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封じの姫と地の獣  作者: rit.
二章
25/33

夢の話の認識を改めること。

 アケイロ。

 男は、たしかにそう言った。


 アケイロ。朱色(あけいろ)――私達が日々過ごす、獣狩り師の養成機関。

 または。

 獣狩り師の別称だ。


 でも、思う。

 男が口にしたアケイロの言葉は、そのどちらでもない。そんな気がする。

 心が苦しくなるほどの、思慕の情を込めて。

 哀しくなるほどの、愛情をにじませて。

 私を抱きしめる、腕が震える。


 誰を、想って呼んだのだろうか。


「……ごめんなさい」


 こんなにも、誰かを想い。

 こんなにも、誰かを乞うて。

 こんな感情を、私は知らない。自分がそうなったことも、向けられたこともない。


 だから思わず、私はそんなふうにつぶやいていた。

 だって、私はこんなにも切ない、この男のことを知りはしない。

 つまりこんな状況に陥っているのは男の勘違いで、絶対的に私は悪くないのだけれど。

 その勘違いを正すということは男の切ないまでのこの想いを間違いですよと情け容赦なく砕く行為で。

 ごめんなさいと言わずにはいられない罪悪感が募る。


「あけいろ……」


 男の胸を少し押すと、男はびくりと身をすくめて、ゆっくりと腕をほどいた。

 夢でみた時よりも、苦しそうな表情を浮かべて、ただ私を見ている。


「……そんな表情(かお)をするなよ」


 一歩後に下がって、私から離した手を、所在無さげに握り締める。

 視線を落として、苦い息を吐き出した。


「悪かったよ」


 違いますよ、と男の勘違いを正す機会を、私はどうやら失ってしまったらしい。

 口を開きかける直前に、男はそう謝罪の言葉を口にした。

 最初は威圧的。夢の話をしたあたりから様子がおかしくなって、いきなりの抱擁。そして今は、なぜだか泣きそうな顔つきをしている。



「けど、死んでしまった人間にまた会えるなんて、欠片ほども思ってなかったからつい」


 なんの話だ、と思うのだが。

 男は至って真面目な様子だ。

 いやそれよりも、この男の勘違いの流れを断ち切るにはどうしたらいいのか。

 あなたがいう『あけいろ』は、私のことじゃないと、言いたいのはただそれだけなのに。

 いやいやそれよりも。『死んでしまった人間に』ていうのはどういうことだろう。


 混乱のまま口を開くと変な言葉を口走りそうだ。

 ここはゆっくりと冷静に考えよう。

 男が明らかに様子がおかしくなったのは、いつだ。

 私が夢の話をしてからだ。

 そうしたら、男は私を抱きしめにかかってきて、私のことを『あけいろ』なんて呼んだんだ。


 つまり?

 私にとっての夢は、男にとっては夢でなかったということか?

 ……要するに。

 夕那が主張するように、私の夢はただの夢ではなかったということだろうか。

日彩視点でさえなければ、ここはもっと切ない場面になっていたはず……なのですが。

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