夢の話が誤解を呼んだらしいこと
私は、男をじっと見つめた。
男は、ただ私の言葉を待っている。
にわかには信じがたいというような、むずかしい顔つきは変わらないけれど。
私だって、自分で振った話題といえど「夢で会ったの、あなたと」なんてことを言われれば、まず相手が正気かどうかを疑うところからはじめるだろう。
それを思えば、この男のこの態度は、私が予想していたよりもいくらか誠実だってことにはならないだろうか?
少なくとも、私が傷つくほどのやり方で変な人認定はまだしてくれていないのだから。
「……助けてやろうかって言われる夢も見たことがあるわ」
だから、教えることにした。夢のこと。
まぁ、夢というか、白昼夢というか。妄想な気がしないでもないけれど。
思えば思うほど、あれは。
へんなあの夢のことばかりを考えていたから、おかしな方向に想像力がたくましくなったとしか思えない。
「夜、屋敷が燃えていて、呆然としてる私に、あなた似の誰かが言うのよ。面倒くさそうに」
私は、信じてるわけじゃない。
夕那のように、これが過去にあった事実だと。
だって、ねぇ?
信じられないでしょ?
そして、今度こそ本当に言葉を失った男に、私はそんな言葉を含んだ視線を投げかける。
信じられるわけがない。
私だって信じられないもの。
「……ほんとう、なのか」
かすれた、声音。
男からの問いかけに、私は片眉だけをあげてみせた。
夢を見たのは本当だけど、そこまで衝撃を受けることかしら?
夢なんてものはそもそもが不可解な起承転結を遂げるものだ。
男は結構な美形だし、私が覚えていないだけで、どこかでその顔を見たことがあるのかもしれない。
その顔が夢のなかにでてきたとて、別に不思議はない気がする。
もっとも。
偶然として片付けるにはちょっとムリがある展開だとは思わないでもないけれど。
でもまぁ、嘘はついていないし。
夢を見たのは本当だもの。
私は少し肩をすくめて肯定の意を示してみせる。
その瞬間。男の表情が崩れた。
崩れても美形は美形、お得なのねと、まったく状況に合わない感想を抱いたのはもしかすると現実逃避なのかもしれない。
男が、私との間にあった数歩の距離を一気に詰めて、腕を伸ばす。
なに、と思った時には。
男の顔が妙に至近距離にあって、ついで視界が黒い色でうめつくされた。
「……アケイロ?」
震える声音が、すぐ耳元で聞こえた。
抱きすくめられているのだと、気がついたのは。それより数瞬は後のこと――




