、むくりと起き上がった。男はそのまま何もなかったかのようにスタスタと部屋を出て行った。その部屋にはまた静けさが戻った。
誰もいなくなった部屋でモニターはいつの間にか復旧していた。その画面には
ヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタヨカッタ
と、埋め尽くされていた。