《6》
セブンの名前をセフィーロに変更しました
ふぅ~…。風が気持ち良いですねー?
「いい? お姉ちゃん! スキルっていうのはね……」
若菜ちゃんが、腕を組み、人差し指を左右にズビシズビシと振りながら説明をしてくれます。先生みたいです。
……でも、まだここフィールドなんですよね。危なく無いんでしょうか?
「こら! 余所見をしない!」
「はいぃっ!」
……怒られてしまいました。…テヘッ。
「…………お姉ちゃん?」
「ひゃいっ!?」
あ、ダメですこれ。…若菜ちゃんの声がマジになってます…。
「……いい? お姉ちゃん。攻撃スキルには大別して2つ、武器スキルと魔法スキルがあってね。大分部の人が、必ずこの2つのスキルの内どちらかを取得してるの。そして! 生産職の人や魔法職の人でも、特別な理由が無い限り、武器スキルを1つは取得しているものなんだよ? 中にはそういう人がいないという訳では無いけど……そういう人はゲームに拘りがある人だったり、ギルドお抱えの純生産職だったり、武器スキルを取得する必要が無い人だけであって、お姉ちゃんはそういう訳じゃないでしょう? ましてや、お姉ちゃんはゲームはほぼ初心者なのに……」
……ひぃいいいい~~~っ。
「まぁまぁ、そのくらいにしとこうぜ、若菜。別に、菖蒲も考えなしに武器スキルを取らなかった訳じゃ無いだろうし、もしかしたら、余裕が出来てから武器スキルを取るつもりだったのかもしれないだろ?」
「ぐぅっ。……そうなの? お姉ちゃん……?」
やっと話が終わりそうです…。
「はい。別にお姉ちゃんも考えなしに武器スキルを取らなかった訳じゃえりませんよ? 事前にそのことは若菜ちゃんや一真さんが教えてくれていましたからね。お姉ちゃんには、お姉ちゃんの考えがあるのですよ。……まあ、その考えがピタリとハマるかどうかはまだ分かりませんが。まあ、そこはお楽しみというやつですね。楽しみに待っていてください」
「ええ~? それって、今聞いちゃダメなの? お姉ちゃん」
「ふふっ。今はまだ、ヒ・ミ・ツ・♪ です」
「ん~…まあ、基本スキル構成は他人には秘密だしな。菖蒲がそう言うなら、俺は後々のお楽しみにしとくよ」
ぇ……。
「ふ~ん……まあ、一真さんまでそう言うなら、私も今は聞かないでおくよ。お姉ちゃんにもお姉ちゃんの考えがあるんだもんね。煩く説教なんかしちゃってごめんね、お姉ちゃん…」
ぇぇ…。
「い、いえ…。別にそれはお姉ちゃん気にしていませんよ? でも、何だか、妙に期待値が高まっていませんか? 二人とも。お姉ちゃん、楽しみにしていてくださいと言った手前申し訳ないんですが、正直自信の方は全くないんですよ…?」
そんなに期待されても…。
「ん? 大丈夫だよ! お姉ちゃん! お姉ちゃんは、私の自慢のお姉ちゃんなんだから!」
なんでしょう。その無駄に不安を煽る、自信に満ち溢れた発言は…。
「そうだな、俺も若菜と同意見だ。菖蒲なら、なんだかんだ言って、俺達が驚くようなことを仕出かしてくれる、そんな気がするし。楽しみにしてるからな!」
私の何処にそんな要素があるというのか…。
ぁぅぁぅぅ~…っ! 助けを求めるべき相手は…いません。ヘルプですー。誰かヘルプですー。
◇ ◇ ◇
最近お姉ちゃん、活躍できていない気がします。ポンコツだとか、思われたりしてないでしょうか?
「正直に言って、そこの所はどうなんでしょうか? 若菜ちゃん」
「ん? なぁに、お姉ちゃん?」
ああ…これはダメですね。頑張って名誉挽回をしなければならならいようです。
そも、言葉にしていないのに感じとれたならば、それはそれで困ってしまいますが…。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんはどんなスキルを取得したの? 武器スキルを持っていないってことは、魔術スキルなら持ってるんだよね?」
一真さんと若菜ちゃんと私、三人仲良く猪さんを求めて平家を彷徨っていると、若菜ちゃんか後ろ……つまり、私の方へと振り返りながらそう聞いてきました。
「はい。【回復】のスキルを取得していますよ」
【回復】とは、文字通りスキルの対象者のHP及び状態異常を回復させるスキル。これは言い過ぎかもせれませんが、MPさえあればポーション要らずになれる便利なスキルです。
「うん。じゃあ、お姉ちゃんは後方に下がりつつ、タイミングを見計らって私か一真さんの体力を回復させてみてね」
「了解しましたー」
その後は、私が間違えて敵──猪さんに回復魔法を掛けてしまったり、タイミングが合わずに猪さんのターゲットが私へ移ってしまって再びの追いかけっこが始まったり、と色々な事がありましたが、概ね大した問題はなく初戦闘を終えることができました。
「うーん、うん。これくらいかな? まあ、初戦闘にしては良く戦えた方なんじゃないかな?」
「そうでしょうか?」
「俺もそう思うぞ。だからそんなに落ち込むなって、菖蒲」
「大丈夫です。今回は、落ち込んでなんかいませんから。これは、少しはしゃぎすぎてしまって、疲れただけです…」
「そうか。それなら良かった」
んー…。何だか今日は心配掛けてばかりですね。
あ、広場が見えてきました。
「よし、やっと広場に着いたな」
「ここまで長かったですからね」
「いくらリアルさを追求したと言っても、限度があると思うんだよねー。フィールドもそうだけど、街の中も広すぎるよ。これじゃあお姉ちゃんみたいな人が迷子になっちゃうんじゃないかな」
……。 若菜ちゃん、お姉ちゃんはスルーさせていただきます。
「んー、街の中にはNPCの住む家も配置されてるって話だし、これぐらいの人数が暮らす都市だと考えたら、都市の広さがこれだけ広かったとしても仕方が無いんじゃないか?」
「あー、そっかー。そう考えたら妥当なのかもしれないなー」
そうですね。その世界にはこの世界に住む住人がいる。郷に入りては郷に従え、とも言います。
この空間、この雰囲気を楽しむのだと考えれば、なかなかどうして、そう悪いものではありませんしね。
「それじゃあ、もう予定していた12時も迫っている事ですし、一旦現実世界に戻りましょうか」
そう思っていたのですが、
「あ! ちょっと待って! お姉ちゃん!」
若菜ちゃんに呼び止められてしまいました。
「どうしましたか? 若菜ちゃん、そんなに慌てて…」
「お姉ちゃん、フレンド! フレンド登録まだしてないよ! っていうか私達三人とも、まだ名前を教え合ってすらいないよ!?」
名前を教え合う? 何を言っているのでしょう。一真さんは一真さん。若菜ちゃんは若菜ちゃんではありませんか。
「どういうことでしょう?」
「あ! お姉ちゃん、リアルの名前と勘違いしてるね? リアルネームじゃなくてアバターネーム。この世界での私たちの名前だよ!」
「本人に聞かなくても確認しようとすれば確認できるけどな、こういうのは本人から聞くのがマナーなんだよ」
ふむふむ。そうなのですか。
「じゃあ、私からね。私のアバターネームは〝セフィーロ〟春を呼ぶ西風とかそんな意味があったはずだよ! さっきの戦いでも使ってみせたけど、武器は剣。ゆくゆくは、【片手半剣】か【長剣】をメインウェポンにしようと思ってるよ! フレンド申請は、私からしておくよ!」
「じゃあ、次は俺の番だな。アバターネームは〝ミカド〟俺の姓が冷泉だからな。源氏物語の冷泉帝から取らせてもらった。将来的には【刀】と【氷属性】をメインに使いたいと思ってる。若菜、フレンド申請受諾しといたからな」
「うん! ありがとう、一真s……じゃなかった。ミカドさん!」
「どういたしまして。ほら、次は菖蒲の番だぞ?」
「はい。それでは。私のアバターネームは〝アイリス〟菖蒲をそのまま英語にしてみました。普段と違って、少し名前が長くなってしまったので、もし呼びにくければ好きに呼んでくださいね。今現在は【回復】のスキルしか有効な物が無いと若菜ちゃんに言われてしまったので、これから頑張っていきたいと思います。あ、若菜ちゃん。フレンド申請、受諾しておきましたね」
あれ? 若菜ちゃんがなにやら、少しだけ怒っている? 呆れている? ような……。
「お姉ちゃん、ゲームの中ではリアルネームは厳禁だよ! だから、今の私の名前はセ・フィー・ロ! だよ! 分かった?」
あ! そうでしたね。
「はい。分かりました、セフィちゃん」
「うん! それと、フレンド登録は私の方でも確認したからね! もし何かあったら遠慮せずにコール入れてくれて良いんだからね!」
「はい。頼りにしていますね」
「ア、アイリス…。えっと…その…。あの…勿論、俺の事も頼ってくれて良いからな!」
「はい。……ミカドさんの事も、何かあったら頼りにさせていただきますね」
それでは、本当にもうそろそろ、お昼を食べに現実に戻らなければなりませんね。
「じゃあ、二人とも。今度は現実で会いましょうね」
「そうだね! 私とお姉ちゃんは同じ家の中に居るしね!」
「俺もはす向かいの家に居るしな」
はい。それでは。
「じゃあねー!」
「またな」
「現実で会いましょうね」
さあ、戻ったら早速、お昼の用意をしなければいけませんね。お姉ちゃん、少しだけ張り切っちゃいますよ。
どうも、へ瑠璃んです。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?
ユニーク1,000達成しました。
読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
これからも頑張っていきますね。