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封じの姫と地の獣  作者: rit.
一章
9/33

夢の話

 なにから、話せばいいかな。

 とにかく、男を殺す夢なの。

 空には真っ赤な三日月がかかっていて、ニヤリと笑っているみたい。

 空気は生暖かく湿っていて、嵐の前のような風が吹いてるんだ。

 膝くらいまである草原の中で、私は男と向い合って立っている。

 男は闇色の髪と月の色の瞳をしていて、私をじっと見下ろしているの。

 私は獣封じの太刀を手にして立ち尽くしていて、少しだけ途方に暮れている。

 男を殺さなきゃとわかっているのに、どうしてもそうすることができなくて、じっとしているの。


 ――なんで、男を殺さないといけないの?


 わからない。


 ――男が嫌いだったとか……?


 それはないと思う。

 だって、私は泣いてるの。

 ごめんなさいって思ってる。

 私を助けたばっかりに、こんなことになってごめんなさいって。

 そればっかりを思ってる。


 あんまり時間はたっていないと思うんだけど、私にはいつも気が遠くなるくらいの時間が流れて。

 びょうびょうとふく風の中に、笛の音を聞いて、いつもはっと我に返るの。

 ああ、見張られてるんだ。

 このまま立ち尽くしていても、どうにもならないんだって。

 諦めたように思うんだ。


 ――見張られている? だれに?


 逃げ切ることができなかった、なにか。

 私は逆らえなくて。

 笛の音に押されるようにして、獣封じの太刀を彼の胸に突き立てるんだ。

 避けようと思えば避けられたはずなのに、かれは……

 かれはすこし寂しそうに笑って、避けることさえしないで。

 ただ私に貫かれるの。

 怒ることも、悲しむこともしないで、ただ少しだけ寂しそうにして。

 私を見ている。


「あけいろ」


 そうっとそうっと静かに私をそう呼んで。


「ばかだな……」


 ただそれだけを口にする。

 傷口から溢れる血が、地面をぬかるませるほどに、こぼれて。

 男はゆっくりとくずおれていくの。

 くずおれて、たおれて。

 最後はゆっくり、砂になる。

 さらさらくずれて。こわれて。風に運ばれて。

 あとには、もうなにも。のこってなかった。

 気づけば、笛の音も。

 いつのまにか消えていて。

 太刀を片手に私はただ立ち尽くしているの。

 ずっと。ずうっと。日が昇って、また沈んでも、立ち尽くしているの。

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