魅惑の香り
カチャリとドアが開いて、一組の男女が部屋に入ってくる。そこは上質でも粗末でもなく、必要最低限に整えられたシンプルな作りをしていた。
「へえ、悪くない部屋だな」
黒いコートを身に纏った黒髪の男が、部屋をぐるりと見回して言う。彼はどっかりと椅子に腰掛け、愛用している大鎌の手入れを始めた。
「見てみりん、エリック。このベッド柔らかくて気持ちいいに~」
ばふっとダブルベッドに倒れ込んで、茶髪の女性は言う。エリックと呼ばれた男は彼女を見てふっと笑った。
「サンティ、子供みたいだぞ」
「そうかやぁ?」
ほほえましそうに見つめるリックを見返して、サンティと呼ばれた女性は楽しそうに笑う。手持ちぶさたなのもあって、彼女は部屋を面白い物がないかと見回していた。
そんな彼女の目に、花瓶に飾られた花が映る。サンティは近づいてよく眺めてみた。青いガラスに飾られたそれは、存在を主張するように誇らしげに咲いている。しかも、こっちを向けと言わんばかりに甘い香りを漂わせていた。サンティはその香りを胸一杯吸い込んでみる。
「ん~、いい匂い……」
サンティは鼻を近づけて、恍惚の表情で匂いをかぎ続けている。そして力が抜けたようにぺたりとベッドの上に座り込んだ。そんな彼女の様子に気付き、エリックは作業の手を止めた。
「サンティ?」
名前を呼んでも返事をせず、どこか浮ついた様子で呆けているだけ。エリックは鎌を置くと、彼女のそばに腰を下ろした。
「大丈夫か?」
頬に手を当てて自分の方を向かせ、彼女の顔をのぞき込む。サンティはとろんとした目をしていた。甘ったるい息を吐いてエリックの胸にすがりつく。エリックはだまって彼女を抱きしめた。
「んふふ、エリックの匂い……」
サンティは嬉しそうに鼻を彼の胸に押しつけ、匂いを嗅いでいる。それがくすぐったくもあり、エリックは困ったように微笑んだ。
「どうしたんだよ。今日はやけに甘えん坊じゃないか」
彼女の好きなようにしてやりながら、エリックは抱きしめた手でその背中を撫でてやる。と、ふぁさりと何かが彼の膝に触れた。見れば、ふさふさの尻尾が彼女のおしりから出ているのだった。さらにはいつの間にか彼女の髪は白み、そこから同じ色の三角に尖った耳がのぞいている。
「サンティ、変身しかけてるぞ」
「はうっ!?」
エリックがそう言いながら尻尾を掴めば、サンティは驚いて声を上げた。ぶわっと毛を逆立て、びくびくと体を震わせている。彼女の頬は恥ずかしさで赤く染まっていた。そんな姿が可愛らしくて、エリックは彼女ののど元を、まるで動物を可愛がるように撫でる。サンティはぴくりと耳を動かしたが、嫌がるそぶりはなかった。むしろ、気持ちいいのかうっとりと目を細めている。エリックはのど元を撫でながら、今度は狼の耳の裏を掻いてやった。
「は、あっ……」
サンティの口から熱い吐息が漏れた。そして、完全に力が抜けてしまったのかエリックに倒れ込む。彼の膝の上に寝転んで、気持ちよさげにリラックスしている。そのあまりにも無防備な姿に、エリックは沸き立つ。安心しきったその顔がどんな風に乱れるのか。それを想像してしまうと押さえつけるのは難しかった。
耳の裏を掻いてやりながら、エリックはもう一方の手を下へするりと動かす。着ているズボン越しに、彼女の内股をそっと撫でた。
「んっ…!」
びくりと体を震わせてサンティはさらに顔を赤くさせた。その反応がいつになく扇情的で、エリックはくっと笑う。
「ずいぶん敏感になってるみたいじゃねえか」
言いながら、エリックは彼女の足をさすり続ける。サンティは肩を上下させ、気持ちよさと恥ずかしさで浅い息を吐き出した。どうにもならないのか、エリックの膝にいつもより鋭くなった爪を立てる。そのねだるような視線を受けて、エリックはやや乱暴にサンティを膝の上から下ろした。ばさり、と白い髪の毛が敷布の上に乱れる。呆然と見上げる彼女の上に、エリックはぐいっと覆い被さった。
「誘ったのはお前の方だからな」
そう言って、エリックはサンティの唇に深い口づけを落とした。