《8》
新キャラさんの名前が決まりましたー。
今回のお話、楽しんで貰えると嬉しいです。
ではではー。
《8》
スゴいです…。あれが〝ロールプレイ〟ってやつでしょうか? それに「我に傷一つ付けることさえ叶わぬと知れっ!」とか言ってましたが、普通にHP減っちゃってます。大丈夫なんでしょうか?
「あ、イエローゾーンに入った」
戦っているのはなんでしょうか? 猪さん?
「キャーアアアアア!!」
あ、鹿さんですね。
以前、修学旅行で奈良に行った時に聞いた覚えがあります。凄い独特な鳴き声ですよね。外国の方は「少女が叫んでいるようだ」なんて表現するんだとか。
立派な角を持っていますから、雄でしょうか?
セフィが教えてくれたモンスターの中には含まれていなかったことを考えると、正式サービスで初めて加えられたのか、セフィ達が教えてくれた敵は本当に初歩的な相手だった、という事でしょう。
「フハハハハハハッ! 畜生風情が、我を追い詰めるとは、中々にやるではないかっ!!」
どうやら追い詰められるらしいです、あの人。
……どうしましょう、助けましょうか?
……それに、大丈夫なんでしょうか? 頭。
……。
………。
…………。
………あら? 良く良く思い出すと、興奮した時のセフィもあんな感じでしたね。つまり、今現在鹿と戦っている彼女も大丈夫なんでしょうか? それとも、家の若菜ちゃんが駄目なのかしら? いえ、きっと前者のはずです。
……そうですね。それでも、念のために、セフィには今度注意をしておきましょう。次からは彼女みたいに成らないように。
「くぅううううっ!」
あ、忘れてました。
「すいませーん、そこの貴女。助けは要りますかー?」
藪を避けて広場へと歩みを進めながら問い掛けます。さあ、彼女の返答は、如何に。
「貴様、何者だ?」
あ、意外と冷静な返しです。私の予想とは裏腹に、大部余裕はあったみたいです。
「あ、どうも。初めまして。私の名前はアイリスって言います。此処には鉱石の採掘に来たのですが、街に帰る途中、戦闘音が聞こえたもので気になって様子を見にきました。戦闘の様子を見させて頂いていると、貴女のHPがイエローゾーンに突入したので声を掛けさせて頂きました。……もしかして、私、お邪魔でしたか?」
彼女は、敵の攻撃を華麗に捌きながら私の話を聞いています。その腕前には目を見張るものが有りますが、流石に会話をしながら反撃にまでは至らない様子で、今も少しずつHPが減っていっています。
彼女はその美しい顔を歪めて、何か思案している様子。私、退散した方が良い感じですかね?
「その、なんだ…。助太刀は感謝してやらんこともない。だが、その堅苦しい喋り方はどうにかならんのか? 話しにくい」
散々悩んだ挙げ句、彼女の発した言葉はそれでした。
あら? 意外と彼女、好い人?
私の「助けは要りますか」発現にも一応感謝してくれているようですし、言動は少しオカシイですが、普通に会話をしてくれます。
「貴様、今、何か失礼な事を考えてはいないだろうな? もしそうであったなら、貴様のその首、我が直々に落としてくれようぞ?」
「ヒイィッ!? いえ、何でもありません!」
駄目です。これ以上考えるのは止しましょう。今、何か背筋が凍るような思いをしました。
あ、こんな事をしている間にも彼女の体力が減っています。少し悠長に話しすぎましたね。彼女は今私のせいで防戦一方な訳ですし、早いところ助けに入ってしまいましょう。
「そ、それでは、私は後ろから回復魔法をかけますね」
「ん? 貴様、ヒーラーなのか? 此処には鉱石を掘りに来ているのではなかったか? ……それから、いい加減にその無駄に堅い言葉遣いを直せ」
【回復:ヒール】
回復スキルを行使しながら、彼女の後ろへと回ります。彼女の方は、体力に余裕が出てきたからか徐々に攻撃の回数が増え、鹿を圧倒し始めました。
「すいません。これは、癖のようなものでして」
彼女は堅い言葉遣いが苦手なんですね。言葉遣いのことを二度に渡って注意を受けてしまいましたが、これはもう癖のようなものです。
「ゲームの中なのだから、貴様も少しは羽を伸ばせば良いものを…」
「……ふふっ。お気遣い、ありがとうございます。そうですね。せっかくのゲームなんですから、砕けた言葉で話せるよう努力してみますね」
貴様〝も〟ということは、彼女のあれはやはりロールプレイの一環なのでしょう。
鹿さんは…… いえ、努力するんでしたね。
鹿は彼女の攻撃を受けて既にボロボロの状態です。彼女の持つ槍が次々に敵の身体を貫き、そのHPを削り取っていきます。
時には槍の柄で敵の攻撃を反らし、時には叩き、穂先で敵の急所を貫く。素晴らしい腕です。
その後私は何度か彼女に回復魔法を掛け、戦闘はあっさりと終了しました。結果だけをみれば終始彼女の圧勝でしたね。
「……ふんっ。一応、貴様には礼を言っておいてやる。有り難く思うが良い」
…ふふっ。
「はい、どういたしまして。感謝の意、有り難く受け取らせて頂きますね」
段々と彼女との接し方がわかってきました。
コレは、あれですね。良く見ると彼女は微かに頬を染めていますし、少しクセの強いツンデレというやつなのではないでしょうか?
「……ふんっ。その言葉遣いを直せというに。貴様、まだ解らんか?」
そういえば、彼女には戦闘中、回復などの細かな声掛けの時でさえ注意を受けていましたね。曰く、「台詞が長くて聞き取りにくい」のだとか。
「ふふっ…。癖ですから」
「…ふぅ、またそれか。もういい、貴様には、これから先じっくりと躾をつけてやることとしよう」
……?
「これから先、ですか?」
果たして、どのような意味でしょうか?
「何を呆けた顔をしている? 貴様のその間抜け面が、より一層、見るに耐えない顔へとなっているぞ?」
「これから先とは、どのような意味で……?」
……
……
……
……
……
……ち、沈黙が重いです……。
「貴様、アイリスと言ったか?」
あ、良かった。会話が戻ってきました。
「はい、私の名前は、アイリスです。貴女の好きな名前で呼んでくださいね」
そういえば、私は彼女の名前を知りません。
「我の名前はレィディーンだ。貴様には特別、愛称で呼ぶことを赦す。我の名前を、この我が教えてやったのだ。精々、光栄に思うが良い。それと…貴様にはフレンド申請を送っておいた。……まさか貴様、この我の誘いを断ったりなどしないだろうな……?」
「え? 断りはしませんけど…。…ちょっと待ってくださいね。今確認してみます」
ふむふむ、えーと。レィディーンさん、ですね?
あ、本当です。ちょうど今、確認してみたのですが確かに彼女からフレンド申請が届いてます。
受諾、と。
「はい。フレンド申請、受諾させて頂きました。ありがとうございますね。まだ二人しかいなかったので、私、とっても嬉しいです! 愛称で呼んでも良い、という事でしたので、……そうですね。それでは私は、ディーンさん、と呼ばせて頂きますね。これから、宜しくお願いします!」
「………ふんっ、善かろう。これからは、我が宜しくしてやろうではないか、アイリ」
その時、私にはディーンさんが少し微笑んだ気がしました。