《11》
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お爺様から突然切り出された話。
「嬢ちゃん。どうだい、儂の店で武器を打ってみる気はないか?」
そして、お爺様の頭上には燦然と輝く銀色のクエスチョンマークが。とてもシュールです。
……これは、どういうことでしょう。
兎に角、お爺様が返答を待っています。早く返事を返さなければ。
「宜しいんですか? 打たせて戴けるのならば、これほど嬉しいことはありませんけど……」
「はっはっはっ。そうかそうか」
嬉しそうに笑うお爺様。そして、私の視界には
◇─【クエスト:老ドワーフの手解き】を受注しました。
の文字が。どういうことでしょう?
……まぁ、いくら考えてもよく分からないので後回しです。
「ただし、嬢ちゃん。その前に、嬢ちゃんには幾つかやってもらう事があるが構わないか?」
「はい、問題はありません」
お爺様の大切な工房をお貸し頂くのですから、できる限りのことはさせていただきますとも。
「それじゃあ、まず一つ目の頼み事だ。
この街を出てから真っ直ぐ北に行くと、デカイ山脈が見えるだろう? そこへ行って、鉄鉱石を……そうだな、10個もあれば十分だろう。鉄鉱石を、10個程拾ってきてくれ。他の鉱石もあればあるだけ持ってきてくれて構わんぞ」
◇─クエスト:北の山脈で鉄鉱石10個の採取
─ クリアしました。
「へっ?」
「どうした嬢ちゃん。素っ頓狂な声なんかあげて…。もしかして、ツルハシが無いのか? ツルハシがなくても鉄鉱石は落ちてる事があるから大丈夫だとは思うが…」
「えっ! あっ…いえ、…その……」
「どうした?」
「えと…その…、鉄鉱石なら、持ってます…?」
……。
「何? 本当か?」
「はい…」
……。
「よし、分かった。それじゃあ嬢ちゃんは、俺の後を着いてきてくれ」
そういうとお爺様はカウンターを潜り、私をお店の奥へと案内してくれました。
場所は変わって地下の鍛冶部屋。
正面の炉には煌々と赤色の焔が踊っています。燃料を入れた様子はみられなかったので、お爺様に聞いてみることに。
お爺様に聞いてみると
「こいつに燃料はいらねぇんだ。魔力を燃料の代わりにしてるからな」
とのこと。 どうやら魔高炉という名前の特殊な高炉のようで、魔力を消費する代わりに燃料は必要とせず、温度設定も容易なんだとか。
炉も十分に温まり、部屋には肌が焼けるような空気が充満するなか。今まで静だったお爺様が唐突に口を開きました。
「それじゃあ、嬢ちゃんに二つ目の頼み事だ。
今から俺が剣を一本打つ。嬢ちゃんにはその間鍛冶の手伝いをしてもらおう」
「分かりました」
何事も、全ては見て覚えるのですね。
お爺様はその後私に炉に魔力を注ぐ役を任せ、剣を打ち始めました。
このゲームにおける鍛冶は、現実の鍛冶ほど難しくありません。
武器の能力を決めるのは大別して四つ。
一つは燃料。
一つは武器の材料となる素材。
一つは設備。
そして最後の一つは叩く回数。
この最後の一つの〝叩く回数〟というのが曲者で、多く叩けば多く叩くほど良いというわけでは無いようで。素材によっては叩きすぎると粗悪な物が出来上がるとか。
お爺様は時折「もう少し火力を上げろ」だとか「水」だとか「少し火力を下げてくれ」だとか口数少なく喋るだけで、工房には静かな時間が流れていきます。
聞こえるのは槌が鉄を打つ音一つだけ。
一定のリズムで降り下ろされ、奏でられる。お爺様の槌の音だけが、延々と工房に木霊するのでした。
そして、最後の工程が終わります。
「出来たぞ」
お爺様の声で我に返ります。軽くトランス状態でした。
「見てみると良い」
そうお爺様が差し出してきた剣は、片手剣。
鉄剣【片手剣】
効果:STR+20
追加効果:攻撃力強化
破格。
その一言に尽きます。今日一日街を見て回って確認した武器でも、鉄で出来た剣は最高値でも精々がSTR+13を上回れば良いところ。加えてお爺様の剣に至っては追加効果まで付与されています。
◇─クエスト:見とり稽古
─ クリアしました。
「さあ、次はお前さんの番だ」
お爺様の呼び方が、いつの間にか嬢ちゃんでは無くなっています。
「よろしくお願いします」
その後私は鉄鉱石を炉で溶かしインゴットにし、出来たインゴットを二つ使って大きめのの片手剣を作りました。
炉に入れ赤熱した鉄を叩き、熱が冷めてきたら再び炉に入れて鉄を熱する。炉に入れた鉄が柔らかくなってきたら、炉から取り出してもう一度叩く。
今が鉄を打ってからどれくらいの時間が経ったのかも分からなくなり、もう何度目になるかも分からない数の槌を降り下ろした時、カァンと一際良い音色が工房へと響きました。
お爺様に言われるままに剣身にヤスリをかけて磨き、手を加えていきます。
東【片手剣】
効果:STR+12
お爺様の剣にも、ましてや街で売られていた剣にも到底届かない数値ではありますが、初めて打ったにしては、中々に良い出来ではないでしょうか。
剣身は鈍い銀色で、光を真っ直ぐに弾き返しています。全体的に装飾は少なく、見たままの印象を言葉にすれば、質実剛健、といった感じでしょうか?
兎に角、良い出来だと思います。
「初めて打ったにしては良い出来じゃねぇか」
飾らない、お爺様の率直な感想が、とても嬉しかったです。
◇─【クエスト:老ドワーフの手解き】
─ クリアしました。
─【鍛冶】スキルの制限が一部解除されました。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、いってきます。お爺ちゃん」
「ああ。気を付けていけよ」
「はい!」
腰には、自作武器の〝東〟。
思っていた通り、鍛冶スキルを取得しているのであれば、対応する武器スキルを取得していなくても武器を装備することが出来ました。
これで、攻撃手段が一つ増えた事になります。
あとは、当面の目標は北の山脈でレベル上げ、もとい、山籠りです。午前中にセーフティエリアを見付けていましたから、そこを拠点にこれからの活動を始めましょう。
レッツ 山籠り ! です。
「…あれ? なにか忘れているような……」
なんでしょうか? 物凄く大切な用事を忘れているような……。
「あっ! 若菜ちゃん!!」
ていうか、もうこんな時間…!? 大変です! お夕飯の時間、とっくに過ぎてます…!?
どうしましょう…!? 若菜ちゃん怒ってるかも! いえ、若菜ちゃん絶対怒ってます…!?
「急いでログアウトしなくちゃ……!」
ひいぃっ~…! どうか、若菜ちゃんが怒っていませんように!
お願いします! 神様!!




