十一話
甲子園高校野球大会
山田工業高校は吉岡のほとんど一人の活躍で決勝まできていた
9回裏 0対0 ノーアウト
相手は大阪代表の難波通天閣高校
バッターは これまで5試合と今日の2打席 17打席連続敬遠をされてきた吉岡雄一郎だ
かつて星稜高校の松井秀喜が5打席連続敬遠をされたが 吉岡はそれをさらに上回る警戒をされていた
ピッチャーとしての吉岡は これまで相手チームを全て完全試合にしてきた 今日の難波通天閣高校もこれまで一塁を踏ませていなかった
吉岡はこれまでの試合を敬遠されるのを見込み トップバッターで一塁に出て 盗塁 盗塁 ホームスチールで一点とって勝ってきていた
一点とれば 勝てるので 次に敬遠されても無理して盗塁していなかった
しかし 今日の相手チームの難波通天閣高校の捕手の滝沢は高校屈指の強肩で 流石の吉岡も二回連続盗塁をしたが 二回とも二塁でさされていた
吉岡がバッターボックスに入るとキャッチャーの滝沢が立ちあがった
敬遠して一塁に出ても 自慢の強肩でさせる自信がある
すると 甲子園球場全体から 地響きとも思えるブーイングが上がった
「帰れ~ 帰れ~ !」
マウンド上の浅井は ロージンを手にとると 軽く肘で汗をぬぐった
(同じ高校生なんだ吉岡だって…くそぅ)
「卑怯もの~! 帰れ~!」
さらに地響きは大きくなった
難波通天閣高校の監督の深谷は補欠の原田に言った
「し…勝負だ! 浅井に伝令を伝えてこい!」
「監督っ マジっすか?」
「ああ マジもマジも 大マジよ 責任は俺が全てとる さあ行ってこい!」
「わ、わかりました監督っ ありがとうございます」
「… なにが ありがとうございます…だよ原田…」
深谷は呟いてマウンド上の浅井を見た
マウンド上の浅井はベンチの深谷に一礼すると バッターボックスの吉岡を睨み付けた
キャッチャーの滝沢が座ると 今までの地響きが嘘のように静まりかえった
浅井は大きく振りかぶると今大会で最高の球を投げた
すると吉岡は意外な行動をとった
セーフティバントだ!
守備は内外野とも吉岡シフトをとっていたので 吉岡は余裕で一塁セーフだった
ピッチャーの浅井は思った
(俺の球威で吉岡は絶対に抑えられないのはわかっている…今はコースが甘くいったので おそらくピンポン球みたいに場外だっただろう… なぜ…吉岡は…バントを)
次の打者の児玉の初球
吉岡は躊躇なく走った
盗塁成功
二球目 三塁盗塁成功
三球目
なんと ホームスチールだ




