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封じの姫と地の獣  作者: rit.
二章
27/33

相互理解を放棄すること。

「わかってない。絶対に、わかってない」


 思わず眉間に皺を寄せて、私は断言していた。


「絶対に、あんたはわかってない」

「……わかっている」

「いいや、わかってない。絶対に!わかってない。わかってるとは思ってない」


 男を指さしまくし立てると、男は口を曲げて黙り込んだ。


「いい? 私は、あんたの名前なんて知らなかったし、あんたの名前なんて呼んでないし、あんたが探してるアケイロってひとでもないの。わかる?」


 初対面に近いこの男との距離感がいまいちわからない。

 大概失礼な物の言い方だと思わなくはないのだが、これくらいの暴挙はなんとなくだが、許される気がしていた。初対面にしては、馴染みやすい空気とでも言うのだろうか。

 まぁ今更。散々名を呼んだの呼ばないので揉めた後で、おまけに勘違いの抱擁つきで、気をつかうの失礼だの気にしてもしょうがないというのが、おそらく正直なところなのだろうが。

 少なからず、私は男の対応にイライラしていたのだし。


 私の言葉に、男は少しばかり考えこむ素振りを見せた。

 やっとわかってくれたのだろうか?

 私が、自分の探し人とはちがうということを。

 わかってくれたのなら、まくしたてた甲斐もあったというものだ。


「今のおまえは日彩と言うのだろ? おまえはあけいろではない。だが、おまえがおれの名を口にしたのは確かで、おまえがそれを知らないというのなら、おまえではなくあけいろが呼んだのだろう」


 

 けれど。

 ほっとして、息をついた私に、男が告げてくれた言葉は、まったくもって何もわかっていない証明のような台詞だった。


 私はさらにわかってないとまくし立てようとして、息を吸い。

 数瞬後、諦めてすった息を吐き出した。


 どうやら男の脳内には独自の思考形態があるらしい。

 常人の斜め上を行っているのはまず間違いなさそうだ。

 男に言いたいことは山程あるが、少なくとも、男に自分が探し人ではないと納得させられるだけの自信はなかったし、仮に納得させられるとしても、膨大なる時間がかかることはまず間違いが無さそうだ。


 これから、どの程度のかかわり合いができるかさえわからないこの男に、はたしてそこまでの時間を割く必要性があるのだろうか?


 自問自答の結果、ない、という答えにたどり着いた私は、男と対話するのを諦めたのである。

 私が自分の探し人であると信じているぽいこの男は、おそらく私と接触を持とうとしてくると思うけれど、私だって獣狩り師の端くれだ。任務を受ければ、様々な地方に依頼をこなしに出ていく必要性があるし、「朱色」は基本関係者以外立入禁止ということになっている。

 この都にいる時だけ、気をつけて避けていれば、そこまで関わりあいにはならない相手だとも思われた。


 私をみつめたまま、私の言葉を待っているだろう男に視線を据えて、私はゆっくりと口を開いた。


「日彩……」

「……私、帰る」


 男が一瞬ぽかんと呆けた隙に、私はくるりときびすを返して歩き始めた。

 ここで振り返ったら負け。

 なぜだかそんなことを、心のなかで固く信じていた。

 

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