西の門には奴がいる〜ハシビロコウはつぶやいた〜(前編)
地下鉄の駅から、大きな通りを南の方へ五分ほど歩くと、開園してから百年以上たつという動物園の西門にたどりつく。
そこのすぐそばにオイラは住んでいる。
オイラはハシビロコウ。
人間の中には失礼にも『怪鳥』と呼ぶやからがいるが、自分としては、この堂々とした容姿は結構気に入っている。
立ち上がると体長は1.2メートル。人間にそう引けは取らない。
大きな青灰色の翼を広げると、その幅2.5メートル。
王者たる風格をそなえているとオイラは思っている。
身体と比べると、かなり巨大な頭と、木靴のようなクチバシが特徴だ。
しかし、オイラの最大のチャームポイントは後頭部にある。
飾りのような羽がついているのだ。
これが、オイラの後ろ姿を、見事に印象付けている。
実は、オイラが暮らしているのはあくまで西門近くであって、正門のそばではない。
もっと立派な門が存在するらしい。
残念ながら自由に行き来することの出来ない身では、見ることはかなわないが。
とはいえ、この西門をわざわざ目指してやってくるお客もいると聞く。
このオイラにまず会うためにだ。
動物園の集客に一役買っていると自負している。
オイラを見た人間たちの感想は、
「本当に、動かないんだねぇ」
というものである。
そう、オイラは、動かない鳥として、人間たちには知られている。
別にオイラにとっては自然なことだ。
大体、この大きな身体でちょこまかと動いていては、獲物の魚が逃げてしまう。
こちらからすれば、人間は忙しく動き過ぎだ。
もっとゆったりとする方が楽だろうに。
食事の心配もなく、外敵に襲われることのない生活は気ままだが、やや退屈でもある。
こんな暮らしでは、ささやかな楽しみを見つけることが、非常に大切なこととなってくる。