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Another Root Online  作者: 四葩
1/11

Root.>> 【1】


 高校のお昼休み、私は一人中庭へと足を運んでいます。

 今現在、外は雨が降っている状況なのですが、却ってその方がゆっくりお昼ご飯を食べられるかな、と考えてのことです。


 蛮行と呼ぶことなかれ。


 人とズレていることは、重々承知していますとも。

 寧ろ、人とは違う方向へと、自ら進んで突っ走って行ってる嫌いがあります。

 自分では、幼い頃より、幻想的で素晴らしい作品──ライトノベル──の数々を嗜んできた影響だと思っています。


 そんな今の私を、私自身 は結構気に入っていたりします。


 しとしとと雨が降る中では、余り多くの音は聞こえません。

 空から落ちてくる雫に、音が吸収されてしまうからなのでしょうか。

 時折誰かの話し声が聞こえてくるぐらいで、それ以外は本当に静かなもの。

 ここからでは、動く人影一つ見付けることは出来ないでしょう。


 ……いえ、訂正します。

 見付けることができなかった、と言うべきでしょうか? 


「お姉ちゃん、み~っけ~!!」

「…ったく。 なんで、こんな所にいるのかねぇ…?」


 雨の降る中庭で、雨の届かない四阿。

 一人でお弁当を食べていた私へと近付いてくる二つの影があります。

 一つは、妹のもの。

 そして、もう一つは、私の幼馴染みのものです。


「若菜ちゃん、悠希くん、こんにちは。どうかしましたか?」


 口へと運んでいたお箸を一端戻し、二人を正面に見据えてから問い投げ掛けます。

 こんな天気なのだから誰も来ないだろう、という宛は、あっさりと外れてしまいました。


 それにしても……。

 二人の服の裾なんですが、なんだか、ほんの少しだけ濡れているような気がします。


「……もしかしなくても、探してました? メール貰えれば、返信しましたのに…」


 そうすれば、服も濡れずに済んだのでしょうか。


「んーん、気にしないで、お姉ちゃん。それよりも……お姉ちゃん、校内での情報端末の使用は、原則禁止だよ?」

「……? 知ってますよ?」


 校則は、入学した際に一通り目を通してありますから。

 それくらい、把握していますとも。


「ですから、人目のない場所で使えば良いんです」


 バレなければ問題ない、とは、誰の言葉だったでしょうか?

 ある意味、この世の真理だと思うのです。


「そう言うお前ら二人とも、いっつも何食わぬ顔で使ってるじゃん……。しかも、俺の目の前で……」

「悠希くんは、身内でしょう?」

「俺、一応生徒会長なんだけどなぁ……」


 悠希くんって、何かこう、いつもやる気なさげというか、眠そうというか。

 そんな雰囲気を身体から出してますよね。

 でも、その割には根は真面目なんですから、人間分からないものですね…。


 あら、話がだんだんと横道に逸れてしまっていますね。

 戻しましょう。


「それで、どうしたんですか? こんな雨の日に、わざわざ外に出てきて」

「……菖蒲が言えることじゃないだろうに……」


 悠希くんの発言は、いつまで経っても本筋へと戻れないので、黙殺します。

 異論は認めません。 ……ふふっ。


「んーっとねー… 明日のことについてちょっと話そうと思ってたのと、お姉ちゃんと一緒にお昼食べようかなー、って思って探してたんだ!」

「明日のこと、ですか?」


 明日のこと……明日のこと……あぁ、アレですか。


「取り合えず、先にご飯を食べてしまいましょう」


 二人が座れるようにと席を移動する。


「私お姉ちゃんのとーなりー!!」

「じゃあ、俺は正面で良いや」


 仲良きことは、良きことかな。

 皆で一緒にお昼を食べると、心なし、お弁当もさらに美味しく感じますね。


「お茶を飲む人はいませんか?」

「はーい!!」

「あったかいやつ?」

「はい、暖かいお茶ですよ。悠希くんも飲みますか?」

「じゃあ、貰う。くれ」

「はい……どうぞ。二人とも、火傷しないでくださいね」

「ん」

「分かった!」


 一服。

 夏とはいえ雨が降っていますから、暖かいお茶が美味しいです。


「それで、明日のことでしたよね」

「あぁ、そうだ。……お茶、ありがとな」

「どういたしまして」


 温かさが、心に染みますね。


「明日の土曜日のことなんだが、予定の時間を少し遅らせることはできないかと思ってな」

「遅らせる……ですか?」

「うん。お姉ちゃんには悪いんだけど、約束してた時間を、少ーしだけ遅らせて貰うことは出来ないかな?」


 約束って、確か……ゲーム開始の初日に、オープンと同時に遊ぼうって約束ですよね。


「それでしたら、構いませんよ?」

「本当に!? ありがとう、お姉ちゃん!!」


 この喜びよう、原因は若菜ちゃんの方でしたか。


「それで、遅らせて欲しい理由はなんだったんですか?」

「うっ……」


 やはり原因は若菜ちゃんにあるのでしょう。

 理由を訊ねた途端、目をそらされてしまいました。


 別に構わないのですが、せめて理由は聞かせて貰いたいものです。


「理由は、約束の時間帯に、若菜が友達と会う約束をしてたんだと」

「あら……」

「あーっ! 悠希さん、お姉ちゃんにバラしちゃダメー!?」


 若菜ちゃん、少し声が元気すぎませんか。

 もう少し声量を落として貰えると、お姉ちゃんは助かります。


 と、そんなことを考えていると、若菜ちゃんが勢いよく振り向いてきました。


「ごめんなさい、お姉ちゃん!! お姉ちゃんと遊ぶのが嫌って訳じゃないんだよ! ただ、その時は眠くて、お姉ちゃんや悠希さんとの約束を忘れてただけで……」


 ふむふむ。

 忘れてたとな。


「付け加えるとするなら、その時間帯以外には用事があって会えない友達がいるんだとさ」


 なるほど。

 説明してくれてありがとうございます、悠希くん。


「そういうことでしたら、お姉ちゃんは全然構いませんよ。若菜ちゃん、友達といっぱい遊んできてくださいね」


 友達とのお付き合いも大切てすからね。

 思いっきり遊んで、思いっきり楽しんできて貰いたいです。


「あ、ありがとう、お姉ちゃんーっ!!」


 ひし、と抱き付いてくる若菜ちゃん。

 優しく抱き返して、背中をぽんぽんとしてあげる。

 まったく、若菜ちゃんは大袈裟なんだから。


 ついでに頭もなでなで。


 ──あ、若菜ちゃんの髪の毛さらさらだ。……良いなぁ、お姉ちゃん、羨ましいな…。


「ただ……」

「ただ、なぁに? お姉ちゃん」


 悠希くんの方へと視線を送る。


「悠希くんはそれで良いんですか?」


 私だけならば何も問題は無いのですが、約束は、若菜ちゃんと悠希くんと私の三人で交わしたものなのです。

 必然、最後の一人である、悠希くんの意見も聞かなくてはならない訳で……


 さぁ、悠希くんとしては、そこのところはどうなのでしょうか?


「ん……? 俺か?」

「はい」

「俺なら、別にそれでも問題は無い。それは若菜にも既に伝えてある」


 あら、そうなんですか?


「そうですか……、良かったです」


 これで、憂慮は完全に取り除かれましたね。


「それじゃあ、若菜ちゃん。当日はお友達と心行くまで楽しんできてくださいね。……あ、あとそれから、もし良ければ、後でお姉ちゃんのこともお友達に紹介してくださいね?」

「うん! まっかせて! お姉ちゃん!!」


 悩み事が解決したからか、いつも通りの、晴れやかな笑顔を見せてくれました。


 やっぱり、若菜ちゃんは、笑っている方が可愛いですね。

 私の自慢の妹ですよ。


 ◆◆◆


 結局、話し合いの末、三人で遊ぶのは後日。折を見て連絡するということになりました。

 二人と合流するまでの間に、私はどれだけ強くなることが出来るでしょうか?


 とは言っても、私は別に、強さを目指すプレイスタイルではないのですけれどね。


 それでもやはり、頑張りたいものです。


「あ、そうそう!」


 ん…… 何か思い出したんでしょうか?


「当日は私いないから、お姉ちゃんと悠希さんの二人っきりだね!」

「まぁ、そうですね」

「おう」

「二人だけで先に遊んでも良いんじゃないっ?」


 んー……。

 熟考して色々と考えてみます。

 それでも、やはり……


「それはちょっと、止めておきましょうか」

「えー!? なんでー!?」


 何故、と聞かれても……。それは勿論、


「若菜ちゃんだけ仲間外れは嫌ですしね」

「えー? 私のことは、気にしなくて良いのにー…」

「一番最初は、三人一緒に遊びたいですからね」

「ん、そうだな…。 三人で初顔合わせしたときの、お楽しみ……ってことで」

「そうですね」

「んー…… うん、分かった! その時までに、絶対、二人よりも強くなってみせるんだからね!」

「ふははははー俺様には叶うまいー」

「悠希くん、声に全然覇気が籠っていませんよ」

「そうかぁ…」


 若菜ちゃんも、悠希くんも、それぞれやる気に満ち溢れています。


 悠希くんはパッと見ただけでは分かりませんが、口許が、いつもよりも少し緩んでいますからね。


 幼馴染みですこらね、私には分かりますよ。


 若菜ちゃんも、お星様みたいに目をキラッキラッに輝かせて。


 早く遊びたくて仕方が無いんですね。


 斯く言う私も、二人から見たら、子供のように目を輝かせているのでしょうか……? 


 ……ふふふっ。今から楽しみですねっ!


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