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Another Root Online  作者: 四葩
2/11

Root.>> 【2】


 さて、ここで少しばかり説明をしておきましょう。


 いえ、私たちが楽しみにしているゲーム、《Another Root Online》のことです。


「おい、卯の花ー、話聞いてるのかー?」

「あ、はい!」


 ……むう。少し邪魔が入ってしまいました。

 いえ、邪魔と言っては先生に対して失礼でしょうか?


 ……失礼ですね。


 反省します。

 私は、後悔はせずとも、反省の出来る女ですから。


 え? 後悔することは大切なことだ?


 いえいえ、私は自分の行動の結果に責任を持つようにしています。

 ですから、己の取った行動に対して、後悔する、ということだけはしたくないのです。


 ……格好良く言いましたが、実の所、私はいつも後悔ばかりしていますよー。


 それでも、責任は付いて回りますからね。

 だからこそ、その次に活かせるようにと反省はするのです。


 今は経済の授業中です。

 カルテルーとか、コングロマリットーとか、シンジゲートーとかを、丁度勉強しているところです。


 ……まぁ、後で教科書を読んでおけば大丈夫でしょう。

 さて、説明に戻りましょう。


 ◇◇◇


 私たちがサービスの開始を心待ちにしているゲーム。


 その名も──《Another Root Online》


 従来のVRゲームと比較しても、Another Root Online は、より一層洗練された技術の元に成り立っている。

 視覚は疎か、味覚や嗅覚、聴覚……。

 果ては、触覚に至るまでが精密に再現されており、その完成度は、最早、プレイヤーに現実との違和感を与えないとまで言われている。

 VR技術の、ある意味での一つの到達点。


 ……らしいです。はい。


 私は体験したことないので分かりませんが、βテストに当選した若菜ちゃんがそう言うのですから、きっと、間違いはないのでしょう。


 続いて、ゲームシステムの説明に移りたく思います。


 夜の寝る前なんかの時間や、学校の休み時間なんかにネットを周遊した限りでは、Another Root Online には「レベル制」なるものがないそうです。


 いえ、少し誤解がありますね。


 そのゲームに於ける、プレイヤーの分身体とも呼べる存在──アバターに関しては、レベルというものが存在しないそうなんです。

 つまり、幾らモンスターを倒して、幾らアイテムを生産したところで、プレイヤーが強くなることはありません。


 ……というのは嘘で。


 まぁ、もし本当にそんなゲームがあったとしたら、そのゲームは、既に破綻していると言わざるを得ませんね。


 勿論、そんなことは有り得ない訳で。


 Another Root Online には、アバターそのものにレベルというものが存在しない代わりに、プレイヤーの所有している「スキル」に対してレベルという概念が存在します。


 「レベル」と、わざわざ呼び名を変えている訳ですから、勿論、所謂「熟練度」とは、その含む所の意味は、当然ながら異なってきます。

 「スキル」は、その「スキル」の「レベル」が一定の値に達した際に、進化することがあるらしいのです。

 進化することで、より上位、若しくは、より特化した能力になるということですね。


 また、各プレイヤーのステータスはそのプレイヤーの取得しているスキルと、そのレベルに応じて決定されます。


 例えば、「剣術Lv.1」というスキルがあったとすると、それぞれSTRとAGIに+10、といった感じでしょうか。


 勿論、今のは適当ですよ?


 加えて、ゲーム内の行動如何によっては、取得出来るスキルにも違いが出てくるそうです。

 全くの同一人物で無い限り、全く同じスキル構成になるということは有り得ません。


 こういった所で、プレイヤーそれぞれの、ゲームスタイルの区別化を計っているのでしょうね。


 ここで耳寄りな情報です。

 情報提供者は、私の自慢の妹若菜ちゃん。


 初期の内は、プレイヤーが一度に装備することのできるスキルの数は、最大で十個まで。

 スキル装備枠の最大数は、ゲーム内に於いて、様々なイベントをこなすことで増えていくみたいです。


 良いこと聞きました。

 もしスキルの最大数を増やす機会に恵まれたら、その時はガンガン狙って行きたいですね!


 以上で、《Another Root Online》の基本的な説明は終わりです。


「それじゃー、今日はここまでとするー」


 あ、丁度良く、授業も終わったみたいです。


「起立ー、礼」

『ありがとうございました』


 チャイムが鳴ると同時に挨拶を終え、ささっと机の上を片付けます。

 これが今日の最後の授業ですし、このまま帰り支度も済ませてしまいましょう。


 あーっ♪ やっと終わりましたーっ♪


 両の腕を揃えて真上に伸ばし、長い間座っていて凝った身体を軽くほぐす。

 思っていた以上に身体は凝っていたのか、コキ、と小気味の良い音が鳴りました。


 あぁ、家に帰ったら何をしましょう。


 明日の正式サービス開始に向けて、まだ作っていなかったアバターの作成を進めましょうか…。

 いえいえ、まずは、若菜ちゃんと協力して、お夕飯の準備を進めなくては……


「明日の授業は、今やってる章のテストするからなー。覚悟しとけよ、お前らー」

「先生ぇー、明日は休みですー」

「あぁ、そうか…………明日は、俺が待ちに待った、オープン初日だったか……」


 先生、心内の呟きが、心の外に漏れてしまっていますよ。


 え、というか、「明日」という単語に加えて、「オープン初日」というキーワード。

 まさか、先生も Another Root Online をやるんですか……?


 ……いえいえ、それこそ本当に、まさかです。

 きっと、ただの偶然です、そうに違いありません。


 まぁ、どのみちゲーム内で出会うことはありませんね。


 Another Root Online の初期生産数は少ないですし、例え本当に先生がゲームをやっていたとしても、現実そのままの容姿でプレイしているとは思えません。


 結論。

 ゲーム内で、先生乃至知り合いに出会うことは、無い。

 以上。


「あー、それじゃー、週明けの月曜日はテストだかんなー。休みだからって、遊んでばっかいないで、ちゃんと勉強の方もしろよー。お前らの点数が悪いと、その分、俺の仕事が増えるんだからなー。頼むぞー」


 先生、一言多いです。


「だからって、机に向かって勉強ばっかしてないで、お前らも時間見つけてはちゃんと遊ぶんだぞー」


 はーい。


 先生の、こういう所が、私は好きです。


 ちなみに、社会科学の授業を担当してはいますが、全ての科目に等しく精通するエキスパートでもあります。

 そして私たちの担任の先生。


「じゃー、以上だー… ほら、お前らさっさと帰れ帰れー」


 ふと窓の外を見てみると、雨が止み、割れた雲の隙間からは蒼い空が覗いていました。

 いくつかある空の割れ目から、陽光が斜めに降り注いでいて綺麗です。


 さて、若菜ちゃんと悠希くんと合流して、私も早く帰りましょう。


「先生、本日はありがとうございました。さようなら」

「おぅ、ちゃんと授業は聞けよー」


 あ、しっかりとバレてたみたいです。


 ふふふふふっ…。先生には、敵いませんね。


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