目が覚めて、のち。
ながい、ながい夢を。
見ていた気がした。
頭の奥がズキリと傷んで、視界がうるむようにぼやけている。
熱から覚めた直後のように、瞬きをすれば涙が滲んで、視界が少し澄んだ。
「起きたの、日彩?」
汚れのシミがある、見覚えのある天井。
横合いからかかった声は、聞き覚えのある声。
思考が軋むようにゆっくりと回り出す。
ここは、私の部屋。一緒に寝起きしてる、夕那の声。
「わたし……?」
ぼんやりと、自分を認識する。
私は、日彩。狩り師として、先日訓練生を卒業て、ようやっと狩り師をなのれるようになって。
由良師範と、初任務をこなすために、御山へとでかけて……?
「日彩は倒れたんだよ。由良師範が連れて帰って下さったの。具合悪かったんなら朝出かける前にいいなよ」
「たおれた?」
「そうだよ。由良師範も呆れてらしたよ? 任務に熱心なのはいいけれど、自分の体調も見極められないのは任務の失敗にも繋がるから次回からは気をつけるようにって」
身体を起こせば、額から半乾きの布が滑り落ちる。
「熱があったからかわかんないけど、随分うなされてたよ。変な夢でもみたの?」
ゆめは、みた気がする。
でも、たしかにそこに夢をみた記憶があるのに、手を伸ばせばかすんで遠くなっていくようだ。
ほろほろと形が溶けて、あとには何も残らない。その残滓さえ――
「あんた、最近変な夢よくみるのねぇ。夜中によく飛び起きてるみたいだし、悩み事でもあんの?」
変な夢……
へんなゆめは、みてる。
男を殺す夢。赤い月の下で、私は泣いていて。
ぼんやりといつの間にかまた、夢を追っていたらしい。
大げさなため息に視線を上げれば、夕那がしかめ面ををして私を見下ろしていた。
「あたしの話聞いてる?」
「……ごめん。ぼうっとしてた」
「あんたがいつもぼけっとしてるのは知ってるけどさぁ」
夕那はもうひとつ大仰なため息をこぼして、乱暴に私の寝台に腰を下ろした。
「いくらあたしでも、由良師範にあんたが担ぎ込まれてくるとびびるわけ。仕事で間抜けをやらかして、怪我でもしたのかと思うわけよー。まぁもっとも? そんなひどい怪我なら、部屋のほうじゃなくて治療室のほうに担ぎ込まれるとは思うけどねー」
「心配してくれたんだ」
「びびっただけよ」
ふん、と鼻をならして夕那は短い髪をかきあげる。
それから、ちらりと私の方へ視線を寄越した。
「ね、その夢、はなしてみない?」
「え?」
「夢解きって知ってるでしょ?」
夕那の目がなんだかきらきらしているような気がする。
「私達の夢はね、闇の女神の見ている世界のカケラでもあるんだよ? うまく読み解けば、過去や未来も見通せるし、自分の内面や悩みが顕在化してることだってあるんだから」
「それは知ってるけど……」
そういえばと、夕那が夢解き師におおいに興味を持っていたことを思い出す。
本業は私と同じ狩り師の見習いだけど、たしか自己流で夢を解いたりもするらしい。
獲物を前にしたような、猫のようにきらきらとしたその瞳。
狙われてる……と思った。
いい勉強材料くらいに、おもわれているのかもしれない。
「……わかったよ。話すよ」
ここで拒否をしたところで、夕那は結構執念深い。
あの手この手で聞き出そうとしてくるのは目に見えているし、結局根負けして最終的に夕那の思惑通りにことが運ぶのはいつものことだ。こういう場合は最初から協力をしておいたほうが、あとから面倒ではないのである。
私が降参の意をしめすと、夕那のひとみが一層キラキラと輝いた、気がした。




