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Another Root Online  作者: 四葩
7/11

《7》

《7》


 カーンッ! カーンッ!


 山脈の麓に広がる穏やかな森林地帯に金属のぶつかる音が響く。


 カンッ! カンッカンッ! ガッ!!


 ATKが低いためなのか、降り下ろすツルハシから伝わる振動が手を痺れさせる。


 ああ……、疲れます。いえ、ゲームの中で疲れるってどうなんでしょうか、とは思いますが。


 今現在の私は、始まりの街より北方にある、山脈の麓へと来ています。鍛冶や細工スキルなんかで使うための鉱石を掘るため、思いきって、街から離れたこの場所へとやって来ました。


 ……山脈の近くで採掘した方が鉱石は良いものが採れると思ったんですよ。ほら、自分で作る物には、素材から拘りたいじゃないですか。


 カンッ! カーンッ!! カーンッ!


「ふぅ……、また石ですか。果たして使い道はあるんでしょうか? これ」


 え? ……あぁ、お昼はどうしたのか? ……それなんですが、色々あって忘れていただけで、もう既にお昼の用意自体は済ませてありました。

 なので、どこにも張り切る要素などなく、若菜ちゃんと二人でただただ楽しくお昼を摂らせていただきました。

 あ! でも、途中で一真さんが遊びに来てくれましたよ。一真さんもお昼を食べにだけ来て帰りましたから、二人ではなくて三人でのお昼となりました。

 まあ、一真さんは本当に食べに来ただけでしたので、食べ終わるや否や「ご馳走さま」と挨拶だけを残してして直ぐに帰ってしまいましたが。

 恐らく、午後からは他のゲームで知り合った友人との待ち合わせでもあったのでしょう。若菜ちゃんも、午後からは友達と待ち合わせがあったようで、直ぐにログインしてしまいましたから多分正解だと思います。



 ですから私は、午後一番から一人寂しく北のフィールドへとやって来て、一人寂しく鉱石の採掘へと勤しんでいるのでした。


 カン! カン! ガッ!!


「……ふぅ、鉱石アイテム、意外と沢山取れましたね…。まだインベントリには余裕がありますし、もう少しだけ、あとほんの少しだけ、採掘していっても大丈夫でしょうか?」


 私の目視可能範囲には今のところ、モンスター一匹どころかプレイヤーの影すら見当たりません。


「安全面は確保されているはずです」


 AROではいきなりモンスターがプレイヤーの傍にポップすることもあるらしいので、注意は必要ですが…。


「私以外のプレイヤーさんを見掛けることもありませんから、ポップする可能性は低いでしょう」


 AROには生産職のプレイヤーも沢山居ると思うのですが、如何せんフィールドが途方もなく広いので、鉱石が沢山眠っているであろうこの山脈エリアでも、サービス開始初期の今はまだ他のプレイヤーさんとエンカウントする気配が微塵もないのです。


「もう少し時間が経てば、第二陣の方や第三陣の方が増えて賑わうことになると思いますが、今はまだ人が少ないのですから仕方ありませんね」


 街の中へと戻れば大勢のプレイヤーの姿が見掛けられるので、北の山脈エリアにいる人が少ないということなのでしょう。

 ……まあ、ここは、モンスターのレベルが高いですしね。


 ソロで、大した攻撃手段も持たず、西の平原エリアと比べても少々以上にモンスターのレベル帯が高い北エリアで採掘をするというのは私にとっても中々にスリリングな体験です。


 ゲーム開始からまだ一日。トッププレイヤーや特定の目的がある人を除けば、山脈エリアでプレイヤーと出会すことなど早々ありもしないでしょうから。


 故に、私は一人で採掘をしています。


 一人で。


 カン! カーンッ! カーンッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! 


 ……。


 兎にも角にも、私には現在攻撃手段がありません。最初期に武器スキルを選択しなかった私が悪いのですが、その為に初期の武器でさえも私のインベントリには納められていませんでした。悲しいです。

 ですから、私の目下の目標は自分の武器を作り上げる、という所でしょうか。


 カーンッ! カーンッ! カーンッ!


 「……ふぅっ! もう、流石にこれだけあれば、当分の間は大丈夫なことでしょう!」


 もし足りなくなるようなことがあれば、その時はまた採掘に来れば良いのです。……今度は、セフィか、ミカドでも誘って。


 ……手に入れたアイテムでも確認しましょうか。


 手に入れた鉱石で馴染みのある物は、鉄鉱石や銅鉱石。こちらはまだ使い道があります。錫……これは、正直何に使えば良いのか分かりません。

 あとは、名前が分からない物がいくつか。アイテムの名前が分からない物があるのは、私の持っているスキルのレベルが低いためでしょうね。

 そして、これらの中でも群を抜いて最も多いのが、ただの石。そう、ただの石です。……何をどうすれば良いのかと。


「まあ、考えていても何が始まる訳でもありませんから、一先ずは街へ帰るとしましょうか」


 願わくば、帰りの道中も、モンスターに襲われるようなことがありませんように。



 あ、ほら。遠目ではありますが、街が見えてきましたよ。


「もう少しですから、どうせなら走って行ってしまいましょうか? ……あら?」


 キンッ          キンッ


 ……なんでしょうか? 何処かから、戦闘音が聞こえてくるような気がします…。


 この辺りはまだ疎らに木が生えていますから、見通しが悪いのです。よく見えません。


「……音が聞こえてくるのはこちらでしょうか?」



 キンッ!  キキンッ!   ギンッ!!


 暫く歩いていると、次第に聞こえてくる音が大きくなってきます。もう少しですね。


「私も一応はヒーラーですし、もし危なそうであれば回復して上げた方が良いのでしょうか?」


 でもそうすると、却って邪魔になってはしまわないでしょうか……?


「……ふぅ。悩んでいても仕方がありませんね。本人に直接聞けば、それで済むことです」


 あ、少し開けた場所 と出ましたね。そこで戦っていたのは────


「フハハハハハハッ!! やるではないかぁ!この獣風情が! 貴様ごときが、この我に勝てるとでも思っているのかぁ!? フハハハ、貴様ごときには、我に傷一つ付けることさえ叶わぬと、その身を以て知るが良いっ!!」


 ………帰りましょうか。


 ────とても、ヘンな人でした。


読んでくださって、ありがとうございます。

楽しんでいただけたらな、と思います。

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